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イケメンだろうが容赦しない

最下位、それを聞いた二人が目の前で口をあんぐり開けて固まっている。

驚くのも無理はないか、最下位なんて登録したてのハンターと一緒だし

「さっ、最下位って・・・・まじでアッシュちゃん!?」

「しかも全部とは・・・。逆に驚きですね。」


俺はハンターになってから一度もダンジョンに入ったことが無い。

というか薬草採取以外の依頼すら受けたことが無い。

よって一度も自力でランキングを上げたことが無いんだ。

新人ハンターがランキングに登録されると一度は俺より下に入るけど

いつも一瞬で抜かれる・・・。


「だって、グスッ、ダンジョン・・・怖いんだもん。ぐすん。」


「アッシュ君はねぇ、昔からとっても器用で割と賢いんだけどぉ、とっても怖がり屋さんなのよねぇ。だから薬草採取しかしたことがないのよぉ。」

「あー!だからランキングがあがらないのか~!」

「なるほど、でも全適正なのにそれは少し勿体無い気もします。」


俺だって自分が全適正と知った時には震えたさ!

俺すげぇ!もしかして最強のハンターになれるんじゃないのか!?とか思ったさ!


でも・・・・全てはあの本のせいなんだ。

あの本のせいで俺は・・・


「アッシュ君はねぇ、ギルドが配布してるモンスター図鑑を読んでたら怖くなっちゃったみたいでねぇ、知識はあるのにダンジョンに行かないのよぉ。」

「モンスター図鑑!?そんなのあるの!?」

「それは私も初耳でした。」

「まぁ、あなた達は知らくても勝てちゃうものねぇ。」


モンスター図鑑を読んだ事が無いだと!?

ふざけんなこの天才共めっ!


モンスター図鑑

それはハンターがダンジョン攻略を行う際必読するアイテム。

俺が全適正だと知った時真っ先に手に入れたアイテムであり

俺に恐怖と絶望を与えるきっかけになったアイテムでもある。


あれは俺がハンターに登録した7年前、10歳の頃の話だ。


 7年前ギルドにて

俺がギルドカード発行とハンター登録の為の

適正検査を受け終えるとギルドはちょっとした騒ぎになっていた。

「凄えぇ!まさか全適正だって!?」

「そんな事あるのか!?信じらんねぇ!」

「おい、あの坊主の名前は!?」

「確か・・・そうだ!アッシュ!アッシュ・ウェインって言っていたぞ!」

「すげぇ、全適正のアッシュ・ウェインか!」

「いつかすげぇハンターになるんだろうなぁ・・・。」

そんなんで当時の俺は多くのハンターからしばらくの間ちやほやされていた。

中には将来のナンバーワンハンターになるなんていう人も居たりして注目度はだいぶ高かった。

俺も結構その気になっていたからダンジョン攻略に意欲的だったんだけど・・・あの本のせいで俺はダンジョンにいけなくなった。


たしかアレはギルド受付横の棚に置かれていて

俺はそれを手に取るとギルドの椅子に腰掛けて読み始めたんだ

「これがモンスター図鑑か。えーどれどれ・・・

魔蛇の洞穴のダンジョンボスであるブラッドスネークは全長20メートルで好物は人肉であるため人間を見つけると時速60キロのスピードで襲い掛かってくる。一度捕まったら最後、全身を締め付けられ骨を砕かれるとそのまま一気に丸のみにされる・・・。」


・・・うん。きっとこいつは強いボスなんだな。

まだ俺は初心者ハンター、もう少し優しめのところにしよう。


「えーっと次は、不帰(かえらず)の墓か。なになに、ダンジョンボス首狩り騎士は身長5メートル55センチで趣味は人の首を集めること、ボスエリアに侵入すると真っ先に首を狙って斬撃を放ってくる。その攻撃を避けると首を狩れなかった事に激怒し特殊強化状態に移行、名前が憤怒の騎士に変わり、攻撃力とスピードが2倍に上昇しその効果は30分持続する・・・。あと人肉好き。」


・・・うん。

こいつもまだ無理かな。

「さあ気を取り直して!次だ次!」


「えーっと次は、氷狼(ひょうろう)の洞窟。ダンジョン内はモンスターとボスが絶えず放出する冷気でマイナス50度以下になっている為、防寒対策が必須である。特に気を付けなければならないのがトイレ問題であり、男性が用を足すとたちまち凍り始めアレごと凍結し使いものにならなくなる。ダンジョンボスのダイヤモンドアイスウルフは強い、めちゃくちゃ。あと人肉好き。」


それから2、3時間くらいだろうか。

俺はぺらぺら本をめくり熟読していた。


そして一つの結論に至った。

「行けるダンジョン・・・無くね?」

全部のダンジョンとモンスターに目を通したが勝てそうな敵が一匹もいない。


ダンジョンってこんなんばっかなの!?

