13-18
九尾に視線を向けられた雫は、体を大きく震わせ、籠の端へと逃げる。
だが、籠自体が小さいため、意味は無い。それでも、九尾から逃げ出したく、後ずさる。
砂かけばばぁは、そんな雫の様子など一切気にせず、ニコニコと笑顔で九尾に籠を渡した。
受け取り、中を覗き込んだ。
「今回の事態、ぬしの独断か? 猫花家は絡んでおるのかのぉ?」
聞くが、雫は答えない。
目を逸らし、口を閉ざし続ける。
「…………はぁ。まぁ、よい。ひとまず、今日は寝る。明日、猫花家に聞くとしよう」
「や、辞めてください!!」
猫花家に行くと九尾が口にすると、一際大きな声で雫が叫ぶ。その反応だけで、雫の独断なんだと分かる。
だが、それでも雫の口から聞きたい。
九尾は、目を細め再度、問いかけた。
「その反応。独断だな?」
聞くと、雫は誤魔化すように顔を背ける。
その様子にため息を吐くと、九尾は籠を砂かけばばぁに返した。
「ここまで大きなことを行い、人間世界にも大きな被害を出した。命が残ると思ってはおらぬよな?」
赤い瞳で睨まれ、雫の体に凍るような悪寒が走る。
逃げようと籠の中で大暴れするが、対あやかし用の籠が壊れる訳がない。体を痛めるだけで終わる。
叫ぶが、九尾の冷たい視線は変わらない。
狐火を手に灯し、燃やそうと籠に手を伸ばした。
涙を浮かべ、逃げるが意味は無い。
もうダメだと、目を閉じた。
「待ってください!」
燃やす一歩手前で、九尾は手を止めた。
横を見ると、雪女が悲しそうに目を伏せながら九尾を見ていた。
「……どうして止める? ぬしは、今まで酷い扱いをされてきただろう。止める理由はなんだ?」
雪女には優しかった九尾だが、今は冷ややかに言い放っている。
視線が冷たく、雪女はビクッと方が上がった。
恐る恐る顔を上げ、雪女は口を開いた。
「止める理由は、特にありません」
「なら、なぜ今、呼び止めた?」
「…………わかりません」
雪女は、気まずそうに顔を背けた。
九尾は眉を顰め、腕を組む。
「それだけでは、流石に今回の罪は消えんぞ。あやかしの長を狙っただけではなく、人間世界にも大きな被害を出した。鬼が力を取り戻していれば、もっと被害は出ていた。許せる罪ではない」
「…………そう、ですね。私も、そう思います」
「なら、止めるでない。もし、見るのが嫌なのであれば、場所を移動しよう」
雪女の返答を待たずに九尾は再度、雫を殺そうと顔を向ける。だが、上げた手を雪女が掴んだ。
「雪女よ。確かにワシはぬしに求婚をした。だが、これ以上邪魔をするのであれば、考えなければならんくなるぞ」
腕を掴まれ、九尾は睨む。
向けられている視線からは圧を感じ、震えた。
それでも、雪女は腕を離さない。
無理やり引き離そうとすると、雪女がやっと口を開いた。
「ま、まだ、雫さんの旦那様は、この事態に気づいておりません。それに、子供も、まだ、知りません。この場で一気に妻と母親を失う事になれば、猫花家の方達が可哀想です」
声はか細く、掴んでいる手は微かに震えている。
九尾を怖く感じているに違いない。それでも、勇気をもって伝えた。
その勇気に、九尾も答えてあげたい。
だが、あやかしの長として、ここで今回の罪を免除になど出来るわけもない。
百目達は、九尾がどうするのか九尾に注目する。そんな中、鴉天狗が動き出した。
「九尾様、こやつは罪を犯しました。周りがどう思おうと、罪は罪。罰するべきです」
鴉天狗に言葉に、今度は二口女が鴉天狗の隣に立ち、口を開いた。
「鴉天狗さんの言葉の通り、罪は償わなければなりません。ですが、罪を償う方法は、変えてもいいかもしれませんよ」
「なに?」
隣まで移動して来た二口女の言葉に、鴉天狗は横目で睨む。
そんな視線など気にせず、二口女はニコニコと笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「ここで死んでしまえば、その時で終わりです。ですが、生きていればこれからもずっと罪を償い続けなければなりません。なので、死にたくなるくらいの罪滅ぼしを行わせればいいのですよ。こんな可愛い子を苦しませた罪は、人間世界を巻き込んだことより重たいのです」
二口女の黒い笑顔に、この場にいる皆が凍り付く。
九尾ですら、「お、おう。そうだな」と、頷くしか出来ず、鴉天狗も顔を背け反論しない。
「…………ごっほん。えぇっと、そういうことらしい、雫。今回の罪は、これからの生き方で決める。余計な事はしない方がいいぞ」
「わ、わかった、わ。私自身は、何もしないわ」
雫が頷いたことで、九尾は籠を開けた。
安心したように雫は籠から出る。安心したように人間の姿になり、一息ついた。
そんな雫に、九尾は右手を伸ばした。
ガシッと、片手で首を掴む。
「九尾、様?」
二口女も流石に驚き、呼ぶ。
「雫よ、人間世界に行こうとすると、これからは首が跳ねることとなる。言葉の通りにな。他にも、なにか変なことを行えば、首が飛ぶからな。せいぜい、恐怖の中で生きるが良い」
九尾が手を離すと、雫の首に首飾りが引っかかっていた。
藍色の、しずくの形をしている首飾り。
それは、九尾が妖力で作った、罠みたいな物。
人間世界に通じる神木の力を首飾りが感じると、爆発する仕様なんだと、九尾が付け加えた。
体を震わせ、無意識に首飾りを触れると、九尾が補足するように「無理やり取るのも同様じゃからな?」と、釘を刺した。
「もう、何もするでないぞ。助かった命、大事にするが良い」
九尾は雫に背中を向け、歩きだす。
二口女や鴉天狗達も、九尾の背中をついて行く。
雪女も歩き出そうとしたが、雫に呼び止められてしまった。
「な、なんでしょうか」
「貴方、山に戻るの?」
目を合わせず、顔を下げながら雫が問いかけた。
九尾は足を止め、二人の会話に耳を傾ける。
「なぜでしょう」
「気になっただけよ。答えたくないならいいわ」
雫が背中を向け、屋敷に帰ろうとする。
その背中は、どこか悲し気で、いつもの凛々しい雫の面影はない。
雪女は、何も答える気はなかったが、自然と口が開いた。
「私は、山に帰りません。私の居場所は山ではなく、ここですから」
今まで見た事がない、純粋な雪女の笑顔。その視線の先には、九尾の姿が映る。
視線を受けた九尾は、つられるように優しく笑った。
「行くぞ、雪女」
「はい、九尾様」
今度こそ、雪女は駆けだした。
九尾達の中に入り、森の中から姿を消した。
残された雫は、拳を握り、九尾を睨む。
首飾りから手を離し、九尾達とは逆方向へと歩き出した。
「私は、何もしないわ、私は、ね」
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