13-16
雪女は、目の前の光景に唖然としていた。
二口女は体術を習得しており、軽快な動きで雫を追い込める。
ろくろっ首は、自慢の長い首を使い動きを制限し、砂かけばばぁは、視力を奪く事を主に考え動いていた。
雫は、猫又であることを使い、猫へとなり大量の猫に紛れ逃げようとするが、それを二口女は逃がさない。
皆に指示を出し、雫を捉える。
皆、戦闘能力は高いが、相手を殺さず捕まえるのは難しく、ずっと平行線。
なにか、決定打が欲しいところ。けれど、皆そんな余裕はない。
猫に襲われ身動きが上手く取れない今、ろくろっ首が何度か首を伸ばし、雫の動きを制限していた。
砂かけばばぁも砂でなんとか視界を奪うが、遠くまで行かれると腕力が足りず、砂が届かない。
そんな光景を後ろで見ていた雪女は、不安そうに涙が目の縁に溜まる。
胸元に当てている手が微かに震えていた。
怖い、怖い。
雪女は、人里に下りてきたことを心の底から後悔していた。
人里に降りなければ、雫とも会わずに済んだ。
雫と会わなければ、下僕のような生活を送らなくて済んだ。
けれど、人里に降りなければ、山で虐げられる。
男一人たぶらかせない底辺雪女だと、周りから冷たい視線を送られることになっていた。
どっちにしろ地獄、どうするのが正解なの?
そう疑問に思っていると、周りへの意識が散漫となってしまった。
一匹の猫が、雪女に向かって飛び掛かる。
気づいた時には遅く、雪女は反射的に目を閉じた。
「ニャン!!!」
「っ!」
猫が二口女によって叩き落された。
「大丈夫!?」
「は、はい」
「よかった」
二口女は、自分が危機的状況であるにも関わらず、ニコッと笑みを浮かべ雪女を見た。
それは、演技している訳でも、だまそうとしているわけでもない。そんな、純粋な笑みだった。
「出来る限り私達は貴方を守ります。ですが、周りへの意識だけは逸らさないでください」
二口女はそれだけを伝えると、また猫達を投げ始めた。
雪女は、二口女の言葉に、目を開いた。
唇を噛み、震えている手を止めようと、もう片方の手で包み込む。
もし、人里に下りて来なければ、下僕扱いされることはなかった。
雫とも会わず、こんな怖い思いをしなかった。
けれど、人里に降りなければ、今みたいに守られることの温かさに気づかなかった。
あんなに優しい笑みを向けられることもなかった。
求婚されて、手を伸ばしてくれて。
恥ずかしいけれど、嬉しい気持ちを知らなかった。
また、私を求めてほしいと、思うことすら、なかった。
雪女は、新たな感情に戸惑いながらも、眉を吊り上げ決意する。
こんな優しい人達を私も、守りたいと。そう、思った。
二口女達は、大量にあふれる猫に苦戦。今まで雫だけは何とか逃がさないようにしてきたが、とうとう見失ってしまった。
藻掻き、見失った雫を探すが、猫が次から次へと飛んできて身動きが取れない。
このままでは逃げられる。
そう思い焦ると、どことなく冷たい空気が流れて来た。
冷たい空気が足元を冷たくし、飛び掛かっていた猫が急に静かになる。
「な、何が…………」
ろくろっ首と砂かけばばぁは何が起こったのか理解出来ず、困惑。そんな中、二口女だけは冷静に周りへと意識を向けた。
もちろん、逃げ出した雫を捕まえるため。
妖力が一番強い猫を見つけ出す。だが、もう距離ができており、見つけたが二口女では手を伸ばしても、今更走り出しても届かない。
もう駄目、そう思った瞬間、強い冷気が後ろから放たれた。
それにより、周りの猫は飛ばされ、雫だけは足が凍り動けなくなってしまった。
「な、なにがっ!」
雫が困惑していると、二口女が走る。
猫姿の彼女を捕まえ、砂かけばばぁが予め準備していた猫用の籠を出す。
猫姿から女性の姿になろうとしたが、それより先に二口女が籠の中へと無理やり入れ込んだ。
籠は、対あやかし用なため、簡単には壊せない。
猫又と言えど、猫の姿であればただの猫。対あやかし用に作られた頑丈の籠は、中でどんなに暴れてもビクともしなかった。
「ふぅ、こちらは完了しましたね。まったく、ここまで大事にするだなんて、何を考えているのかしら」
「まったくねぇ〜」
二口女とろくろっ首が籠の中で暴れている雫を見ながら呟くと、砂かけばばぁがゆっくりと近づき、笑みを向けた。
「一先ず、我々は九尾様の帰りをあやかしの世界でお待ちしましょう。あと――……」
砂かけばばぁが視線を雪女へと向ける。
そこには、息を切らし三人を見ている雪女が立っている。
二口女は笑みを浮かべることはなく、一先ずうなじの口を閉じ、籠をろくろっ首へと渡すと雪女に近づいた。
目の前に立つ二口女を見て、一瞬肩に力が入る。
手を伸ばされ、反射的に目をギュッと閉じた。
すると、ポンッと、頭に優しい温もりが乗る。
驚き目を開けると、二口女はニコリと笑っていた。
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