13-2
現代に行き、待ち合わせの場所にひとっ飛び。たどり着いた先には、和風をテーマとしている高級料亭、蒲公英亭が建てられていた。
建物の前に降るように現れた九尾に驚いているのは、人間の神、神空チガヤ。
水色の腰まで長い髪に、白いブラウス。藍色のブレザーに、同じ色のスカートを着用していた。
「慌てるという気持ちはあるのですねぇ~?」
「…………すまん」
瞬間移動した九尾は、地面に膝を突き、チガヤを見上げる。
《《彼》》の黒い笑顔を見た瞬間、背筋が凍り、顔を引きつらせた。
そのあとは、ただひたすら平謝り。今回の料金は、九尾が持つという事で話はついた。
蒲公英亭に招き入れられ、予約していた部屋へと案内された。
案内人が襖を開くと、広がるのは畳部屋。中央には、大きなテーブルが置かれており、天ぷらや刺身がキラキラと輝いていた。
「ほう、出来たてか?」
「貴方でしたら遅刻をすると思いましたので、時間を少々ずらしていただいたのですよ」
「未来でも見えとるんかこやつ」と思いながらも、九尾は口にせず席に着いた。
チガヤも席に着き、髪を手櫛で整える。
女性の姿をしているチガヤを見て、九尾はお手拭きで手を拭きながら問いかけた。
「今日は女の気分なのだな」
「先ほどまで、女性とお話をしていたので。そのまま来たのですよ」
「動きにくくないか?」
「着てみますか?」
「遠慮する」
「それは残念」と、髪を後ろで一つにまとめたチガヤは、目の前に広がる料理を見る。
綺麗に飾られている天ぷら。新鮮でキラキラと輝いているのは、刺身。
人間世界の今の季節は、秋。そのためか、紅葉が料理の邪魔にならない程度に飾られていた。
「では、いただきましょう」
「そうだな」
二人は、刺身や天ぷらに手を伸ばしながら、近況報告をする。
お互いの世界に大きな事件はなかったため、近況報告はすぐに終わる。ここからは、雑談タイムだ。
「それにしても、九尾は本当にだらしがないねぇ。あやかしを束ねる事は出来るというのに、不思議なものだね」
「それとこれとでは話が違うじゃろうが」
準備されている酒をお猪口に注ぎながら、九尾は唇を尖らせる。
そんな時、チガヤが手を伸ばしながら一つのあやかしの名前を出した。
「そう言えばですが、最近貴方の目を縫って、人間界に降りているあやかしがいるらしいですよ」
「な、なんだと?」
流石に驚き、目を開く。
箸で掴んでいたさつまいもの天ぷらが皿の上に落ちた。
「ひとまず、それを頂いてもいいかい?」
「お、おう」
チガヤが伸ばしている手にお酒を渡す。
受け取りながら、なんともないようにチガヤが続きを話した。
「まだ、来ているだけですよ。それに、そこまで強いあやかしではないみたいなので、こちらとしても気にしておりません」
「そ、そうか。一応、どのあやかしが洩れておるか聞いても良いか?」
「猫又ですよ」
「猫又、か…………」
九尾はお猪口をテーブルに置き、目を閉じる。
気が高まり、チガヤは息を飲んだ。
「…………本当に、普段だらしないくせに…………」
目を細め、九尾を見る。
その目は、何か期待しているような、楽しんでいるような瞳だ。
ニコニコと笑いながら九尾を見ていると、やっと目を開き赤い瞳と目が合った。
「む? どうした?」
「いえ。やはり、あやかしの長なんだなぁと、思っただけですよ」
「おめぇさんにはいわれとーないわ」
クスクスと笑いながらチガヤは、お酒を注ぐ。
「それで? 気を巡らせた結果、何か見つかりましたか?」
「あぁ。今も、猫又は人間社会に紛れておるらしいな。今は、野生の猫として」
「”今は”というのは?」
聞くと、九尾は赤い瞳を細め、視線を落とす。
「少々、厄介なのじゃよ、猫又は。人間の姿にもなれ、人間と共に過ごせるあやかしだからな」
「それのどこが厄介なのですか? 私はあやかしについてあまり詳しくはありませんが、猫又にそこまで脅威を感じるなどは聞いたことありませんよ?」
猫又とは、猫の妖怪。
山の中で生活する獣と言われているものと、人家で飼われている猫が年老いて化けるといわれるものの二種類いる。
これだけならそこまで脅威には感じないため、九尾が警戒する理由が理解できない。
「人間にも、様々な性格な奴がおるじゃろ? それはあやかしとて同じこと。出来ることは、そのあやかしによって異なるが、荒々しい者から静かな者までいるのだ。猫又は、一晩で数人の人間を食い殺したという説もあるのじゃよ」
「そうなのですね。では、私も警戒しておきましょう」
「手を煩わして悪いな」
「構いませんよ」
「それにしても」と、九尾は顎に手を置き、考え込む。
「いかがいたしましたか?」
「いや、どのように人間世界に来ておるのか気になってな」
あやかしが人間世界に来るには、九尾が人間世界に繋がる神木に触れ、入り口を開かなければならない。
そのため、九尾をすり抜け人間世界に向かうなど、普通は不可能。
チガヤも「そうでるねぇ~」と、考え込む。
「まぁ、そのうち分かるでしょう」
「余裕じゃのぉ~」
「私ですので」
「はいはい」
そこからは深く考えることはせず、二人は飲み会を楽しんだ。
「九尾どのはなぜおんなをつくらのだぁぁぁあああ???」
「酔っ払いが…………」
最後はいつも、九尾がチガヤを送り届けて終わり。
九尾はまたひと眠りしようと、あやかしの世界に戻った。
しっかりと、猫又に注意を払って。
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