幕間:闘争が本当の本能で本望でBOUSOU!
午後16時02分。部活動に励む者たちは教室を飛び出し、暇な輩は駄弁に浸る。言わば学生生活の1つの分岐点だ。何かに励み打ち込むのも、気の知れた仲間と堕落するのも、紛れもなく人の生だ。残る物があろうが無かろうが、そこに善し悪しや優劣はない。その時間に価値をつけるのは、もう少し後のことだから。
カバンからプラスチックのケースを2つ取り出し、1つを自分の後ろポケットに突っ込んだ。
「はい。これ。」
「...なんで?」
明は訝しげに差し出されたプラケースを見つめていた。
「付けた方が面白いかなって。ダメ?」
「...まぁ、絵面はおもろいかもな。」
つまらなそうな顔で明は言った。まじか、と聞こえた気がするが気にするな。幻聴だ。妖精さんの仕業だ。
「でしょー。」
「...ちょっとでかくねぇか?これ?」
「そう?俺はこのくらいが好み。」
「...まぁ、別にいいけどさ。」
渋々、明はプラケースを受け取った。
「さてと。準備も完了したところで、行きますかー。」
肩掛けが千切れかけている馴染みのリュックサックを背負う。この慣れ親しんだリュックサックは、戦場まで連れていく。それと、ここにはもう戻らない。奴と決着をつける。その時まで...。
「おー。」
明はスクールバッグを軽々と持ち上げて、気怠そうに返事をした。なぜそんなにルーズなんだ。これから決戦の地へと向かうところだというのに。もう少し気合を入れてだなぁ。
「なぁ、作戦とかねぇの?」
...ッ!作戦、だと!
「...そうだよな。期待した俺が馬鹿だったか。」
盲点だった。遠足気分だったのは、俺の方だった。そういうことか。
「...でもさ、」
「ん?」
「俺達が作戦通りに動けると思う?」
何か決定的な根拠はないが、普通に作戦を忘れそうだ。
「...お前がいなければ、大丈夫かも。」
「...じゃあ無理だね」
以心伝心という言葉は、結論が見え透いている時に使うと効果的な言葉だと思う。心情は察してほしい。
「作戦とは言えなくてもさ、どうしたいか、みたいなのはあんだろ?さすがに。」
「...もちろんありますとも。」
よくぞ聞いてくれた。だが、そんなものはとっくの昔に決まっているのだ。いつ如何なる場合であっても、俺の行動原理は、生きる指針は、たった1つ。
「楽しければ何でもいい。面白ければそれでいい。やりたいことを、やりたいように。自分のために、自分の好きに。誰の指図も受け付けない。自由な青春を全身で、全霊で謳歌しようじゃあないか!」
周囲の視線がちょっとばかしきついが、気分はすこぶる晴れやかだ。ああスッキリ!
「とりあえず、顔がうざい。あとなんか抽象的だし。答えになってない。もっとはっきり結論だけでいいから。」
...理不尽じゃね?
「...た、楽しんでこー。」
「さっきよりダメ。やり直し。」
...結論だけって言ったじゃん。注文通りの物を出したのに、味付けが気に入りません。やり直し。じゃねぇんだよ。てめえのおでこに書いとけ。私はキャラメル派ですってな。
...ところで、注文ってなんでしたっけ?
「...己が宿命を果たしに。-- 絆 -- 」
「...さっきから意味が分からんのだけど。やっぱり後遺症あるんんじゃねぇの?」
......
「まずは、お前から、血祭りだあぁぁぁ!」
隙を付いて明を羽交い締めにした。身長と体重が近しいからそこまで苦ではない。流石に言い過ぎだという自覚はあるが、チャ〇ズみたいにならなくて良かった。
「この、何すんだッ、急に逆切れすんな!」
「逆切れじゃねぇんだわ。てめぇが難癖つけて中々話が進まねぇから、殺すことにしたんじゃこのアホがー!」
拘束を振りほどこうとして明が暴れだした。パワーが同じってのは噓かもしれない。強いわ。この子...。天才ってやつかしら。
「難癖なんかつけてねぇだろ。具体的にどんなことするか教えろって最初から言ってんだろ!」
「そんなこと言ってねぇわ!もっとフワッとしたもんだと思ってたわ!副詞?だかなんだかが抜けてんだわ!テレパシーしてんだわ!頭通信基地なんだわ!」
明を抑えるのも段々きつくなってきた。てか、本当に力強いなこいつ...!
「そんなのッ!お前がッ!確認すれば、良かった話じゃねぇか!どういうことかわからなかったなら、もう一度聞いてくださいって、先生から教わらなかったかぁ!あぁ、そうか!お前授業で寝てばっかだから聞いたことないか!難しいこと言って悪かったな!次は日本語修行中の外国人に話す想定で喋ってやるよ!この頭トンカチ!」
「お、お前、ろくな先輩にならんぞ!自分の説明不足を俺のせいにしやがって!あとうすらトンカチと頭でっかちが混ざってんじゃボケ!」
「そ、それはちょっと間違えただけだし!ていうか、具体案まじで1つもねぇのかよ!」
「...だから!最初からそう言ってんでしょうが!」
「そんなの。信じられるわけないだろうが!」
その後も、俺達は互いを激しく罵倒した。方向性の違い(大体白が悪い)から起きた争いは数分間に及び、疲れ切った俺達は話し合いで決着をつけた。お互いの主張をまとめた1つのルールを設け、それを遵守する。という形になった。
以下に条例を記す。
石英高校 明白平等条約
締結日 2025年 4月14日
第一条
「互いの尊厳と権利を十分に尊重し、互いの行動と精神の自由を認める。」
第二条
「以降の条件を満たした際に一条を承認する。あくまで個人的、当人同士の問題としての自覚を十分に持ち、他者への迷惑行為の一切を禁じる。「他者」とは周囲の人間らを指す。」
第三条
「やばくなったら殴る。やむなく他人を殴るのは、ナシよりのアリーヴェデルチ。」
以上、三条により清廉潔白なカチコミを成されたし。
...ルールが1つじゃないとか言うな。暴力反対とか言うな。全部まとめてから出直して来いとか言うな。やむなくぶっ飛ばすぞ。
....唐突だけどさ、三色団子とか七夕ゼリーとか三色の海鮮丼ってさ、3つのネタで1つの料理が完成するでしょ。3色で1つのシンボルになっている国旗だってあるし、三位一体、三千世界、三原色、これらの言葉からもわかるように、何かを体よくまとめるには「3」が必要なんだ。そこで、私は予言する。いつかこの世界は「3」によって治められるだろう。
...世界の支配者ナ〇アツ説やめろ。もう少し威厳が...。あ、いや。別にナ〇アツさんのことを威厳が無いって言ってるわけじゃ無いんだよ。「世界」のナ〇アツなんてさ、まさしく支配者に相応しい異名だよね。うん。いいじゃん。強そうじゃん。それにさ、どの口どの目線ではあるけれど、知名度があるのってすごいと思うんだよね。世界に自分のアイデンティティを示したってことだから。個を獲得したってことだから。ただ、それとは別にね。今は「3」を褒めようってところだからさ。彼は、その、あれじゃん。「3」に関連する言葉を発した途端に様子が変わるネタを、その、されているでしょ。それはちょっとさ、コンセプトに対してちょっとアングラ過ぎるかなって、思ってさ。でも、それもまた「3」の面白いところで、趣深いところだよね!わかって...くれるよね....。
とにかくだ。つまりだ。この世界は、3=1で出来ている。それだけは確かda...
え?
1/3×3=1?
ぶっ飛ばすぞ。