14-4
「……――申し訳ありませんが、何が合っても私は貴方の娘、静稀を嫁にもらうことはありません」
旦那様が言い切ると、ずっと大人しかった静稀様の肩が震えました。
そんな娘の様子など気にせず、雫様が怒りの表情を浮かべます。
「そうね、やっぱり貴方ならそう言うと思います。ですが、これを見ても、貴方はそう思いますか?」
言うと、雫様は、ずっと顔を俯かせていた静稀様の肩に手を添えました。
「さぁ!! 顔を上げなさい!!」
命令口調が、怖い……。
雫様が言うと、静稀様がゆっくりと顔を上げました。
「わ、わぁ……綺麗…………」
透き通るような綺麗な肌。黄色の瞳を際立たせるように、目元には薄紅色のアイシャドーがしっかりと付けられております。
頬も薄く染まり、口は赤い紅を塗っております。
もともと、綺麗な方が、お化粧でもっと美しく、かわいらしくなっております。
男性なら誰もが見惚れてしまいそうな、綺麗な方。
女性の私でも、思わず息が詰まりました。
「これだけ美しく華々しいあやかしは、どこにもいませんことよ? それに、人間とあやかしでは子も成せない。跡継ぎはいかがいたしますの?」
――――え、跡継ぎ? 子が、成せない?
思わず旦那様を見ますと、表情が暗く、辛そうです。
その表情だけでわかります。今の雫様のお話が本当だという事が。
子が成せない。そうなると、跡継ぎが……。
私が、人間だから? 人間である私を、旦那様は嫁にしてしまったから?
「人間など、何の力もない。そんなザコ当然の者を貰うより、私の可愛い娘を嫁にした方がよろしいかと思いますが??」
ニヤニヤと、雫様が笑います。
その表情は、陰湿で、恐ろしい。人を陥れることにまったく抵抗がない。
「さぁ、いかがですか? あやかしの長、七氏様??」
旦那様……、貴方は知っていたのですね? 子が成せないこと。
人間である私が貴方の嫁でいる限り、跡継ぎが生まれない。それを知っていて、何故私を嫁にもらったのですか……?
「――――だから、なんだ?」
「っ、なんですって?」
だ、旦那様?
「人間だから子が成せない? 力がない? はん、笑わせるな、猫又風情が」
旦那様の空気が、急に冷たくなります。
どことなく、冷気が出ているように感じますが、これって、もしかして、氷璃様の雪女の力が発動しているのでは?
「そんなもの、今までの経験ではないか。これからどうなるかなどわからん」
「ですが、今まで一度も人間とあやかしで子が成せたことなどありません」
「そうだ。我らが知っている限りでは、あやかしと人間では子を成したと話は聞いたことがない」
「でしたら――……」
「だとしてもだ!!!」
雫様が反論すると、旦那様が途中で遮るように声を張り上げました。
「これからどうなるかもわからん。我らが知らぬだけで、どこかでは子を成しているかもしれん。それだけではない。我はなにも、跡継ぎが欲しいから華鈴を嫁にしたわけではない。華鈴が、欲しいと。心からそう思えたから、婚約を申し出たのだ。華鈴を良く知らぬくせに、勝手なことを言うでない!!」
っ、旦那様、冷気が。冷気が雫様を襲っております。
風が、舞い上がる。本気で怒っているのが、わかる。
「ぬしがなぜ、そこまでしてあやかしの長を欲しているのかはわからん。だがな、娘を、もっと見てくれ。ぬしは、しっかりと娘を授かり、幸せな家庭を築いているだろう? それを、崩すようなことをするでない」
冷気が落ち着き始めました。
旦那様が上げた腰を下ろし、テーブルに手を付きます。
「娘の気持ちを、大事にしてやれ。好きでもない男のために、すべてを捧げさせようとするな。もっと、自分を大事にするように教え込ませろ。いいな?」
「で、ですが…………」
「ぬしは、娘をなんだと思っておる。ただ、親の願いを叶えるための道具か? 違うだろう?」
旦那様が聞くと雫様は、隣にいる静稀様を見ます。
不安そうに、着飾られた顔を歪ませる静稀様。泣かないように必死に耐えている静稀様を見て、雫様はもう、口を開くことはありませんでした。
「もっと、近くの者に目を向けるのだ、大事にするのだ。じゃなければ、今の幸せすら失うぞ」
旦那様が立ちあがると、「行くぞ、華鈴よ」と廊下へと向かいます。
腰を上げ、私もついて行こうとしましたが、ふと、視線を感じました。
隣を向くと、静稀様と目が合いました。
どうしたのでしょうか。なにか、言いたげのような……。
「…………」
「あ、あの?」
聞こうとすると、再度旦那様に呼ばれてしまい、私は聞けず廊下へと出ます。
静稀様、何が言いたかったのでしょうか。気になります。
廊下を歩き外に出ると、馬車がいました。
ずっと、待機してくださっていたのでしょうか。ありがたいです。
旦那様が馬車に乗り込もうとすると、屋敷から静稀様の声が聞こえました。
二人で振り向くと、屋敷の出入り口に、静稀様が息を切らし立っています。
せ、せっかくのお化粧が取れてしまいますよ。
そんな、乱暴に顔を拭ってしまうと……。
「あ、あの、どうしたのですか?」
私が聞くと、息も耐え耐えに静稀様が顔を上げ、苦しそうに顔を歪ませました。
「私、本当に、七氏様が好きです。大好きです! この気持ちに、嘘はありません!!」
っ、顔を上げた静稀様が、必死に訴えてきます。
また、旦那様を落そうと、考えているのでしょうか。
思わず、私が旦那様の前に出ますが、見えていないのか言葉が続きます。
「確かに、最初は母上からでした。母上に、七氏様はこのような方だよと、いい事ばかり聞かされ、それで好きになりました」
自身の着物を握る。体は震え、必死に訴えようとしています。
「ですが、それでも、今は自分の意思で、貴方が好きです! なので、最後のチャンスをください!!」
「最後のチャンス、だと?」
旦那様が聞くと、静稀様が袖に手を入れます。
出てきたのは――拳銃!?
「き、貴様!!」
「これで、勝負を決めましょう。華鈴さん」
静稀様が、私に拳銃を差し出してきます。
拳銃なんて、生まれてこの方、触れたことすらありません。
ですが、静稀様の真剣な表情を見ると、ここで受け取らないのは、駄目な気がします。
私が手を伸ばし拳銃を受け取ると、旦那様が慌てた様子で静稀様を睨みます。
「何を考えておる、静稀よ」
「最後のチャンスです、七氏様。これで、私が負ければ、もう、貴方には近づきません」
言うと、私へと視線を向けます。
「どうか、華鈴さん。私と勝負してください」
「ほ、方法は……」
「簡単です。貴方が私を撃ち殺せれば、それで勝ちです」
――――撃ち、殺す?
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