12-7
周りから人の気配がなくなる。
この屋敷の奥へと向かっているらしいな。
前を歩く静樹は、どこに向かっているのだろうか。
普通に衣装部屋か、または……。
「ふふっ」
「っ、!」
いきなり、静稀が薄暗い廊下で足を止めた。
考え事をしていると、辿り着いたのは薄暗い廊下。
ここって、使われていないのか? 左右には襖はあるが、あまり手入れされておらん。
それに、先程まで廊下に置いていた生け花も、ここには無い。
屋敷の最奥といった感じか……。
こんな所で、なぜ静稀は立ち止まり笑っている?
正直、不気味なのだが……。
「ど、どうした?」
「七氏様。私、ずっと伝えておりますよね? 貴方を好いております、と」
――――きた。
今回の誕生日会。これが狙いか。
おそらく、父上が来なければ外から逃げ道を塞ぎ、追い込められていただろう。
父上が来たことで、人気のない廊下に追い込み、物理的に逃げ道を塞いだのか。
静稀から放たれるこの空気、体に大量の針が刺さるような感覚。
殺気に近い空気に、一瞬動揺してしまった。
「七氏様。私は貴方の許嫁ですよ。私が、貴方の嫁にふさわしいのです。なのに、どこの骨とも知れない人間などを妻にするなど……。私は、許せません」
「っ!」
振り向いた静稀は、怒りの形相で我を睨む。
これは、暗器を仕込んでいる可能性があるな。
流石に女性相手に男が武器を使う訳にはいかぬ。
ここは、なんとか言葉だけで済ませたい。
「酷いです、酷い裏切りですよ、七氏様。私は、こんなにも貴方を好いているのに。貴方に、尽くしてきたというのに。なぜ、でしょうか? 貴方は、なぜ私ではなく人間を妻にしたのですか!!!!」
喉が切れそうな程に叫ぶ静稀は、今にも暴れ狂いそうだ。
抱えている感情は、おそらく怒りだけではない。その中に含まれるのは、悲しみ。
好きな人と共に過ごせない。
それは、我からすれば華鈴と離れ離れになる事。
耐えられん、辛い、悲しい。
気持ちは、わかる。だが、それに応える訳にはいかぬのだ。
ここで、我が引くわけにはいかないのだ。
一歩後ろに引くと、静稀は一歩前に出る。
「七氏様、ここで私をお嫁さんにしてくれるというのであれば、なにもいたしませんよ。さぁ、言ってください。そしたら、ここは誕生日会ではなく、婚約発表にします」
結局、そこに繋げるのか。
誕生日会の宴だと手紙を出せば、人は集まる。そこで、強制的にでも婚約発表してしまえば、周りから囲まれ、後戻りできなくなる。
父上が来なければ最初からこのように誘導されていたのか。
「なぜ、何も言わないのですか? まさか、このまま終わると思って? そんなこと、あるわけないわ。貴方が頷くまで、私は問いかけ続けます。さぁ、私をお嫁さんにすると、言ってください」
――――っ。
静樹は、猫又と呼ばれるあやかし。
いや、静稀だけではない。猫花家の者は全員、猫又だ。
爪が。鋭くなる。
猫又の爪は、少しでも掠ると肉が抉れるほどに切れ味が良い。本気で手を出されてしまえば、無傷は難しいだろう。
だが、絶対に頷くわけにもいかぬ。
ここは、女性だろうと実力で行かねばならんのか……。
「言いなさいよ!!!」
っ、駆けだした。
流石猫又、早い!
後ろに跳ぶも、頬を斬られた。
深いな、血が流れる。
床に足を突けると、目の前には静稀の手。
顔を横にそらし避ける。
「私は!! 私は本当に貴方を好いております!! あの時から貴方を!!」
怒涛に攻められ、全て避けたり流したりとするが、時間の問題だ。
――――というか、あの時? いつだ。いつのことを言っている?
「私のモノにならないのであれば!!」
――――ドンッ
っ、後ろ。壁!?
「死ね!!」
しまった、避けきれっ──……
「さすがにやりすぎだぞ、猫花家の娘よ」
思わず目を閉じると、父上の声が聞こえた。
痛みもこない。目を開けると、目の前には父上が静稀の手首を掴み押さえ込んでいる姿があった。
「父上!!」
「七氏よ。優しさは、何れ自身を亡ぼす。時には非道な判断も大事だ。今まで何度か教えたはずだが?」
「す、すいません…………」
父上が、少し怒ってらっしゃる。
あっ、雫様や他のあやかし達も廊下を走ってきた。
「九尾様!! いきなり部屋を飛び出して、何をお考えでしょうか!」
「何を考えているはこちらの台詞だ。これは、どういうことだ。なぜ、ワシの息子である七氏が傷ついている」
七氏の言葉で、初めて雫様は我の頬を見て驚愕の表情を浮かべた。
「傷……。まさか、静稀!! あれほど手荒な真似は慎みなさいと言っていたというのに!!」
雫様に叫ばれ、腕を掴まれている静稀が怯えた。
「まぁ、待て。そもそも、ここまでのことをさせたのは、紛れもない親である貴様だろう」
「違うわ。その子が勝手にやっただけよ。私は、そこまでのことをやれとは言っていないわ」
「そんなっ、母上!!」
「うるさい!! 今は黙ってなさい!! この出来損ないが!!」
っ!? で、出来損ない。そこまで、親である貴様が、言うか。
静樹は今の言葉でショックを受けてしまっている。
顔は青く、力なく顔を下げていた。
もう静稀の方は大丈夫だと判断したのか、父上は手を離す。すると、力が抜け、静稀はその場に崩れ落ちてしまった。
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