ウィリア
本作品は「ひねくれカルメはログの溺愛が怖い……はずだったのに!」の四作品目です。
毎週木曜日に新規エピソードを更新していきます。
また、投稿スケジュールは完成し次第、活動ノートなどにて更新します。
しばしお待ちください!
以下、一作品目のURLです!
https://ncode.syosetu.com/n7754il/
今日も、あんまり会えなかったな。
薄ぼんやりと明かりをともした室内でウィリアは小さくため息を吐いた。
最近、恋人のセイが忙しい。
冬に壊れた橋の修理を進めているようで、なかなか時間がないらしく、会ってもまともにお喋りもできないまま仕事へ戻ってしまう。
セイは元々、大工ではない。
大工ではなく畑で野菜を作るのが仕事な農民なのだが、彼は力が強く真面目で黙々と仕事をこなすため村人たちからの頼みごとが集中しやすい。
特に建物の修理や建築などの依頼が集中しやすく、本人も暇になると大工の所へ行って仕事はないかと尋ねるようになったため、実質的には大工のようになっていた。
だが、真面目なセイは大工の仕事で忙しくなっても畑仕事の方をやめない。
そうすると橋の修理と畑仕事、花祭りの重なった今年の春などには連日、目が回るような忙しさに見舞われる。
倒れてしまいそうになるが、セイは頑丈だから倒れることはない。
あれだけ皆のために働いているのだから畑のことくらい誰かに任せても良いのだが、頼らない。
というより、幼少期から頼られてきたので頼り方を知らない。
ウィリアだけは畑仕事を手伝ってくれたりするのだが、彼女一人の力では焼け石に水だ。
しかも、重い鍬を振るったり、常に中腰になって作業したりすることで、腰を中心に体中を痛めてしまっているのを見るとどうにも可哀想になってしまって、セイはウィリアを自分の畑から締め出してしまった。
彼女にとっては、多少仕事があろうとセイに会うことができ、彼のために頑張ることができる大切な時間だったのだが。
既に夕食を食べきったウィリアだが、食器をテーブルに置いたまま椅子に座ってボーッと一日を振り返っていた。
能天気で軽いと思われがちなウィリアの頭だが、実際には目まぐるしく変わる表情や動作と同様に脳もクルクルと動いて様々な事を考えている。
ウィリアがお喋りでポンポンと話題を出すことができるのも、会話を弾ませられるのも、彼女がグルグルと思考を回す性格をしているからに他ならない。
そんな彼女は基本的に楽しい事に楽しいことを重ねて考え、宝石のような瞳をキラキラとさせているのだが、最悪なのが負のループにはまった時だ。
暗い事に暗い事を重ねて考え、何度も何度も脳内で掻き回す。
まるで、ヘドロの塊を素手でかき混ぜ続けているようだった。
『セイ、あたしに興味ないんだろうな~。会ってもいつも~、あたしが声をかけるばっかだったし~。最近は顔も見せてくれないな~。大工さんの所には行くくせにさ~。もう、もう、あたしのことなんて嫌いなんだろうな。あたしだって……』
少し前まではセイが自分のことを好きではなくなってしまったの「かも」だったのが、今では嫌われてしまったことがほぼ確定してしまっている。
これは良くない傾向だ。
何をする気にもなれなくて、視界に入り込んだ網掛けの暖房具やバスケットに入った大量の毛糸玉を無視する。
ドツボにはまったままウィリアは重い体を引きずって自室に戻り、コテンとベッドに寝転がるといつものように少しだけ涙を流しながら眠った。