ランキングは言いたくない
エルサリア国、この国にはハンターというモンスターを狩る者と、その者らの実績を反映したハンターランキングが存在する。
ハンターは主にセイバー、ランサー、シーフ、アーチャー、イグニス、エンチャンター、ヒーラーの7つの適正に分類される。
毎月1回月初めにギルド掲示板に出されるランキングが更新されランキング上位の者達はそれはそれは多くの人々から敬われた。
今日もまた掲示板に張り出されたランキングにハンター達が一喜一憂している。
「おい見ろよ!またセイバーランク1位は狂剣だ!」
アーヤ・フェルトリア。通称狂剣。
エルサリアでも随一の大剣使いでセイバー史上最年少でランキング1位に上りつめた天才セイバーだ。
小柄なうえ軽装しか身に付けないため一見シーフっぽいけど、彼女の扱う大剣ジャッジ・フォンベルクは超重量級の大剣で、一撃の破壊力で右に出る者はいないと言われている。
そんな超怖い剣をまるで小枝を振るかのようにぶんぶん振り回すとっても危ない人なので、人々は恐怖と畏怖を込め狂剣と呼ぶようになった。
「ねぇこっちも見て!イグニスもまた災姫がトップよ!」
シルフィ・アルファリア。通称災姫。
魔法師学術機関ファイナを当時8歳という若さで卒業した天才であり、同時にその膨大な魔法知識と常人離れした術式へのアプローチで限界突破領域といわれる第八階梯魔法イグニッションファイアの取得に唯一成功した存在だ。
ちなみにイグニスとは魔法師の中で最も火力の高い火炎魔法に強い適正を示したハンターで範囲の広い攻撃を多く扱う為ダンジョン攻略より荒野での集団戦なんかで活躍したりする人たちだ。
だが彼女は所かまわず最強範囲魔法のイグニッションファイアをぶっ放すため、恐怖と畏怖とその他もろもろを込め災害を呼ぶ姫、災姫と呼ばれるようになった。
「こっちもすげぇぞ!ついに淫影がシーフランク1位になりやがった!」
ルカ・ミニッツ。通称淫影。
彗星の如く現れたゴールデンルーキーで彼女の出身はおろか普段どこを拠点にしているかも分かっていない。唯一分かっている事は彼女はダンジョンには潜らず荒野に潜む賊狩りをメインに行っているということ。
そして狩られた賊の男達は例外なく衣服をもがれ何故か下半身だけ丸出しになっていたという。
そんな彼女に世の男性が愛と欲望を込め、影に潜む淫乱、淫影と呼ぶようになった。
ともあれ月初のギルド、相変わらずいつも以上に賑わっている。
まっ俺には全然関係ないんだけど。とりあえず俺は受付に依頼報告だけしてさっさと帰ろう。
「すいませーん。依頼終わったよー。」
「あらぁ。お疲れさまぁ。」
受付にいたのはハンターからの絶大な人気を誇るギルド受付嬢のエレナさんだった。
少し目じりの下がったたれ目で、ゆるふわなクリーム色の艶髪が男を魅了する。
そんなエレナさんも元々はハンターで、確か3年位前にハンター業を引退した。
かつてはダンジョン攻略組筆頭と呼ばれたパーティ、ブラッディモーメントに所属していたほどの凄腕エンチャンターで、エレナさんの強化魔法にかかれば20位上昇くらいの力を手に入れられたとか。
「エレナさんもお疲れー。今日もいっぱい薬草取れたよ。」
「あら本当。いつもありがとうねぇ。」
ギルドには絶え間なく依頼が出されていてハンター達は依頼達成報酬なんかで生計を立てている。
ちなみに今回俺が受けた依頼は最低クラスの薬草採取で報酬は3000ユルド。
「それじゃあ報酬も貰ったし、俺は疲れたからもう帰ろうかな。」
「あらぁ、ちょっと待ちなさぁい。」
突然物凄い力で俺の腕を掴むエレナさん。
なぜだろう、普段は温厚なエレナさんの顔がちょっとだけ怒っているように見える。
頬を膨らませたエレナさん、かわいい。
だけど痛い!この人自分の腕にエンチャントかけてやがる!
