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時が流れてオレンジはハーレムを持ちました。
ハーレムを持つのは人魚が立派な大人になった証です。体が大きなオレンジが王になるに違いないとたくさんの人魚が集まり群れで一番大きなハーレムになりました。
しかし、オレンジのハーレムは一向に腹が膨れないのです。他の兄弟のハーレムからは子どもが騒ぐ声が聞こえるというのにオレンジのハーレムは静かなままです。
いくら見かけが立派でも、子宝に恵まれないと群れの長になれない。
そんな話が流れ始めて、王になれないかもしれないと焦ったオレンジは海の底にいる魔女のところにいきます。
クジラと同じくらい大きな大きな生き物です。元は人魚だったらしいのですが、今はタコの頭に人の体というよくわからない姿です。たまに誰にもわからない気が滅入るような言葉を発しているため、その巨体も含めて他の人魚から怖がられていました。
口を開く前に、オレンジの体を掴んでみました。すると、魔女はオレンジを一目見て鼻で笑いながら言いました。
「もう、お前はもう人魚と結ばれるものじゃない。人間と結ばれるものになっている。陸で一体どんな目にあったんだろうね」
一度だけ心当たりがありました。
オレンジは魔女を脅しました。どうすればちゃんとオスの体になれるのかと。しかしまた、魔女は鼻で笑いました。
「そうだねえ、お前をその体にしたやつの心臓を喰えば戻るよ」
一人だけ心当たりがありました。
ノアです。
ノアの心臓を食うには陸に上がって捕まえなければなりません。魔女は簡単そうに言いますが、この尾びれで陸を歩けないことを知っています。
しかし、ノアの心臓を食べなければ、一生人魚の世界で堅苦しい思いをしなければならないのです。
「私は心優しい魔女だよ。そら、人間になる薬さ、対価は、陸にある何か、渡してくればいいさ、それは何でもいい。お前の喜びと釣り合いが取れるもの。でも私に渡したら二度とお前の元に戻ってこない」
魔女が砂粒を摘むように渡してきた小瓶をオレンジはにぎりしめました。
オレンジは薬を持って久しぶりに海面にあがりました。久しぶりの海面は穏やかで月が綺麗でした。
何かすごく懐かしく感じてオレンジは歌ってしまいます。小さな人魚の頃と違ってその声は遠くまで響きます。
でもきっとノアにはもう聞こえないでしょう。きっとハーレムを作ってよろしくやっている。
そう思って気が済むまで歌ったオレンジ。
さあ、陸に行こうとした時、海の上に一つ光があるのを見つけました。そこは確か、陸の砂浜です。
なんだか前にも似たようなことが起きたようなとお思いながら、砂浜に近づきます。