13-11
「まったく……。ここまで馬鹿なあやかしが存在するなんて思わなかったなぁ。九尾も困っているだろうねぇ~」
九尾が雪女に求婚している時、人間世界では、猫が大量に発生しており、人間達に迷惑をかけていた。
人の物を盗んだり、怪我させたり、ゴミを漁ったりと、やりたい放題。
ニュースにも「突如、大量に現れた猫。何かの前ぶりか?」と報道されている。
そんな中、チガヤは建物の裏、薄暗い場所で血にまみれ立っていた。
手に付いた血を舐め、周りを見る。
そこには、猫の死体が大量に転がっていた。
「数で押せばどうにかなると思ったのかな。それか、人質でも取れば私が引くと――ふふっ、そんなわけないのに、滑稽だねぇ~」
まだ影には、生きている猫がいた。
だが、チガヤに睨まれ後ずさる。
それでも猫──猫又は逃げない、逃げられない。
足が竦んで動けず、猫の耳は垂れ、体が微かに震えている。
チガヤは、そんな猫を目の前に肩を落とし、遠慮なく怯えている猫を切り裂いた。
「ふぅ。さて、あとは――――おや?」
チガヤは上から気配を感じ、月が昇っている夜空を見る。
シュッと、月明かりが一瞬何かにより遮られた。
「おやおや、来るのが遅かったですね」
見ているとそれは、あやかし姿の九尾だと分かった。
頭の上に狐の耳があり、ピコピコと揺れていた。
彼の背には、尾が九本揺れていた。
赤い、鋭くつり上がった瞳が闇の中に浮かび上がる。
チガヤの目の前に降りた九尾は、大きな黒い羽織をはためかせ、彼と手を合わせた。
「…………すまないな」
「問題ないよ。これくらいで私が怒ると思うのかい?」
「そうだよなぁ。だからこそ、申し訳ないのだ」
九尾は眉を下げ、チガヤへと謝罪する。
チガヤは全く気にしていないように笑みを浮かべた。
「ところで、その姿をしているという事は、君も動きだしたのだね」
「あぁ。まずは人間世界から手をつけようと思ってな」
「気にしなくてもいいんだよ?」
チガヤが言うが、九尾が首を横に振った。
「これ以上迷惑はかけられん」
「普段は適当なのに、こうなると責任感が強くなるねぇ」
クスクスと笑うチガヤを横目に、九尾は苦笑いを浮かべた。
九尾の護衛としてついてきていた鴉天狗と百目は、背後で待機。二人の話が終わるのを待った。
「では、我は行く。人間世界に蔓延る猫どもは殺しても良さそうだな」
「構いませんよ、よろしくお願いします」
チガヤに背中を向け、鴉天狗と百目を引き連れ九尾は歩き出す。
その際、肩越しに目線だけをチガヤに向けた。
「チガヤ、もうしばらく、迷惑をかける」
「構わないよ。ただ、人が一人でもあやかしのせいで死んでしまった場合は、少々痛い目を見ていただくからね。それだけは肝に銘じて欲しいな」
「わかっておる。その覚悟は出来ておるから心配するな」
言うと、三人はその場から姿を消した。
残されたチガヤは、ふぅーと息を吐き、周りを見た。
「あやかしは、大変ですねぇ~。――――っ!」
チガヤは、まだ残っている猫又達を倒そうとしたが、急に視線を感じ振り返った。
――――ドゴン!
何が起きたのか理解する間もなく、チガヤは殴られ壁にたたきつけられてしまった。
※
「む?」
「いかがいたしましたか?」
「…………なんでもない」
闇が広がる人気のない街を、九尾達は歩いていた。
何かに気づき九尾は振り向くが、何事も無かったかのように前へと向き直した。
そんな九尾に、百目が問いかけた。
「ところで、九尾様。この後はいかがいたしますか? 猫を殺し続けていても意味は無いかと」
「わかっておる。今は、猫達を操っているあやかしを探すぞ。必ずいるはずじゃ。猫又と言えど、ここまでの猫を操るのには、同じ猫のあやかしに協力を仰いでいるはずじゃ」
九尾の返答に、百目は「そのあやかしとは?」と問いかけるが、九尾は目線を前方から離さない。
「すぐにわかるぞ」
「え?」
九尾が歩いていると、前からふてぶてしい猫が三人を横切った。
ボテボテと、街の中心を歩く猫に三人は釘付け。視線を感じた猫は、生意気そうな顔を振り向かせた。
「――――化け猫だ」
「化け猫ですね」
「化け猫だな」
三人の猫の間に、少しの沈黙が訪れる。
数秒立つと、急に化け猫が走り出した。
「っ、百目!!」
「はい!!」
すぐさま地面を蹴り走り出した百目だが、猫の足は見た目とは違い早い。
鴉天狗も追いかけるが、猫の方が早い。
「追いつけん!!」
「どれだけ速いのですか!」
二人が必死に走っていると、化け猫が建物の隙間に入り込んでしまった。
次の瞬間――……
――――――――ニャァァァァアアアアアア!!!!
と、野太い化け猫の悲鳴が聞こえた。
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