12-4
宴の日の朝、旦那様の顔色は真っ青になっております。
流石に心配なのか。旦那様の両親、九尾様と氷璃様も屋敷に来ております。
「大丈夫ですか、旦那様」
「…………あぁ、大丈夫だ」
「絶対に大丈夫ではないですよね。あの、無理はしないでください。そんなに行きたくないのであれば、今からでもお断りしましょう?」
屋敷の前でいつものように見送ろうと思ったのですが、旦那様の顔色が悪すぎるため、思わず止めてしまいました。
しかたがありません。だって、本当に顔色が悪いんですから。体調すら疑ってしまいます。
「いや、大丈夫だ。ここで断るわけにはいかぬ」
声が重い、本当に大丈夫でしょうか。
「…………七氏よ」
「は、はい」
「ワシも出来るだけ、七氏に娘を近づかせないようにする。安心せい」
九尾様が旦那様の肩に手を置き、落ち着かせております。
それでも、旦那様の顔色は変わりません。
そんな二人の様子を、氷璃様が外から見ています。
心なしか、氷璃様の顔も青くなっている気がします。どうしたのでしょうか。
「では、時間だ。行ってくるぞ」
「は、はい…………」
旦那様が九尾様続き、馬車に乗ります。
その時、氷璃様が動き出し、中に入った二人を見上げました。
「九尾様……」
「大丈夫だ、安心せい」
氷璃様の頭に手を乗せます。
なんだか、空気が重たい気がしますが、どうしたのでしょうか。
あっ、馬車の扉が閉じられてしまいます。
私も、何か旦那様に伝えたいです。あんなに暗い旦那様をそのまま行かせたくは、ないです。
「だ、旦那様!!」
「ん? どうした?」
お、思わず引き止めてしまいましたが、どうしましょう。
まだ、言葉がまとまりません。でも、引き止めてしまった以上、何か言わなければ……。
「だ、旦那様、あの…………」
「ん?」
「おかえりを、ま、待っています……ね?」
こ、これが限界です! 限界でした!!
旦那様、すいません。これしか言えない私をお許しください。
「…………旦那、様?」
「七氏?」
あ、あれ? 旦那様が固まってしまいました。
どうしたのでしょうか。
お? 顔を両手で覆ってしまいました。
「…………速攻で帰ってくる」
「は、はい。お待ちしております」
それだけ言うと、旦那様が乗った馬車が走り出します。
よ、余計なことを言ってしまったでしょうか。
どうしましょう。
私、旦那様にご迷惑を……。
「あ、れ?」
氷璃様が不安そうに眉を下げ、馬車が見えなくなるまで見届けております。
なんだか、悲しそうというか、今にも泣いてしまいそうな空気です。
「あ、あの。氷璃様?」
「っ、あ、はい」
私が呼びますと、氷璃様が慌てた様子で振り向きます。
どこか、焦っています。どうしたのでしょうか?
「なにか、ありましたか?」
「い、いえ、なんでもないわ。早く屋敷に戻りましょう」
「あ、はい」
なにか、言いにくいことでもあるのでしょうか。
なんだかこれから、波乱が巻き起こるような予感が、します。
このまま何事もなく、終わるといいのですが……。
※
「それにしても、やりおったなぁ。まさか、最後の最後で頬染めの上目遣いで攻めてくるとは」
父上が、うるさい。
今も「カーカッカッカッカッ」と、笑っている。
まぁ、父上の言う通り。まさか、あそこまで可愛いことをしてくれるとは思ってもいなかったから驚いた。
華鈴の背景に薔薇が咲き誇り、思わず言葉を失ってしまった。
「…………」
綺麗で、美しい華鈴が頑張って我を応援してくれた。
これは、頑張らねばならんな。
「喜んでいるところ悪いが、七氏よ」
「は、はい」
い、いつの間に落ち着いていたらしい父上が、真剣な表情で我を呼んだ。
ど、度したのだろうか。
「出来る限り共にいるように努力はするが、もしかするとワシとは別行動になる可能性がある。その時は、一人で頑張るのだぞ」
「…………嫌です」
「情けないことを言うでない。まったく…………」
それは、お許しください。
我、本当に、グイグイくる女性は苦手なのだ。
「ところでだが、今回の宴――というか、誕生会の詳細はわかっておるのか?」
「詳細ですか? いえ、普通の宴を想像しているのですが、違うのですか?」
「誕生日会だろう? 普通の宴ではない。おべっかを使って静稀を褒めねばならんだろう」
…………なるほど。
我も、空気を読んで静稀を褒め、祝わなければならん。
おべっかだとしても、口にした言葉は消えん。
まずいな、その場で言った言葉を鵜呑みにされてしまったらめんどくさい事になる。
それに、宴の場には我ら以外のあやかし達のいるだろう。
そんな中で言ってしまった言葉を嘘とは言えん。警戒していたはずなのに、やってしまった……。
「去年の悪夢がぁぁぁぁああ…………」
「去年は本当に、大変だったのぉ」
去年は、我もここまで警戒はしておらんかった。
ただの宴の招待だと思っていたのだが、違ったのだ。
招待されていたのは、まさかの我ら九火家のみ。
そこからはまさに地獄。
お酒を飲ませようとしてくる、誘ってくる、ベタベタしてくる。
もう、断るのも難しく、言葉を選んで拒否しても「七氏様が私を拒絶するのですー!」と泣き叫んで、両親に助けを求めていたなぁ。
そこで、なぜか我が怒られた。
「はぁぁぁぁぁ…………」
「出来る限り穏便に事を勧められるよう、ワシも動くつもりだ。だから、頑張るのだぞ」
「はい」
ここまで来たのであれば、もう覚悟を決めるしかない。
なんとか、我慢してやり過ごすぞ。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
出来れば次回も読んでいただけると嬉しいです!
出来れば☆やブクマなどを頂けるとモチベにつながります。もし、少しでも面白いと思ってくださったらぜひ、御気軽にポチッとして頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします(*・ω・)*_ _)ペコリ




