掃除の時間 きーんききんきんきんきんきーん。てけてけてんてんてん。て感じで、何も考えてません。
「お前、どうすんの?」
明はダルそうに箒を動かしながら聞いてきた。真面目に廊下掃除をする男子高校生なんて存在しない。廊下の端っこでそれらしい動きをしながら駄弁るのが、最近の日課だった。
「何の話?」
俺も無意味な振り子運動をしながら返答する。明にとっては考えるまでもないことを質問しているのだろうが、候補を絞るのが面倒くさくて質問を質問で返す。お前は、質問を質問で返すなーっ!と、言う!
「え?そんなの昼のことしかないだろ。怪我もそうだし、武内先輩だっけ?あの人のことも。」
「...あぁ、昼のことね。」
ジ〇セフごっこ、失敗しちゃった...。
「そう。見た感じ結構元気そうだけど。ほんとにお前大丈夫なの?後遺症とか記憶障害とか、そういうのはないわけ?早めに言わないと、後からどうなっても知らねぇぞ?」
滲みだす 友のツンデレ いとあはれ。地でやってんの?これ?
「う~ん。正直に言うと結構痛いよ。うん。口開けるだけで出来立てのかさぶたを剥がした時みたいなグロい痛みがする。でもまぁ、砂利道で思いっきり転んだとか、チャリ漕いでて下り坂でこけたとか、口内炎が3つ同時にできたとか、年イチくらいで味わうやつって感じかな。記憶もあるし、気絶したのは当たり所が良すぎただけって西野先生言ってたし、後遺症とかも多分大丈夫っしょ。」
「.....そうか。なら良いけど....。ていうかさ、そもそもあの先輩がやばいだろ。無視されたくらいで人を殴るやつがあるか。不良漫画じゃねぇんだよ...。それに、喋らねぇタイプなのかと思ったらさ、結構しっかり反論してくるし。あいつ性格悪すぎんだろ。」
確かに明の言う通りだけど、先輩のことをあいつ呼びは如何なものか。
「まぁ、先輩があれな人だって分かってたのに、神経を逆撫でするようなことした俺の落ち度でもある。ありがちな失敗でしょ。自業自得ってやつよ。」
「お前の思う不機嫌な人、暴力的過ぎないか?それに、正論が通じなかったら無視したくもなる...。てかさ、お前がもう少し被害者意識を持ってくれないと、こっちの調子が狂うんだけど。」
仕方ない奴だ、と顔が言っている。
「ごめん。でも、あれはちょっと違ったかなって。」
あの時、理由は覚えていないが、かなり気が立っていた。彼らが視界に入った途端に鬱陶しい連中がいると思ったくらいだ。だから、わからせてやりたかった。間違っているのはあんたらだと。その結果が、相手を無視するという、幼稚な行動に繋がってしまった。我ながら、酷く傲慢な動機だったと思う。
「じゃあ、殴られたことも、理不尽だったことも、全部水に流せんの?」
「いや。そうは言ってない。」
言動から、心配をかけたことがわかる。きっと、俺自身よりも。
教室に戻って、掃除用具入れから塵取りを取り出す。
「もしかして、なんか企んでる?」
「もちろん。」
塵取りをの角度を何度も変えながら塵芥を回収する。
「悪巧みか?」
「それ以外何があんのさ?バカなの?」
「なんだ。急に強気になったな。たかが、一発殴られたくらいで伸びてた、貧弱野郎がさぁ。」
取り切れないゴミを蹴散らす。文字通りに。貧弱?誰のことだよ。えぇ?
「うるせぇな。打ち所が悪かっただけだし。あんなの偶然だから。奇跡まぐれたまたまイカサマ。それに俺、筋トレしてっから。断じて、貧弱なんかじゃねぇから。」
「そっかぁ。当たり所が悪かっただけか。でもパクさんさぁ、昼も体調不良で保健室に行ったよね?貧弱すぎて、筋トレの効果がほとんど出てないんじゃないの?ぷぷぷ。」
「言ったなこのボケナスがぁ!ていうか、パクさんって呼ぶな!可愛くなっちゃうでしょうが!あぁ、もうキレた!武内の野郎より先に、まずはてめぇからのしてやる!勝負じゃ死合いじゃ合戦じゃぁぁぁ!」
「のしてやるって、パクさん。まじかっけぇっすw」
「...お前を殺す。」
デデン!
塵取りをゴミ箱に叩き付け、掃除箱に投げ飛ばし、HR前の空き時間を利用して教卓腕相撲で勝負をした。結果から言うと..俺は負けた。あだ名が「のしたんご」になった。正式には「貧弱なるのしたんご パクサーン」らしい。
悪巧みと作戦会議は漢のロマン。あえてHR中に実施することで面白さは倍増する。決して、何人たりとも、俺たちの悪巧みには気づかせねえ。そのスリリングが!俺たちの心臓を、脳を狂わせるのだぁ!アイコンタクトも許されない!情報漏洩は、切腹じゃあ!
「で、何すんの?」
「...聞いて驚け。この時代に、暴力反対言論闘争の現代で、俺は伝説のカチコミを、カチコミを...。ねぇ、カチコミの術語って何?」
「確か、カチコミをかける、とかじゃなかったっけ?」
「そうだっけ?なら、俺は伝説のカチコミを...」
「やり直すな。かっこ悪い。で、カチコミいつかけんの?」
「これが終わったらすぐ。」
「まじか。白のくせに張り切ってるじゃん。」
「白のくせにってなんだ。それに、俺はいつだって全力だぞ。まじで。」
「確かに。いつも最後の最後でポカしてぶっ壊すもんな。」
「やめて。俺もそれ結構気にしてるから。笑顔の裏では大粒の涙をボロボロ流してるから。その度にスキ〇スイッチに助けられてるから。全〇少年を馬鹿にするな。」
「アニメの主題歌くらいしか聞かないくせに偉そうなこと言うな。アホ。あと全〇少年は馬鹿にしてない。秋は、どうする?」
「僕はそういうの大丈夫。」
「りょーかい。それじゃぁ、俺達でやるしかねぇな。全〇少年。」
「おうよ。世界を開くのは、この俺じゃい。」
ここからが勝負だ。生かすも殺すもプラン次第。何を求め何を成すか。楽しみで仕方ない。
「...高橋、三上、てめぇら少し黙れ。」
「「...あ、すんません。」」
HRを締めようとしていた加藤先生に注意をされてしまった。びっくりした...脇から変な汗出たわ。
「あとカチコミはやめろ。めんどくせぇから。ってことで、俺は忠告したからな。やるなら自分で責任取れよ。」
「「...う、うぃ~す。」」
HRが終わった後、明の前席のサッカー部の韓国風イケメン谷垣さんから、驚愕の事実が告げられた。
「高橋、三上。HR中に話すのは別にいいけどさ、せめて、ひそひそ話くらいのボリュームにした方がいいと思うよ。結構ボリューム大きかったから。」
「え、あぁ、うん、ありがとう。谷垣さん。気を付けるよ。」
「あぁ、ごめんな。慎吾。気を付ける。」
なん、だと?それじゃあ俺が、俺達が舞い上がっていたみたいじゃぁないか。
「別に謝らなくてもいいよ。聞いてる分には面白いし。」
「そうか。ありがとう。笑われるのはお手の物。十八番なんで。ははは...。」
つまり、あれだ。全〇少年は、単独犯じゃなかったってことだ。そして、情報漏洩は切腹。我が生涯に、一片の、一片のぉ、アリクイ!!死ねません!死ぬまでは!