8ー15
我が何もしないでおると話が進み、結局最後は巫女が折れ、頷いてしまった。
「ありがとう、これからは華鈴、貴方のお世話は任せてちょうだい。貴方が最後の日を迎えるまで、日替わりで面倒を見るわ」
今回持ってきた食事を無理やり押し付け、四人組はその場を後にする。
一人残された巫女は、もらった野菜や肉じゃがなどを抱え、その場に膝から崩れ落ちた。
「…………仕方がない、のですね。ですが、教えてください、神様。私はなぜ、この世に生まれてきてしまったのですか。このような人生を送るのなら、生まれたくなかった…………」
巫女の声は涙ぐんでおり、耳を澄まさなければ聞き取れない程か細い。
声は掠れ、嗚咽を漏らす。
地面に蹲り、静かに泣き続けた。
「…………」
自然と巫女に伸びた手。
この手で、我は巫女に何をしようとしている。
我は、今の巫女に何が出来る。
この伸ばした手で、我は巫女を救えるのか?
――――今の我は無力だ。
なにもできん。巫女一人すら、救えんのだ。
胸が痛い。何かによって握りしめられているような圧迫感を感じる。
それと同時に、針か何かで刺されているような、ズキズキとした痛みまで感じる。
この、胸の痛みはなんなのだ。
この、胸に膨らむ不愉快極まりないものは、なんなのだ。
わからぬ、わからぬ……。
わからぬが……。
我は、あの娘を助けたい。
あの、巫女の涙を拭いてあげたい。
他の誰でもない我が、巫女――華鈴を地獄から救い出したい。
※
この日から妙に巫女について気になり、父上の目を盗み神木へと向かい現代へ行っている。
時々、神木が道を開けてはくれないのはなぜだろう。
行ける時と行けない時の差は、なんなのだろうか。
何か、条件があるのか……。
考えても今は分からぬ、行ける時に行こう。
「――よしっ、今回は無事に来れたな」
現代に行き、神木に一礼。
上の方にある太い枝に座り、神社で清掃をしている巫女を見守る。
何か特別な動きが無ければ見ているだけで終わり。
だが、時々神社へ来門者が訪れるようになり、その時は神木から降り、気づかれない程度まで近付いて行く。
”もしも”があってからでは遅いからな。
しっかりとご飯を食べられるようになったからか、遠目からでも健康体に戻りつつあるのはわかる。
だが、これは神へ捧げるため。神に捧げるのだから、貧相な姿では失礼に値すると勝手に人間どもが決めただけのこと。
神など信じてはおらんくせに、そこまでやるか……。
まぁ、良い。今はその食事はありがたく食べておくのだぞ、巫女。必ず、我がぬしを救い出してやる。
絶対に、神の捧げものにしてやるものか。
※
満月の日が刻一刻と近づいている時、父上が突如、驚きの言葉を発した。
「もうそろそろワシ、隠居生活がしたいと思っておる」
思わず手に持っていたお芋の天ぷらを落としてしまった。お皿に上に落下したため問題はない。
それより問題なのは、父上の発言。
「九尾様、隠居生活がしたいとは? もしかしてなのですが、あやかしの長を七氏に引き継ごうとお考えで?」
「うむ、そうだ。七氏もだいぶ九尾の力を使いこなせるようになってきた。それだけではなく、現代の空気にも慣れ、今では問題なく仕事をこなしている。少々危ない所もあるが、それはワシらでカバーできる範囲。まだワシらが元気で動ける時に引き継いだ方がいいだろう」
そんな、縁起でもないことを言わないでくださいよ、父上。というか、父上は絶対にまだまだ元気でしょう。
もう千年くらいは元気に駆け回るでしょう。
「九尾様にもしもの時が来るとは想像すら出来ませんが、人生何があるかわかりませんものね。私ももうそろそろ隠居して九尾様を独り占めっ――こほん。休みたいわね」
意味のない咳払いでしたよ母上、しっかりと最後まで申しております。独り占めしたかったのですね。
「ですが、我はまだ不安です。仕事内容も、お手伝いくらいしかしておりません。一人で出来る自信がまだ……」
「さすがに、代替わりをしたからと言ってすぐ一人で仕事はさせんよ。最初は近くでワシが見ている」
そんなことを言われましても。我はまだまだ不安が残ります。
箸をテーブルに置き俯いていると、頭に冷たい手が乗っかる。これは、母上の手でしょうか。
ちらっと見てみると、母上が笑みを浮かべ我を見ていた。
「七氏、貴方は真面目で、なんでも一人で背負い込んでしまいがちです。まるで、昔の九尾様を見ているようで、私は不安があります」
…………へぇ、父上。昔は頑張っていたのか、意外だ。
「ですが、そんな努力家で頑張り屋さんな貴方だからこそ、私達は言っているのですよ」
「ですが、頑張っているからといって、それが報われる訳ではありません。失敗してしまったら……」
「失敗してもいいのです、不安に思ってもいいのです。貴方の失敗や葛藤を見届け、正しい道へと導くのが私達、親の仕事なのですから」
にこっと微笑む母上は本当に美しく、実の息子である我でも見惚れてしまいそうになる。
父上の方を見ると、母上の言葉に賛同するかのように腕を組み、頷いていた。
「それにな、ぬしはこれからは一人ではなく、しっかりと支えてくれる者が現れる。だから、安心せい」
「え、支えてくれる人? それは一体…………」
我が聞くと、二人は先程の優しい笑みからにんまりとした、何かを企む笑みへと切り替えた。
……………………嫌な予感…………。
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