13-9
九尾は「さぁ、どうする?」と、自信満々に胸を張り、問いかけた。
雪女は、この男の意図がわからず困惑。助けを求めるように、壁側にいる二人へと視線を向けた。
雪女に視線を向けられた二人は、顔を見合せた。
ため息を吐き、助け船を出すように鴉天狗が手を上げる。
「九尾様、発言してもよろしいでしょうか」
「うむ、なんだ?」
「その、嫁と言うのは、誠ですか? 数百年、九尾様は一人の女性を愛したことはなかったではありませんか。人間でもあやかしでも、遊び程度で終わらせていたというのに……」
鴉天狗の言葉通り、付き合う事はしないにしても、九尾は女性と関わる機会は多かった。
だが、九尾にとって今まで出会った女性達は、ただの遊び相手。付き合うという発想はない。
嫁にするなどもってのほか。そんな彼の姿を見て来た鴉天狗からしてみれば、今回の嫁発言はどうしても気がかりだった。
質問すると九尾は振り向き、笑みを浮かべ答えた。
「女遊びと言うのは少々語弊があるが、まぁ、良い。鴉天狗は、一目ぼれというものを信じるか?」
「一目ぼれ、ですか? まさか九尾様、そのあやかしに一目ぼれをしたと言うのですか? 今までずっと隠れて監視していた、その信用性のかけらもないあやかしを?」
鴉天狗の言葉に、雪女は気まずそうに目を伏せる。
九尾は、体ごと鴉天狗に振り向き、眉を釣りあげた。
「確かに、ワシを監視していた理由も雪女の口から聞くことが出来んかった。信用は難しいかもしれんなぁ。だが、綺麗じゃからのぉ~。男性は、綺麗な女性には弱い生き物じゃよ」
「…………はぁ?」
予想外過ぎる言葉に、鴉天狗の思考が一瞬、止まる。
今だ鼻を鳴らし、ドヤ顔を浮かべている九尾にいら立ち、顔を真っ赤にし叫んだ。
「そんな言葉で納得できるわけがないでしょうがぁぁぁあああ!!」
鴉天狗の心境は、百々目鬼も理解している為、深いため息しか出ない。
「ふむ。鴉天狗も男ならわかってくれると思ったんじゃがなぁ」
「わかるわけありません! 貴方は、自分の立場をお分かりですか!? 長ですよ、長! あやかしの頂点! なのに、そんな生半可な気持ちで嫁を貰うなんて、考えられませんよ!!」
はぁはぁと、息を切らし鴉天狗が言い切った。
九尾は耳を塞ぎ、眉間に皺を寄せる。
「はぁ、頭が固いのぉ~。いいではないか、ワシが一目ぼれしたんじゃぞ? ぬしは、ワシの目を疑うのか?」
「そ、それは…………」
九尾は普段、適当な発言が多く、飄々としている。
だが、人を見る目は確かで、一度たりとも悪いあやかしと良いあやかしを間違えた事はない。
鴉天狗は長くから九尾と共に行動している為、それは知っている。
だからこそ、言葉を詰まらせてしまった。
「ですが、九尾様。九尾様がよろしくても、他のあやかしが良しとするかはわかりませんよ」
百々目鬼がおそるおそる手を上げ、問いかけた。
すると、九尾が目線を鴉天狗から百々目鬼に向ける。
「それは、今後の動き次第だろう」
「そうかもしれませんが……」
もう、これ以上何を言っても意味は無いと感じた鴉天狗は、再度深い溜息を吐き、頭を抱えた。
「…………九尾様。
「なんじゃ、百々目鬼よ」
「そのようでしたら、雪女の現状と気持ちを聞いた方がよいのでは?」
百々目鬼の言葉を合図に、今まで何も言わなかった雪女に三人の視線が注がれる。
だが、雪女は顔を上げない。
何も反応を見せない彼女に、鴉天狗は錫杖を鳴らし詰め寄ろうとしたが、それを九尾が止めた。
「…………今は、怖がって何も言えんよな。だが、流石にここで逃げられては困る。まず、雫から命令されたのかどうかだけぬしの口から教えてはもらえぬか?」
体の向きを変えて、姿勢を整え九尾が問いかけた。
けれど、雪女は答えない。
九尾の手を払いのけ、鴉天狗が雪女へ錫杖を突き出した。
「貴様、早く答えんと、今ここで死ぬことになるぞ」
地を這うように低い声で囁かれ、雪女の肩が大きく跳ねる。
恐怖や困惑、申し分けない気持ちなどの感情が押し寄せ、我慢できず藍色の瞳から透明な雫が流れ、氷の粒になり畳に落ちた。
「おい、鴉天狗。脅すのは良くないぞ」
「九尾様、貴方は優しすぎます。一目ぼれだか何だか知りませんが、これは我々に牙を向けたも当然。敵に情報が筒抜けになっていたのですよ」
「それは、そうだが……」
「情報が筒抜けということは、我々を陥れるための策を考えている事にも繋がるのです。そうなれば、いくら九尾様であれど、危険なのですよ」
肩越しから九尾を睨み、鴉天狗が言葉を繋げた。
「長が変われば、絶対にあやかし世界は存続が危うくなる。人間世界にも影響を及ぼすかもしれぬ。それなのに、一時の気持ちで甘い言葉を言うのはおかしいと思います」
鋭く冷たい視線と、放たれた言葉により、九尾は言葉が詰まる。
すぐに深くため息を吐き「わかった」と、立ちあがった。
鴉天狗を後ろに下げ、前に片膝を突ける。
雪女の頭に手を添えたかと思えば、赤い瞳を閉じた。
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