8ー9
「…………ん」
…………周りが暗い、体が重たい。
「ん-、今、何時だ…………」
――――――――ズキン!
「いっ…………」
頭、痛い。
体を起こそうとしただけで、頭に強い痛みが……。
なんだ、これ。体が重たい、関節痛。
風邪をひいた時のような症状だ。
「ゴホッゴホッ…………」
喉が張り付く感覚があって気持ちが悪い、呼吸がしにくい。
「…………みず、のみたい」
水、飲みたいけど、ない。
誰かを呼びたくても、声が出ない。
――――しかたがない、自分でいくしかないか……。
重たい体を無理やり起こし、引きずるように廊下にでる。
「うっ…………」
寒い、いつも歩いているはずの廊下が、ものすごく寒い気がする。
それに、暗い。
いや、暗いのは当然だ。
これだけ静かなのだ、今は真夜中。皆、寝静まっているはず。
「…………はぁ」
声が出ない以上、自力で行くしかない。
幸い、まだ眩暈はあるが、壁に手を付いていれば問題はない。
ゆっくりと、廊下を進む。
昼間は女中が家事のために駆け回っていることが多いからか、このように人がいない廊下は寂しさを感じるな。
――――――――ブルッ
「っ、寒い。早く水を飲んで部屋へ戻ろう」
真っすぐ台所へと歩いていると、一つの部屋に灯りがついていた。
あそこは、母上と父上の寝室。
なぜ、こんな時間に灯りがついておるのだ? 単なる消し忘れか?
消し忘れの場合、消してやらんとならぬな。
部屋の近くまで行くと、二人の話し声が聞こえた。
まだ、起きていたのか。
なら、特に灯りを気にせんでも良いな、台所へと向かおう。
部屋を通り過ぎ台所へと向かおうとした時、ちょうど二人の会話が耳に入ってしまい足が自然と止まる。
『七氏はなぜ、あんなに憔悴しきっていたのですか? さすがにあそこまで貴方が無理をさせたり、放置はしないでしょう?」
母上の声だ。我の事を話しておるのか。
心配をかけてしまっておるな。
『今回はワシが悪かった。目を離してしまったのだ』
『目を離してしまった? 何かあったのかしら?』
『あやかしの気配を感じてな。見に行っている間に何かあったらしい』
…………むむ、心配をかけてしまっておる。
あれは、父上は全く悪くないというのに……。
『共に居た百目に聞こうにも口留めされているようで、目を逸らすのみだったのだ。だが、何か言いたそうには見つめて来る、困ったものだ』
『どのくらい離れていたのでしょうか』
『わずか五分程度だ』
『五分……。その間に何があったのかを話してはくれないのですね』
『そうだ。ワシに話しにくいのであれば、氷璃にだったら……。そう思ったが、それより先に寝てしまったからなぁ。また起きた時にでも聞こうとは思う』
ここまで、心配かけてしまっておる。
どうすればよかったのだ。話しても、今以上に心配かけてしまう、いや、幻滅されるか。
どっちにしろ、話した方がリスクはあるだろう。でも、ここまで心配するなど、思ってもいなかった……。
『まだ、七氏に現代は早かったではないでしょうか』
っ、早かった……。
我にはまだ、早かったのだろうか……。
『現代は危険が沢山と耳にしております。七氏にもしもの事があった場合、私は耐えられません。七氏は私にとって、何物にも代えがたい、たった一人の息子なのですから』
――――っ。
母上は我を、大事にしてくれておるのだな。
こんな、醜い傷がついてしまった我の事も、愛してくれるのだな。
『安心するがよい、それはワシも一緒だ。だからこそ、今回の件は少々気になる。何があそこまで七氏を弱らせたのか。原因がわかれば、対処が可能だ』
『そうね。明日、話してくださるかしら……』
『さぁな。だが、根気よく待とうではないか。なぁに、ワシらの息子だ、心配はいらん』
『そうだと、いいのですが…………』
ここまで、二人に心配をかけておる。
――――そうだ、二人が我の容姿だけで迷惑など思う訳がなかった。
それだけではなく、共に解決策を考えてくれるだろう。
我の両親は、優しく温かい方達なのだから。
……………………。
――――――――ガラッ
「っ、?」
「あら、七氏? なぜ、このような時間に?」
父上が驚き我を見て、母上が問いかけてきた。
今なら、声が出る。しっかり、話さなければならんな。
「すいません、先ほどの話が偶然聞こえてきまして……、いえ、本当に偶然なのです。喉が渇きましたので水を取りに行こうとしたら、お二人の会話に我の名前が出てきたため、気になってしまい……。途中からは、耳を澄まし、聞いて、おりました…………」
勝手に盗み聞きをしてしまった事を謝罪すると、何故か二人は顔を見合せ始めた。
怒っているのだろうか、盗み聞きした事を……。
「その件については特に何も思ってはおらん。それより七氏、おぬし…………」
「え、なんでしょうか?」
父上が問いかけると、何故か母上と目を合わせた。
む? 母上が我の方に向ってきたぞ。
頬に手を、添えられた? な、なんなのだ?
――――えっ、眉間に皺を寄せ始めてしまった。
どっ、どうしたのだろう。
「貴方、熱あるわよ? しかも、すごい高い……」
「え、そんなはずはないと思うのですが…………」
我が否定していると、今度は父上が「それ」と。野太い声で言いながら立ち上がり、我の傍へと来た。
母上と同じく手を頬に添え、次におでこ、首筋も触られる。
むむ、これは一体何なのだ。
「これは、確かに熱があるな。高熱だ」
「え、いえ。そんなはず…………」
「頭痛、関節痛、眩暈、倦怠感。これは感じるか?」
「確かに、頭痛と関節痛はありますし、体は重く、壁に手を付きながら廊下を歩いていました。え、この体の不調は、熱だからなのですか?」
「十中八九、熱だろう。明日、医者をここに呼ぶ、それまで寝ておれ」
父上が我を自室に戻そうと背中を押してきた。
でも、聞きたい事や話したい事があるから、ここでやすやすと戻るわけには……。
「あの、父上、我の体調はおそらく現代に行ったからだけではないです」
「その話は、ぬしの熱が下がってからゆっくりと――………」
「あの、父上、母上。我の顔は、気持ち悪いのでしょうか?」
背中を押されながらも絞り出した言葉。
その言葉を聞いた二人は動きをピタッと止め、驚きの顔を浮かべた。
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