「あ、あの~エレナさん?俺何かしました?」
「何かってぇ・・・もぉ。前にも言ったと思うけどもう少し依頼を受けなさいよぉ。いつも3ヶ月に1回しか依頼報告に来ないじゃなぁい。」
「あ~それか。」
正直俺はハンター業に興味が無い。
俺がハンターになった理由は武器を扱うのにハンターの登録が必要だったからってだけで別にモンスター退治をしたいからじゃない。
それに俺の住むブロント地方は少し歩けば森があるしそこには動物もいて水も流れている。だから自給自足すればお金もそんなに必要ない。
ギルドまで滅茶苦茶遠いのが難点ではあるけど、でも正直気楽だし結構満足してる。
「3ヶ月に1回依頼をこなせば登録が解除されることはないし戦いたくないのも分かるんだけどぉ、でもこのままじゃいつまでたってもランキングは上がらないわよぉ。」
「ランキングねぇ・・・」
「だからたまにはダンジョンとかにも行ってみたらぁ?」
「ダンジョンねぇ・・・」
強いダンジョンモンスターの討伐はランクアップの対象になる。
それにモンスターが落とす魔石はモノによってはギルドが出す依頼報酬より高値で取引されるから一石二鳥だってのはハンター間の共通認識だ。
・・・でも俺はダンジョンなんて怖いし行きたくない!というか行った事がない!
「ほらぁ、怖いならパーティとか募集すればいいじゃなぁい」
「いやいや、ランキング上位ならともかく俺なんかじゃ誰も組んでくれないから。」
基本的にパーティは同じくらいの強さの人で組むことが多い。
まあ普通に考えて弱い奴はお荷物になるから連れていって貰えない訳だ。
「えぇそうかしらぁ?そんな事無いと思うけどぉ。」
「あはは、またまた御冗談を。ていうかダンジョンなんて行った事無いし絶対に行きません。怖いし。」
「はぁ・・・まぁいいわぁ。どうせそう言うと思ってぇ、実は今日スペシャルゲストを呼んでいるのよねぇ」
「スペシャルゲスト?」
なんだろう、嫌な予感しかしないんだが。
「それでは~、スペシャルゲストの登場ですぅ。どぅるるるるるるぅ・・・・アーヤちゃんとシルフィちゃんですぅ。」
どこからともなく、というかエレナさんの後ろからひょっこり2人の顔が出てきた。
「棒:うわ~すご~いほんものだ~すご~い、パチパチ~」
俺は無意識に感情を込めず適当な拍手をしていた。
「やっほ~!天才セイバーのアーヤちゃんだぞ~!」
赤髪軽装ポニテ騎士、そんな感じ。
あと小っちゃい。
「どうも、シルフィ・アルファリアといいます。よろしくお願いします。」
青髪ローブボブ魔法師、そんな感じ。
あと小っちゃい。
アーヤ・フェルトリアとシルフィ・アルファリア。
言わずと知れたランク1位がなんで一緒に・・・。
この2人のランク1位はこれまで数々の偉業を成し遂げてきた。
成し遂げてきたんだが・・・強者とは時に凡人の常識を超えてくるというか。
偉業と共に必ず問題を引き起こしている。
アーヤ・フェルトリアは地獄の火山と呼ばれる、最高レベルのモンスターがわんさか生息するデスマウンテンを単独で攻略した。
ボスのインフェルノドラゴンは豪炎竜と呼ばれていて、名のあるハンター達からも恐れられる存在だったんだけど、狂剣は一撃で首をぶった切ったと言われている。
これだけ聞けば当然凄いんだが、そこからが問題だった。
ボスは狂剣に倒されて以降、何故か座禅を組んで祈りを捧げながらリポップされるようになった。ハンターには攻撃してこないし、倒しても魔石を落とさなくなったとか。
そんなこともあって今では何のうまみもない廃ダンジョンと化している。
シルフィ・アルファリアはギルドが認定したハイレベルダンジョン雷鳴の巣窟を単独で攻略した。
当時存在するダンジョンの中でも1,2を争う危険度だったから、ギルドは攻略に5人の精鋭ハンターを派遣する事を決定した。
選ばれし5人の精鋭ハンター達はこれでもかと武具を強化し精神を鍛えるため裸で雪山を登頂したとか。
そして満を持してダンジョンへと向かった5人のハンターが目的地にたどり着くと・・・。
「一体、何なんだこれは・・・。」
目の前に広がっていた光景、そこには1人の少女と大きな焼野原があったという。
精鋭ハンターは少女に聞いた。これは君がやったのかい、と。そしたら彼女は頷きながらこう答えたらしい。
「外から一発。」
ダンジョン攻略なのにダンジョンに入りもせず魔法一撃で終わらせてしまう存在を前に涙を禁じ得なかったと後日ハンターは語った。
そして5人の精鋭ハンター達はその日を境にハンターを引退。
今ではハンターお悩み相談所を設立し日々ハンターの苦悩と葛藤を少しでも和らげるため奮闘しているらしい。
そして雷鳴の巣窟は一人の少女によって跡形もなくなり、というか周辺の木々なんかも全部燃やしちゃってとんでもない環境破壊になっちゃって・・・。
それ以外にもこの二人は色んな事をやってきた訳だけど、その全てをソロでこなしてきた。そしてその理由は言うまでもなく、この二人が危険すぎて誰もパーティを組めないからだ。
「ちょっといいですかエレナさん。」
「ん~?どうしたのぉ?」
「どうしたのじゃないよ。何で俺がこの歩く災害みたいな二人と組まなきゃいけないんだ。」
「だってぇこの子達今までずっとパーティ申請してたんだけどぉ、誰も組んでくれないみたいでぇ、なんか私可哀想になっちゃってぇ。」
「それは可哀想だけど、だからって別に俺じゃなくていいじゃん!っていうかいくつ命があったも足りないんですけど、俺死んでも座禅組みながらリポップとかできないんですけど!」
いくらエレナさんの頼みとは言え無理なモノは無理!でもエレナさんにはきっと悪い事をしちゃっているから、今度食事にでも誘おう!勿論やましい考えなどなく!
