13-12
「このふてぶてしい猫が、人間世界で騒ぎを起こしていたあやかし、化け猫じゃな」
化け猫が走り出し、百目達が追いかけた際、九尾は誰よりも早く前に回っていた。
手を伸ばし、逃げる隙すら与えず、すぐに捕まえた。
そんな猫は今、逃げ出そうともがくわけもなく、体を伸ばし、ブラーンとぶら下がっている。
今も、ふてぶてしい態度は変わらない。
余裕そうに毛づくろいまでしている始末。
「これでこっちの世界での事件は終わり、ですか?」
「そんなわけないじゃろう。あの女がこれで終わらせるとは思えん。気配を探らせてもらうぞ」
言いながら化け猫を百目に渡し、九尾は目を閉じ気配を探る。
気を周りに張り巡らせ、異物がないか探した。
「――――そうか。これが狙いかっ!!」
なにかに気づいた九尾は、焦った様子で駆けだした。
すぐさま、百目と鴉天狗も追いかける。
「九尾様! 何があったのですか!?」
「この猫衝動は、あくまで時間稼ぎだったんじゃよ。我々の意識を他にそらすため、猫をばらまいていた、じゃが、これがもう一つの狙い。やばいもんを復活させおって!」
汗を流し、走る速度を速める。
二人も追いかけるが、離れないように走るので精一杯となっていた。
「あそこまで九尾様が焦るなど、今まで無かったはず」
「それほどまでに厄介なあやかいが動きを見せているのかもしれません。今は置いていかれないように、走ることに集中しましょう」
九尾に後れを取らないように走り続けていると、どこからともなく深い闇のような気配が漂ってきた。
「っ、来るな百目、鴉天狗!!」
九尾の言葉に、二人は足を止める。
「な、何が……」
九尾が警戒を高める。百目に抱えらている化け猫の毛が逆立つほどに邪悪な気配が流れ、百目の腕から逃げようともがき始めた。
九尾に捕まっても毛ずくろいをするほどに余裕だった化け猫の様子に驚き、思わず腕が緩む。その隙に百目の腕から抜け出し、逃げ出してしまった。
追いかけようとしたが、邪悪な気配により足がすくみ、化け猫へとかけ出せない。
鴉天狗も動けず、顔を青くする。
三人が動けずにいると、前方からドス、ドスと、重いものが歩くような足音が徐々に近づいて来た。
九尾は、手に狐火を灯し、鴉天狗は錫杖を握り直した。
百目は、黒いスーツの上着を脱ぎ、腕をまくった。
三人が待ち構えていると、建物の影から赤い手が現れる。
添えられた壁が、バキッと音を鳴らし、ヒビが入った。
「――――厄介なもんを復活させおったな」
「まさか、どうやって…………」
九尾は現れたあやかしを見て、眉を顰めた。
「日本三大妖怪の中でも邪悪で、強力なあやかし、鬼」
壁から覗くのは赤い体。頭には二本の角。黒い目をギョロギョロとさせ、手には金棒を持ち獲物を探している。
三人の姿を捉えたかと思えば、なんの前触れもなく、ドスドスと駆けだした。
『グオォァァァァアアアアアアア!!』
金棒を振り上げ、叩きつけた。
三人は後ろに跳び回避したが、地面が抉れ、土埃が舞い上がる。
地面に着地し咳き込んでいると、土埃を割き、鬼が百目に襲い掛かった。
金棒を腕で防いだが、力に負け吹っ飛ばされる。
ドゴンと大きな音を当て、建物を崩し、百目は生き埋め状態。気絶しているのかも確認出来なくなってしまった。
「百目!」
「目を逸らすな鴉天狗!!」
九尾が叫ぶが遅い。視線が逸れた鴉天狗に鬼が金棒を振り上げる。
錫杖で咄嗟に受け止めるが、力に差があり過ぎ、地面に足が沈む。
膝を突き何とか耐えるが、今にも押しつぶされそうになった。
九尾がすぐに、狐火を鬼へと放つ。
狐火は、どんなものでも九尾の意思で燃やす事が可能。
鬼は鴉天狗から目を逸らし、狐火を見る。
錫杖から金棒を離したかと思えば、狐火を片手で打ち返した。
「っ!?」
打ち返された狐火が、人間の建物に引火する前に九尾は指を鳴らし消す。
鬼と目を合わせたかと思えば、九尾の姿が陽炎のように歪み、姿が消えた。
次に姿を現したのは、鬼の背後。鬼の頭に手を置いたかと思うと、狐火と同じ色の炎が突如、鬼の足元が燃え上がる。
鬼を炎で包み込み、鴉天狗を抱え距離を取った。
「申し訳ありません、九尾様」
「構わん。それより、鬼が人間世界に放たれたことが一番まずいぞ。ここでまともに戦闘は行えん」
鬼が掴んだ建物には、ひびが入っている。
百目が吹っ飛ばされただけでも、一つの建物が崩れてしまい、これ以上被害を出したくはない。
今は深夜なため、人がいないが唯一の救い。
死人が出る可能性は低いが、建物が崩れ人間世界を破壊しかねない。
そうなれば、あやかしと人間の共存は難しく、九尾は罰を受けなければならなくなってしまう。
せっかく、ここまで人間との共存を続けてきたのに、そのすべてが無駄になるのだけは避けたい。
九尾は、覚悟を決め鴉天狗を見た。
「まず、鬼を無理矢理あやかしの世界へと連れて行く」
「ですが、あやかしの世界に行かせるには、神社の樹木を使う以外に術はないですよね。あそこまで鬼を移動させることは可能なのですか?」
「…………」
鴉天狗の言葉に、九尾は返答しない。いや、出来ない。
瞬間移動をさせる事は九尾なら可能だ。だが、鬼に対してだと、厳しい。
理由は、単純に力の差。
九尾の纏っている妖力より下の者なら簡単に運べるが、同じかそれ以上だとさすがの九尾でも妖力が負け、途中までしか運べない。
だから、せめて一気に運ぶではなく、少しづつでも樹木へと運び、あやかしの世界に連れていきたい。
そのためには、経由地点と、人間世界の人の行き来などを確認しなければならない。
百目がやられてしまった事は九尾にとっては痛手。周りの情報把握が簡単に出来なくなってしまった。
狐火が消されてしまい、無傷の鬼が九尾を睨む。
それだけで悪寒が走り、体が震える。
「――――さて、どうするか」
九尾が呟くと、鬼は金棒を振り上げ走り出した。
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