何かとボスはでかいし、人肉好き過ぎるし

こんなん俺一人でどうしろっていうんだよ!


「無理無理無理!」

こうしてダンジョンへの恐怖心を植え付けられた俺は

一度もダンジョンに行くこと無く、こっそりとブロントに移住し

モンスター狩りとは無縁の生活を送り始めた。


そして今に至る。


「でももう安心ねぇ。アーヤちゃんとシルフィちゃんが居ればアッシュ君も頑張れるわよねぇ。」

「任せてエレナさん!アーヤちゃんとシルでアッシュちゃんの面倒はちゃんとみてあげるからっ♡」

「私も、その・・・がっ、頑張ります!」


妙に意気込む2人、何がそんなに楽しいんだ

最下位の俺と組んだって何のメリットも無いだろうに。


すると、二人は不意に俺の傷を抉るのだ。

「でも何でアッシュちゃんの名前に聞き覚えがあったんだろ~?」

「確かに。アッシュさんの名前、私もどこかで聞いたことがあるんですよね。でもどこで聞いたのか思い出せなくて・・・。」

思い出さなくていいんだよお二人さん。

時に人は思い出すと不幸になる事だってあるんだ。


そんな思いも虚しく、エレナさんはにこにこしながら口を開いた。

この人意外と口軽いから簡単に俺のだっさい二つ名公表するんだろうな~と思っていたら

「あぁ、それはぁアッシュちゃんの二つ名が器用貧乏だからだと思うわぁ。」

ほらね。すぐ言う。

困った顔しながら言ったってただ可愛いだけだぞ。


まあいいさ、いまさらそんな事で傷つかないし

俺はとても気が長いんだ。


するとふたりは手をポンと叩き同時に、

「あー!貧乏アッシュ!」


そうそう貧乏・・・

ん?・・・貧乏アッシュ?

んん?なんか俺が知ってんのと違う!

「ちょぉい!まてまて!俺知らないうちにそんな呼ばれ方してんのか!?」


俺は立ち上がり気付いたら二人のランク1位の頭を鷲掴みにしながら前後に思いきり揺さぶっていた。

そしてなんでそんな呼ばれ方をしているのかと問いただしたところ…


どうやら、アーヤちゃん曰く俺はいつのまにか器用貧乏から貧乏に成り下がっていたらしい。

ハンターのくせに薬草採取しかしない貧乏人だとか

貧乏なうえに手作りの小屋に住んでるドブねずみだとか

いや合ってるけど何かムカつく!

ってかドブねずみ言った奴どいつだ!見つけ次第ぶっ飛ばしてやる!

俺はモンスターは苦手だけど人間相手なら容赦しねぇ!


とりあえず気が収まらないからこの二人の頭を揺らし続けよう

「落ち着いてアッシュちゃん!別にアーヤちゃんはそんな話気にしてないからっ!」

「そうですアッシュさん!だから手を放してくださいっ!」

「うるせぇ、離すもんか!俺だって色々ストレス溜まってんだ!

好き勝手言いやがって!おらおらおるぁぁあ!」

エレナさんが呆れた顔でこっちを見つめている

えー分かっていますとも、俺は最下位で最低な人間ですよ!

だが知った事か!俺だってやる時はやるんだ!


気が済むまで頭をぶんぶん振ってやろうと思っていた矢先、突然1人の男が割って入ってきた。

「おい!やめないか!」

男は俺の腕を掴むと2人の頭から引き離した。

「貴様、この2人を誰だと思っている!」

怒り心頭の男は転んで尻もちをつく2人の前に立つと片腕を広げ、あたかも二人を庇っているようなアクションをしている。

正義のヒーロー気取りか、気に食わんっ。

そういえばこいつ見覚えがあるぞ。

「なんですか。今取り込み中なんで邪魔しないで下さいよ。ランサーランキング2位、シュメールさん。」

そう、こいつはランサー2位のシュメール・ルメール。

高身長のイケメンで高価な防具と背中には聖槍ルヴェルを携えている。

こいつは光の速さで槍を扱うと言われ、ハンター達からは瞬槍(しゅんそう)と呼ばれている。

正義感が強く女性からの人気も高い、いけ好かない奴だ。


シュメールは髪をかき上げながら、

「ほう、僕の名前を知っていたか最下位の男よ。貴様如きがこのお二人と一緒に居るなど笑止千万!身の程を弁えろ!」


急に入ってきて何なんだこいつは。

あ~・・・・腹立つ。このイケメン。


「ランク1位の二人はこの僕、いずれランサーの頂点に立つシュメールがもらい受けよう!貴様のような雑魚はさっさと消え失せるがいい!」


髪をなびかせ白い歯を見せるイケメン

雑魚だとぉ・・・

自分の方がランクが上だからって調子に乗りやがってぇ・・・。


その瞬間、俺の中で切れてはいけない何かが切れる音がした。

すると俺は無意識に悪魔の笑みを浮かべていた。

「いやいや、急に出てきてそれは無いでしょ~。シュメール・・・トリさん。」


この一言にイケメンの笑みは一瞬で消え失せた

「きっ貴様!何故それを!」

妙に焦るランク2位。

ふふふっ。それもそのはず・・・

俺はこいつの弱みを握っている!

