13-10
雪女は困惑し、鴉天狗はいらだちながらも待ち、百々目鬼は「なるほど」と安心したように目を閉じた。
数分、静かだと思うと、九尾は赤い瞳を開けた。
雪女の藍色の瞳と目が合い、ニカッと笑う。
「やはり、綺麗な瞳をしておるのぉ。その瞳から闇を払う事が出来れば、ぬしはもっと美しくなるじゃろうな。もちろん、闇を祓うのは他の誰でもない、ワシじゃけれど」
雪女の顎に手を添え、顔を近づかせる。
急な出来事に雪女は、「へ?」と、顔を赤くした。
すぐに鴉天狗が引きはがし「九尾様!!」と怒鳴る。
「あはは……」と苦笑いを浮かべ、鴉天狗の手を離させた。
「ま、まぁ、今のはひとまず置いといて。悪いが、勝手にぬしの記憶を覗かせてもらったぞ」
「っ、え、私の、記憶、ですか?」
赤い顔のまま、キョトンと目を丸くする。
そんな雪女の頭を撫で、申し訳なさそうに九尾は笑った。
「悪いな、話では時間がかかりそうだったのと、鴉天狗にもう怒られたくなくてな…………」
「九尾様、流石にかっこ悪いです」
百々目鬼が肩にポンッと手を置き、囁いた。
九尾の肩が微かに震えたが、咳払いで切り替え、雪女に向き直す。
「やはり、ワシを監視していた理由は、雫の命令だったか。しかも、今までも酷い扱いをされているらしいな」
九尾が覗いたのは、雪女の過去。
すべてを覗けはしなかったが、それでも今までどのような苦しみを抱えて生きて来たかだけはわかった。
「山から下りたはいいが、太陽光が思っていた以上に強く、体が溶け始めてしまった。そこで見つけてくれたのが運悪く、雫だったのだな。そこからは奴隷の日々か」
九尾が言うと、雪女は悲しげに目を伏せ、小さく頷いた。
今の話を聞いて、鴉天狗は頭を抱えながらも九尾へと振り向いた。
「事情は分かりました、酷い境遇だったのは同情します。ですが、だからと言って、今回の行為が許される訳ではありません。一目ぼれしたと言っても、罰は受けてもらうべきです」
鴉天狗の言う通り、長を監視し懐へ入り込み、他人に情報を送るのは、罰則に値する。
九尾もそこはしっかりしなければならないと思い、腕を組み考えた。
「そうだな。なら、雪女よ」
「はい…………」
「これからはワシのために働き、ワシのために動け」
「っ、え?」
雪女は、またしても変な声を出してしまった。
鴉天狗は、何度目か分からないほどの深い溜息を吐き、百々目鬼は諦めたように苦笑いを浮かべた。
「あ、あの、それは一体、どういうことでしょうか?」
「強制的にワシの嫁になるのだ。罰――――と、考えるとなかなかに、悲しいが、よい。深くは考えんことにする」
今の言葉でもう、何を言っても無理だと悟った鴉天狗は、雪女へと詰め寄った。
「そういうことらしい。嫌だろうが我慢しろ。私もものすごく嫌だ」
「悲しいからやめてくれないか、鴉天狗」
九尾は鴉天狗を後ろに下がらせ、まだ困惑している雪女に手を伸ばす。
優しく微笑み、目を合わせた。
「まだ、正式に嫁にはしないが、これからは堂々とワシを監視するのじゃよ。それで、雫に報告するがよい」
「え、で、でもそれって…………」
「安心せい。ワシはあやかしの長、たかが猫又に負けるわけないじゃろう」
――――ゾクッ
雪女の身体に悪寒が走る。
自分に向けられた殺気ではないにも関わらず、今の九尾には逆らってはいけないと思わせる視線に身体を震わせる。
九尾の左右に移動した鴉天狗と百々目鬼も瞳を光らせ、目の前に居ない敵を見据えた。
「では、いかがいたしますか、九尾様」
「人間世界にも手を出し始めているからな、まずチガヤに情報共有するついでに、人間世界にいる猫又を回収しに行くぞ」
白い歯を見せ、笑った。
下唇を舐め、立ちあがる。
「あやかしの長を狙おうとは、その度胸だけは買ってやるぞ、猫花雫よ。せいぜい、楽しませてもらおうか」
そのまま九尾は、人間の世界へと向かった。
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