するとエレナさんはプルプルの唇をプルプル動かして再び話し始めたプルプル。
「そういえばぁ・・・。」
あぁプルプルのエレナさん可愛い。だがこの件は断る!
「という事でこの話は無し!絶対無理!以上終了!」
俺が腕を組みそっぽを向くとエレナさんは何だかいやらしい顔をしながら俺の耳元にプルプルを当てて囁いた。ついでに言うと吐息が暖かい。ん~!
「シルフィちゃんはテレポートが使えるわよぉ。」
「いやいや、そもそもランク1位と俺が組むなんて、それに・・・・テレポートがなんだって?」
そしてエレナさんによる俺の為の俺だけのプルプル耳元with吐息セカンズ!
「だからぁ、テ・レ・ポ・オ・ト♪」
てっ、テレポート…!
テレポートっていったら魔法師の中でも使える人が超少ない超便利魔法じゃないか!
彼女の魔法があれば俺の家からギルドまで一瞬でこれる・・・。
どんなに急いでもブロントからギルドまで5日はかかる。3ヶ月に1度とはいえ往復10日は正直きついしもう歩きたくない!
・・・・・・いやいや落ち着け俺。
テレポートがあると分かった途端態度を変えたりなんかしたら、まるで俺がテレポート欲しさにパーティを組みたがっているみたいじゃないか。俺はそんなに嫌な奴じゃあない。
ここはあくまで冷静に、冷静に・・・。
「へっ、へぇ~!そうなんだぁ!まぁ別に俺は?何?そのテレポートってやつ?とかあんまりよく知らないし興味はないんだけどぉ、まっまあ何か珍しそうだし組んでみてもいいかなぁ!」
「ふふふ。全く分かりやすいわねぇ。」
そりゃそうだ、バレてるよね!恥ずかしっ!
だがこのまま勢いで災姫とだけ組もう、たとえ第八階梯が使えようと所詮はか弱い女の子。いざとなったら腕力で強引に抑え込めば魔法も使えないはず!
「良かったわねシルフィちゃん。パーティ組んで貰えるってぇ。」
「はい、お眼鏡にかなったようで嬉しいです。あの~、その・・・これから私達はパーティですので、私のことは気軽に・・・シ・・シルとお呼びください。」
恥ずかしそうにもじもじするシルさん。何だろう、この子可愛い。
「おっオッケー。よろしくっ、シ・・・シル。」
よしよしよしっ、あとは狂剣を適当に断ってシルに家まで送ってもらおう!
「ちょっと待ってよ!アーヤちゃんは!?組んでくれないの!?」
下から上目遣いで引き留めてくる狂剣は正直可愛いしいい子なんだろうとも思う。
だが!こいつは超重い大剣を振り回せるほどの腕力の持ち主
俺なんかが抑え込めるような人間じゃねえ!よって答えはノーだ!
「いやぁ、さすがにランク1位が二人もいたら戦力過多かなぁ~って!アーヤさんはとっても強いからきっと一人でも大丈夫・・・。」
狂剣をお断りしようとするその刹那、エレナさんが間に入るように俺の耳にぷるぷるの唇をあて甘い吐息を吹かせながら囁いてきた。思わず俺はアッ・・・と声を出し体を震わせた。
「ねぇ・・・彼女がいれば、アングリーベアーだって食べられるわよぉ。」
ア…アングリーベアー!世界三大美味と謳われるほどの高級食材じゃないか!
というか実は、俺の家の近く・・・ブロントの森の奥にはアングリーベアーが生息していると言われている。
アングリーベアーは非常に気性が荒く好戦的で、強力なハンターが何人もいないと倒せない。当然俺は倒せないし、凄く高価で市場にもあまり出ないので食べる機会なんてない。
それを食べれる・・・。
食べた人曰く、ほっぺたが落ちるとはまさにこの事・・・・らしい。
是が非でも食べてみたい!
