暗くて狭い。水槽の中で。
月曜日の七限は歴史の授業。担当教員は全生徒公認の厄介教師、田島忠夫。いつも通り教室には身動き一つ取れないような息苦しさがあった。田島が厄介教師と言われる所以は、調子がいい時の水飴のようなねっちょりとしたその性格にある。人の失敗や授業態度に厳しく、些細なことで非難される。だからこの時間は誰も余計なことをしない。
「なんでこんなことも憶えていない?ちゃんと復習したのか?...いや。まぁ、してないからこんなことになってんだよな。もういい。次。」
「.....授業に関係ないことをしてる奴がいるな。お前だよ。最後列左端のお前。後ろの席ならバレないと思ったか?視線でバレバレだぞ。他の先生方は優しくて良かったな。まぁ、授業の進行の妨げになるから放置していただけかもしれないが。ほら、黙ってないで机の中のもん出せ。.....俺のところまで持って来いって言ってんの。本当に、なんでこんな簡単なことがわからない。放課後、俺の所まで直接取りに来い。」
上記の例は、過去のデータを再現したものである。とまぁ、こんな雰囲気の中年教師が田島なのだ。そして田島は、毎年一年の生活指導を担当している。一年の苦行を耐えきった上級生からは、「人生トラウマ製造機一号」なんて、恐ろしくも不名誉なあだ名がつけられている。お察しの通り、生徒からの好感度は恐ろしく低い。だが、反比例して教師陣からの信頼は厚い。多分ダブルソフトくらいある。その証拠に、田島は生徒会の顧問を兼任している。そんなのありかよ、と思うかもしれないが、本当にあった怖い話なのである。おかげで生徒会には、一年の頃から田島の息が掛かった精鋭達が集結している。さながら生徒会が魔の巣窟、田島は魔王と言ったところだ。
いや、だってさ、生徒会のメンバーが口を揃えて言うんだよ。
「田島先生はすごい人だよ。尊敬してる。」
って...。怖くない?こんな地獄みたいな雰囲気の授業してる人のことを褒め称えるなんて。黒魔術でも使って洗脳されてんのかって疑わしいでしょ?
まぁ、だからと言ってヤバい施策があったり、必要以上に校則が厳しくなったりは、しないんだけど。
その時、イレギュラーが現れた。
「おいーっす。田島先生。遅れてすみません!」
「...おう。西野先生から話は聞いてるから。座れ。」
「うっす!」
狭苦しい水槽の中でも、純粋に楽しめる奴はいる。ほんの、ごく稀に。