こいつが今まである嘘をギルドに隠したままハンターをしているのは知っているんだ!


そしてここからはずっと・・・俺のターンだ!

奥義!小指で片鼻をほじりながらランク2位を威圧する俺!

「あんれぇ~?いいのかな~?シュメールほにゃららさ~ん。俺の事貴様とか言っちゃって~。そういえばさっき俺を雑魚呼ばわりしていたよな~。そんなんじゃついうっかりシュメールさんの秘密を言っちゃいそうだなぁ~!」


「きっさまぁぁ・・・。ふざけた事をぉ・・・。」

赤面しながら充血するイケメン。

なんたる光景!なんたる僥倖っっ!


だが俺のターンは終わらない!

秘奥義!二本の小指で両鼻をほじりながらランク2位を威圧する俺!

「あ~。早く謝らないと俺にかけられた呪い・・・

そう、シュメールさんの本当のアレをついうっかり吐いちゃう呪いが発動しちゃうんですけどぉ~」


「くっ・・・。」

ついに膝に手をつくイケメン。

よし、このままの勢いでこいつに土下座をさせてしまおう。

公衆の面前で屈辱にも最下位に土下座をするイケメン、ほう、中々に悪くないシナリオだ。


そして俺は今イケメンの近くに移動しイケメンを見下ろしている

エレナさんのドン引きした視線が気にはなるが、んなもん知った事か!

俺を怒らすとどうなるか思い知らせてやる!

「ねぇ早く謝って~?俺に楯突いてすみませんでしたって謝って~?二度とこんなことしないって誓って~?ねぇねぇ・・・・早く言えやボケこるあぁぁぁ!」


手足をガクガク震わすイケメンは

よく見ると大量の鼻水を垂らしながら泣いていた。

さすがに少しやりすぎたか・・・

とか俺は思わない。人間相手なら俺は基本なんでもやる。


するとイケメンは

「お・・・覚えてろよぉ~!」

と、決まり文句を言って走り去ってしまった。


鼻をほじりながら男の情けない背中を見ていたら

なんだか心がスッキリしたので今日のところはこれでよしとしよう。


アーヤちゃんとシルは呆気にとられていたのかようやく立ち上がると

「アッシュちゃんすご~い!まさかあの人を追っ払っちゃうなんて♡」

「驚きました。あの人前々からしつこく言い寄ってきて困っていたんです。」


そうだったのか・・・。

「でも2人ともパーティ申請してたんだろ?だったらあいつと組むのもアリだったんじゃないのか?」

「いや~・・・それは。」

「ええ・・・やっぱり。」


すると2人は目を合わせ同時に

「ナルシストは嫌っ!!」だそうだ。


「やっぱりそうだよねぇ~!」

「ええ、当然です!女性にモテるのか知りませんが、何かあの人は僕の誘いを断る訳ないよね?みたいな感じですごく嫌です!ていうかただの女好きですよあの人!」

どうやらこの2人は慧眼らしい。


「でも嬉しかったなぁ~。アッシュちゃんがあそこまで怒ってくれるなんて♡」

「そうですね、私も感激してしまいました。」


ん?何を言っているんだこの2人は。

俺はただあのイケメンにムカついたから怒っていたんだが・・・。


すると二人は俺の両腕を抱きかかえ

「ありがとアッシュちゃん!パーティを守ってくれて♡」

「私からもありがとうです!とっても格好良かったです!」


どうやら二人には、俺があのイケメンからパーティを救った救世主に見えているらしい。

そんな目論見は無かったが、これはこれで気分がいいのでそういう事にしておこう。


「ところでアッシュちゃん、さっき言ってたシュメールの秘密って何なの?」

「確かに、気になりますね。あの人その話になったら態度が急変しましたし・・・もしかしてとても重要な秘密なのでは。」


あ~・・・。


シュメールの秘密、それはあいつが偽名でハンター登録をしている事だ。

あいつの本名はシュメール・ハットリ。

人里離れた森の奥にある一族の生まれだとか・・・。


自分のハットリという名前にコンプレックスを持っていて、未だギルドには内緒にしながらハンター活動をしている。

ともあれこれ以上あいつを貶めるような事をするのはさすがに気が引けたので・・・


「それは内緒!」

と、はぐらかし俺達はギルドを後にした。

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