・・・・あれ?ちょっと待てよ。別に狂剣と組まなくてもシルに倒してもらえばいいのでは?
シルは一人で雷鳴の巣窟を攻略した猛者だ、アングリーベアーの一匹や二匹倒すのなんて造作も無いだろう!よし、やはり断ろう!
「いやぁ、でもシルがいればアングリーベアーも倒せるだろうし。アーヤさんとは組まなくてもいいかな~って。」
すまない狂剣、悪気はないんだ。許してくれ。
するとエレナさん、何だか嬉しそうに笑っているじゃありませんか
「ふふふっ。それは無理な話よぉ。だってシルフィちゃんが使えるのは火炎魔法。倒したところで焼けて跡形もなくなるわぁ。」
ジーザス!って事はシルの力はそもそも狩りに向いていないじゃないか!
「くっ・・・。でもこれ以上強いパーティメンバーが増えるのは・・・」
「ふふふっ。もしかしてシルフィちゃんならか弱いからいざとなったら腕力で抑え込めるとかおもってるのかしらぁ?」
読まれている。俺の考えをすべて読まれている!
「残念ながらそれも無理ねぇ。だって彼女、普通にパンチで岩くらい砕くわよぉ。」
「なにそれ・・・。」
そしてエレナさんは再び耳元で囁いたのであった。
「諦めなさい。1位を止められるのは1位しかいないってこと。君はその1位の仲間になるの。」
つまり狂剣を止められるのは1位のシルであって俺じゃあない。逆もまた然り。
今更やっぱパーティ組みません、なんて言えるはずも無く・・・
それに抑止力として狂剣も入れないと俺の命が危ない・・・。
とか色々考えていたら体の力が抜けて膝を抱えて体育座りをしていた。
「・・・ははっ。はははは。はははははっ。」
俺の様子を見てエレナさんはにやにや笑いながら狂剣に話し始めた。
「えぇ?アーヤちゃんともやっぱり組みたい~?あらそうなのねぇ。アーヤちゃん良かったわねぇ。これから一緒に頑張ろうって言ってるわよぉ。」
「えー!ほんとうにー!やったぁー!」
「よろしくお願いします。アーヤさん。」
「よろしくねシル!っていうかアーヤちゃんはアーヤちゃんなの!アーヤちゃんって呼んで!」
「分かりました。アーヤ・・・ちゃん。」
「え~!?シルってば顔真っ赤じゃ~ん!かっわいい~♡」
「かっ、からかわないで下さいよ…。」
こうして俺はランク1位の二人とパーティを組むことになった。
どうなるんだこれから・・・。よりによってランク1位と・・・。
すると狂剣さん、きっと悪気はないんだろうけど
「そういえば、君の名前とランキング、あとハンター適正も教えてよ!これからうちらパーティになるんだしっ♡」
「確かにそうですね。仲間になる訳ですし知っておいた方がいいと思います。」
あぁ、何でこんなことになってしまったんだ。
なんか色々辛くなってきた俺は膝の間に頭を埋めながら話すことにした。
「・・・アッシュ。アッシュ・ウェインです。」
「へぇ~、アッシュちゃんかぁ!・・・んん?あれぇ?アーヤちゃんこの名前どこかで聞いたことある気がする。」
「確かに、私も聞いたことがある気がします。」
よりによってパーティメンバーはランク1位。
気まずい。もうおうち帰りたい。
「ねぇねぇアッシュちゃん!適正は!?もしかして私と同じセイバーだったりしてぇ♡」
「私と同じイグニスという可能性も・・・気になりますね。」
そういえば俺にも二つ名的なのがある。
「適正は・・・・全部。」
「まじ!?やばぁっ!もしかしてアッシュちゃんって天才っ!?」
「凄いですね!まさか全適正の人が居るとは。羨ましい限りです!」
そう、俺は全適正のアッシュ。
かつてはそんな風に言われていた時期もありました。
かつては・・・。
しかし時は流れ俺の二つ名は呼び方を変え・・・
「じゃあじゃあ、ランキングは!?」
悪意の無いアーヤちゃんの質問に俺は涙と鼻水を垂らした。
あぁ、かつて強力な魔法少女の前に涙した精鋭の彼らはきっとこんな気持ちだったのだろう。
あー・・・なんかもう、座禅組みたい。
そして俺は溢れ出る涙と鼻水を腕で拭いながら顔を上げ、笑顔でこう答えたのだ。
「全部・・・最下位です。」
器用貧乏、それが今の俺の二つ名だ。