8ー14
――――――――よっと。
現代に辿り着いた……らしいな。
見渡してみると、周りはただの森。
緑に包まれ、先ほどまでいた場所と大差ない。
だが、現代に来たということはすぐに分かる。
「やはり、空気が濁んでおる。この空気はどうにかならんのか?」
こればっかりは口に出したところで意味はないのだがな。
そんな事はわかっておるが……。
――――気にしても仕方がない、今は巫女だ。
神社にいるだろうか?
森から出るため、神社に向かう。
カサカサと草木の音を聞きながら歩いておると、すぐに道が開かれ神社が見えて来た。
周りは相も変わらず、寂れている。
賽銭する人もいない。
試しに目を閉じ人の気配を探るが、全く感じんな。
巫女の気配すらもだ、いないのか。
そう思っておると、神社の方から人影が出てきた。
戻ってきたのかと思い少し喜んだが、どうやら違うらしい。
来たのは巫女ではなく、三十~四十くらいの男女四人組。
険しい顔を浮かべ、神社の中をドタドタと乱暴に入ってきた。
これは、見つかったら色々めんどくさいな。
人間に姿を見られんようにしよう。
妖術で人間達から姿を認識できないようにし、一応木の影に移動。
人間達が何をするのか、少々見させてもらおう。
――む、よく見てみると、手には紙が握られておる。
中途半端に離れている今の場所からでは、紙の内容まで見れんな。
「――声と物音に気を付ければ、近付いても問題はないか」
足音に気を付けながら、本堂の前で立ち止まっている者達の後ろまで歩き、紙を覗き見る。
そこには、大きく四文字の漢字が書かれていた。
”人身御供”
その四文字の下にも細かな文字が書かれておる。
サラッと読んでみるに、書かれておるのは人身御供のやり方や食事などだな。
これをなぜ、わざわざこんな所に持ってきたのだ?
後ろに我がいると到底思ってもいない男女組は、辺りを見渡し何かを探している様子を見せる。
ここに来たという事は、探し人は巫女だな。
他に探すものなどおそらくないであろう。
「あの餓鬼はどこに行ったのかしら。せっかく食事を持って来たというのに」
「まったくだ。今年の人身御供の生贄に選ばれたのはあの餓鬼だと、早く教えてやらんといかんのに」
――――っ、なるほどな。そういう事か。
人身御供は、人間を神への生贄とすること。
今年の生贄は、あの巫女。だから、食事を持ってきたのだな。
神に捧げるのなら、今の彼女では貧相で駄目と考えたのだろう。
「今年でラストの人身御供よ。まぁ、神など存在しているのかわからないけれど」
「それでも、俺達は今まで一年に一回、人身御供をしてきた。神への信仰についても語ってきた。しっかりと騙されてくれるだろう。俺達が神を信じ込んでいるという事を。本当はまったく信じていないがな」
「そうねぇ……。『私達は、貴方が大事にしている神木のために今まで頑張って人身御供を続けてきわ。だから、貴方も神木を守るため、人身御供に協力しなさい』っと、このような感じでいいでしょう?」
「うまいなぁ、そんな感じでやろうか。どうせ、すぐには受け入れないだろうしな」
神社に響き渡る笑い声。耳障りで、聞くに絶えない。今すぐにでも消してやりたい。
「…………」
――――――――ブワッ
「ひっ!? な、なに!?」
一人の女性が我の方に驚愕の表情を浮かべ振り向いた。
だが、意味はない。我の姿は人間には見えん。
しかし、さすがに感情が溢れすぎた。
体から妖力が溢れ出てしまったな。
いかんいかん、怒りを抑えろ。
ここで怒っても意味はない。
「ふぅ……」
怒りを抑え、空を仰ぎ気持ちを落ち着かせる。
空気は濁っておるが、空は綺麗な青色。
――やっと気持ちを落ち着かせることが出来た。
一息つき、再度人間共を見る。
……それにしても……うーむ。
人間共の考えはわかった。だが、難しいな。父上に相談しようか。
いや、絶対に否定される。我一人でどうにかしなければならん。
顎に手を置き考えておると、鳥居を潜る一人の女性が目の端に映る。
振り向くと、そこには今回我が現代へ来た目的人、巫女の姿があった。
巫女が帰ってきたことを確認すると、人間共は嫌な笑みを浮かべ顔を見合せ頷き合う。
すぐに演技のような悲しげな顔へ切り替え、巫女へと近付いて行った。
「待っていたわ、華鈴ちゃん」
「っ、え、おばさま? なぜ、ここに。数年間、一度もここへ足を踏み入れる事はなかったのに…………」
いきなり声をかけられた巫女は驚きで目を開き、四人を見回す。
そんな巫女の困惑などどうでも良いのか、おばさまと呼ばれた女性が眉をわざとらしく下げ、悲し気に手に持っていた紙を渡した。
巫女は素直に受け取り、眉を顰めながらも紙を見る。
「これって…………」
「そうなの、もう儀式を行わなければ神様の逆鱗に触れ、神木が危険に晒されることになるわ。でも、今はもう若い女性は貴方しか残っていないの」
今にも泣き出しそうに、女性は自身の胸を押さえ巫女を惑わそうとしている。
「私達は苦しい思いをして、貴方の代まで神木を繋げてきた。それなのに、今ここで神の逆鱗により幸せを壊されるなんて……考えたくないわ。だから、ね? 今回の人身御供の生贄になってくれないかしら?」
……わざとらしいな。
これが大根役者か。だが、巫女は信じてしまったらしい、紙を握る力が強くなり、皺を寄せている。
「…………あの。もう、人身御供をやらなくても良いのではないですか?」
「駄目よ! ここでやめてしまったら、今まで人身御供をするために捧げられた命が全て無駄になるのよ!? 貴方は神様に捧げられた今までの想いを無下にするつもりなの!?」
「いえ、そんなつもりは…………」
「なら、素直に頷いてちょうだい。今年の人身御供の生贄人は貴方よ。ほら、満月の日になるまで、お世話は私達がしてあげる。今までまともな食事をしてこれなかったでしょう?」
手に持っていた野菜や、透明な入れ物に入っている肉じゃがなどを見せつけ、誘惑するように巫女に見せつける。
肝心の巫女は困った様に後ずさっていおるが、頷くまでは絶対に逃がすものかと言うように、四人が追い詰めた。
手を貸したいが、ここで我が感情のままに動いてしまい人間の長に見つかってしまえば、父上の立場が危うくなってしまう。ここは、耐えるしかない。
湧き上がる憎悪と怒りを押さえつけるため拳を握っておると、微かな視線を感じた。
顔を上げ巫女の方を見てみると、合うはずのない瞳と目が合った。
――――揺れている。救いを求めている、そのような黒く濁った瞳を浮かべていた。
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