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一方でオレンジはノアの部屋から逃げようとしました。ノアがいない間にバスタブ大の水槽から出てズルズルと床や絨毯に跡を残しながら、どこか出られる場所はないかと探します。そして、
あの開いたり閉じたりしているところから人間は出たり入ったりしている。あそこから出られる!
そう思ったオレンジは廊下へ繋がるドアに体当たりをして開けようとしました。しかし開きません。
ドアはドアノブを動かさないと開きませんし、何より部屋には鍵がかかっています。
ドアに体当たりをするのはノアの部屋から物音がするのに気づいた使用人がノアを呼びます。ノアはオレンジに何かあったと思い、執事長を連れて部屋に行きました。
たくさんの足音が聞こえて来たのでオレンジは慌てて水槽に戻ろうとします。
しかし、陸の上では這うようにしか動けず、水槽に戻る前にドアが開いてノアに見つかっていました。
ドアを開けたノアが見たのはオレンジでした。
体も濡れておらず乾いていて、鱗が散らばっています。体のところどころにぶつけたようなあざがあります。そして自分がさっき開けたドアに鱗がついていました。
「オレンジ!」
ノアの体から血の気が引きました。ノアはオレンジを抱えて、慌てて水槽の中に戻しました。
「どうしたの!なんで!ドアにぶつかってたの?痛いよ!」
泣きながら怒るノアにオレンジには何を言われているのかわかりません。しかし、必死な様子に何か悪いことをしてしまったような気がしました。
そんな二人を見て執事長は考えました。
オレンジが外に出たがったのは海に帰りたいから。しかし、オレンジを海に返したらきっとノア様は前のノア様になってしまう。
「ノア様、ノア様か部屋の外に出られる間、人魚はこの部屋で一人ぼっちです。人魚は、その寂しくなって、なって水槽から飛び出してしまったのでしょう」
「オレンジといっしょにいる」
「そうですね、ですが勉強をしている時や、鍛錬をしている時、ノア様が部屋を出ている間は私たちが人魚を見ます。ノア様が戻る時はノア様と一緒に部屋に帰ります。それでいいですか」
「わかった、そうする」
執事長はノアを取りました。
こうして、このお屋敷の中でオレンジを海に返せというものはいなくなりました。