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目には目を歯には歯を、ってよぉ、目にはってとこはわかるけどよぉ、歯ほりってどういう意味だぁ!

「河上先生、あの、えと....、武内くんの行いは決して容易に許されることではないと思います。ですが、その、.死んだほうがいいというのは、いくらなんでも言い過ぎではないでしょうか。」

新藤は引き攣った顔を懸命に誤魔化しながら、河上の様子を探るように慎重に言葉を選んでいるように見えた。新藤は教員になって初めて3年生を請け負ったと、自己紹介の時に話していた。さぞかし嬉しかったのだろう。大丈夫かー、しっかりしてくれよー、などといった生徒からの茶化しにも満面の笑みでノリツッコミを入れていたほどだ。だが、今にも窒息しそうなほど緊張している新藤を見ていると、教師になっても縦の社会から逃れることはできないのだと、意識していないところで失望した。


「そうですね。新藤先生の言う通りです。」

新藤とは対照的にノータイムで返答をする河上は、いつもの優しそうな温厚な教師に戻っていた。それにほっとしたのか新藤は目に見えて肩の位置が下がっている。

「武内君の行いに対する処置、罰則は既に決定されています。だから、私の発言は、誰にも認められていない。私個人の発言として、それが適切なものではないということは私自身、わかっているつもりです。」

俯き、独白のように憂いを帯びた声は、どこか懺悔のようだった。

「なら、私の鬱憤は誰に晴らせばいいんでしょうね。新藤先生。」

「....それは、その...」


 新藤は口をパクパクしながら色々と考えていたようだが、何も答えることができなかった。友人同士でするような他愛のない会話が、頭のいい人間が質問の形を取るだけで難問に早変わりだ。揚げ足を取ろうとも、新藤を試すような素振りも無い。純粋な期待を向けられているように見える。だが、気の毒だ。話の通じない畜生よりも、優しくて頼りになる上司に失望される方が辛いに決まっている。


「すまない。私の意地が悪かったね。でも、最近思うんだよ。目には目を歯には歯を、とまでは言わなくてもさ、恨み節くらいは気持ちよく吐かせてほしいなっていうかさ、受け取ってほしいなって。だってさ、おかしいと思わないかい。鬱憤の発生源がすぐそばにいるのに、それを開放することなく何の罪もない友人や家族や恋人に愚痴として吐き出すしかないなんて。文字通り、愚かだよね。」

「えっと、そうですね。あはは...。」

...明日には河上が新藤の愚痴になっているんじゃないだろうか。そうして新藤が愚か者になるのではないだろうか。可哀想に。


「まぁ、そういう輩には何を言っても無駄な場合がほとんどだから、まともな人間はそうしないんだろうね。ほんと、出来る事なら私も狂っていたかったな。私も人前で大声で怒鳴ったり、胸倉掴んだり人格否定してみたかった。」

...十分狂ってるよ。あんた。


「という経緯で今後、鬱憤を愚痴にしないた...、今後このような失敗を繰り返さないために。武内君とは定期的に面会をしていくことにします。予定では二週間に一回。改善しないようであれば週に一回。新藤先生も、よろしいですか?」

「私は大丈夫です。」

話が一段落ついて新藤は落ち着きを取り戻していた。いつもの真面目で誠実で堅苦しい感じに戻っていた。


 愚痴の発生源を潰すため、とか言っていたが恐らく上からの注文なのだろう。これ以上問題を大きくしたくないとか、何かあった時に言い逃れができるように。今日はついカッっとなって手を出してしまったが、今後余程のことがなければ手が出ることは無いだろう。一ヶ月もすれば解放されるはずだ。

「はい。自分も大丈夫です。」


「よろしい。それでは今週は私が時間無いので、今から面談を始めますねー。」

...こいつ、鬱憤晴らしたいだけじゃねぇか。

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