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小さな人魚は知りませんでしたが、子どもはノアという名前の王子様でした。ノアは沢山いる王様の子の一人で、後継争いから身を守るために、辺境の海辺のお屋敷で暮らしていました。

 ノアは時々夜に聞こえる鈴の音よりもっと冷たくか細いその声のことが気になっていました。大人には聞こえずに子どものノアにしか聞こえていません。

 声の正体を知りたい。そう思ったノアはお屋敷を抜け出して、夜の砂浜に出かけました。


 そこで小さな人魚を見つけたのです。小さな人魚は記録に書かれていた人間と同じくらい大きな人魚より小さくて、ノアが抱えられるくらいでした。

 そして、鮮やかなオレンジの尾びれ、しっとりと濡れた黒い髪、透き通るような青い瞳。その瞳でこちらをうかがうように見上げていました。


 小さな人魚を見てノアの心臓は跳ねました。食事に毒を混ぜられた時よりも、暗殺者に殺されそうになった時によりも、心臓が体から飛び出す勢いでした。


今逃したらきっと二度と捕まえられない。

「見つけた」


 そう思ったノアは小さな人魚を捕まえてお屋敷に連れ帰りました。

 そうして、小さな人魚はノアの部屋連れて行きました。

 

「ノア様が、海から人魚を拾ってきた」

「夜中突然誰もつけずに出て行ったと思ったら」

「人魚ってノア様が持てるくらい小さい子もいるのね」

 お屋敷の使用人たちの間で、その話題で持ちきりなのをノアは気にせず、小さな人魚のお世話をします。

 ノアはお屋敷に連れ帰ったあと小さな人魚を水槽にいれてさまざまなものを与えました。白いミルクや火が通ったステーキ、色とりどりの果物や野菜、お菓子。自分が持っていた綺麗な宝石を小さな人魚にあげました。

「オレンジ色の尾ビレをしているから君はオレンジだ」

そして、オレンジという名前を与えました。


 しかし、オレンジの望みは海に帰ること。ノアの部屋の狭い水槽の中ではそれは叶いません。

 どうにかならないかとオレンジがノアに抱えられながらそう思っていたときに部屋の扉が開きました。

「ノア様!ただでさえ危うい立場であるのに、なぜに魔のものである人魚を飼おうだなんて!それに人魚を怒らせると海に引き摺り込まれます!どうか海に返してください!」

 このお屋敷でノアの面倒を見ていた執事長でした。人魚を飼うことに反対している屋敷の人たちを代表してノアに言いました。


ノアに抱えられたオレンジは何を言っているか、わからないのですがノアが怒られているのを見て少し胸がスッキリしました。そしてなんだか海に帰れるかもしれないと期待しました。


 すると、オレンジの頭の上にポタポタと水が落ちてきました。触るとねばっこいです。ノアを見るとなんと泣いていました。人間って水出すのと驚くオレンジと同じように執事長もびっくりしました。

 何せノアが泣くのを見たのは初めてのことでした。お屋敷にきた頃から人形かと思えるくらい無表情だったノアが泣いているのです。

「ああ、すいませんでした!ノア様!」

「執事長、ひっく、剣の稽古も、勉強も頑張るから、グスッ、オレンジと一緒にいさせて」

「わかりました!わかりましたから!泣き止んでください!」

 そう執事長がいうと、ノアは泣き止みました。ノアに抱えられていたオレンジは涙でベトベトです。

「それでは、剣も勉強も頑張っている間はその、人魚を屋敷に置くのを許します。ですが!サボったらすぐに」

 人魚は海に返す。執事長がそう続けていおうとしたとき

「わあ、執事長ありがとう!」

 ノアは満面の笑みを執事長に向けました。


 執事長はノアは子どもだから、この時の約束はすぐに破るだろうし、何より人魚に対しても飽きるだろう。すぐに海に返す予定が少し伸びただけと思っていました。


それからしばらくして


 だらりと垂らしていた髪をくくり、剣の指導に来た騎士に果敢に挑み、

 ただ教科書を見るだけだった家庭教師の授業ではペンを持ち、質問をして覚える。



「ノア様、最近変わりましたよね!」

「ええ!あの人形ぐあいはどこへやら!」

「最近よく、授業を聞くようになりましたし、何より質問をしてくれるようになったんです!」

「あんなに少食だったのに、よく食べるようになった!」

「私たちにもあいさつをしてくれるようになった!」


「「「「「あの人魚が来てから、ノア様が明るくなった!」」」」」


オレンジが来る前と比べて目に見えてノアは変わったのです。


 他の使用人たちから次々に来るそんな報告に執事長は頭を悩ませました。

 オレンジが来てから目に見えるくらい変わったノアを見て、執事長は約束を間違えてしまったかもしれないと思いました。しかしした約束は破れません。


 今まで朝に今日やることしか話さなかった執事長とノアの会話も変わりました。

「ねえー執事長、大きな水槽って部屋における?」

「無理です、ノア様の寝る場所がなくなります」

 から始まり、

「これこのオレンジ、オレンジにあげたい」

「オレンジって何が好きなんだろ」

 

 執事長も人魚絡みとはいえノアがよく話してくれるようなったのが嬉しいのです。


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