13-7
鴉天狗が森に戻るため空を飛んでいると、感じたことの無いあやかしの気配に気づき、その場に留まった。
周りを見回し、気配の正体を探すが、広がるのは青色の景色。雲が横へと流れ、太陽が雲から顔を覗かせる。
烏天狗は「気のせいか」と思いつつも、嫌な予感が頭を占める。
一応、周りを確認しようと、街ではなく人気のない木に囲まれた森へと降りた。
「この気配、気のせいではないな。百目は気づいておるのか──っ!」
地面から突如、気配を感じた。
咄嗟に錫杖を振り上げ、足元にいたナニカを薙ぎ払った。
「ニャン!!」
聞こえたのは、猫の鳴き声。
顔を下げると、錫杖に殴られた猫が地面に転がっていた。
微かに息があるが、殴られたところは肉がえぐれ、血が流れていた。
烏天狗は警戒しながら近づき、手を添えた。
あやかしの気配を感じ、眉間に深い皺を寄せた。
今だ立ち上がろうとしている猫を掴み、顔を覗き込む。すると、攻撃しようと手を振り上げた。
顔をひっかかれそうになりすぐさま投げる。
木に体を叩きつけられ、猫は絶滅した。
「…………人間世界の猫ではないな。だが、まずい。殺してしまった……」
九尾様にどう説明すればいい!? と、一人慌てていると、頭に浮かべていた張本人が上から降ってきた。
「鴉天狗!」
「九尾様!? い、いえ、これには深い訳がありまして!!」
「猫のことだろう。安心せい、これは猫又だ。最悪、殺してしまっても問題はない」
九尾は、神妙な表情を浮かべながら猫に近付いた。
口から舌を出し死んでいる猫を見て、手を近づかせた。
九尾も微かなあやかしの気配を感じ、立ち上がった。
何も言わない九尾に、鴉天狗は不思議に思い問いかけた。
「九尾様?」
「――――あやかしの世界だけで終わらせれば良いものを」
呟くと、九尾は鴉天狗を見た。
「鴉天狗よ。早いが、こちらも大きく動くぞ。人間世界にも流れ込んでいる今、あやかし世界で大ごとを起こせばこちらにも被害が出る可能性がある」
「なら、我々がその事態を小さく収めればよろしいのですね」
烏天狗の返答に、九尾は頷いた。
すると、急に二人は森の中に視線を向けた。
「――――鴉天狗よ、その殺気はまず抑えるのだ」
「…………御意」
鴉天狗が動けば事態を確認する前に相手を殺してしまう恐れがあるため、後ろに下がらせた。
二人が睨み、森の奥を二人で凝視していると、一人の女性と少女が姿を現れた。
少女はなんでこんな所にいるのか理解できないようで、目を丸くしている。
そんな少女など気にもとめず女性は、黄色の瞳を二人に向けていた。
その女性は、九尾が話していた、猫花家に嫁いだ女性、雫。
黄色の瞳を細め、ニコッと笑った。
「――――初めまして、あやかしの長、九尾様」
雫が頭を下げ、挨拶をした。
九尾はまだ警戒は解かず、「あぁ」と、一言返す。
「挨拶御苦労。それで、なぜあやかしであるぬしが、ワシの命令以外で人間世界におるのだ? どうやって行き来している?」
九尾が問いかけると、雫はクスクスと笑った。
「特別なことはしておりませんよ。少々、樹木に妖力を多く送り込んでいるだけです」
「…………なんだと? そんな簡単に開くわけがないと思うが?」
「確かに、一人では確実に無理でしたよ。一人では、ね?」
雫が笑いながら言うと、九尾は眉間に深い皺を寄せた。
「なるほど、数を使ってこじ開けたのか」
「さすがに数百、数万の妖力があれば少しの時間であれば開きます。猫又は、数がいますので」
猫又の数は、図り切れない。
あやかし世界で生まれる時や、人間世界で現れる場合があるからだ。
数が多い種族なため、数でゴリ押すのも可能なんだなと、九尾は難しい顔を浮かべた。
「だが、なぜそこまでして、人間世界に来たのだ? 何の目的がある」
「目的ですか? それは、まぁ、色々と?」
人を小馬鹿にするように言う雫に、鴉天狗が一歩前に足を出した。
だが、すぐに九尾が手を横に伸ばし止めた。
「その、"色々"を聞いておるのじゃが?」
「そうですね。では、一つだけ。猫花家に、あやかしの長の立場をお譲り頂こうと思って、こちらに来ていますよ」
笑顔で言い放たれた言葉に、鴉天狗は驚愕の表情を浮かべ、九尾は「やはりか」と、眉間に深いシワを寄せてしまった。
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