8ー8
「――――――――ん? 七氏様、どうかしましたか?」
百目が声をかけてきた。
な、なんと答えればよいだろう。
…………あんなことを言われたのは、初めてだ。
この感情がどのような感情なのか、どのように言葉にすれば良いのかわからん。
「――――っ、七氏様、体調が悪化したのでしょうか。無理しないでください、タクシーの中に入りましょう」
「い、いや。我は大丈夫だ。心配せんでも良い」
「ですが、顔色が悪いです。やはり、現代の空気が慣れないのでしょう。九尾様が帰ってくるまでどうか我慢してください。戻ってきましたらすぐにあやかしの世界に帰りましょう」
その場で力なく地面に崩れた我の背中をさすり、安心させるように百目が言ってくれる。
この胸のムカムカは、本当に現代の空気に当てられただけだろうか。────いや、違う。
「…………百目、我の顔は気持ち悪いのだろうか」
「? いきなりどうしたのでしょうか?」
顔を上げ百目を見るが、目を合わせられん。
すぐに逸らしてしまう。
その態度が今までの我とは違い過ぎるのだろう、百目が我の名前を呼び慌てている。
今の百目の態度や言葉からは、嫌悪などの感情は感じ取れん。だが、我慢させてしまっているのかもしれぬ。
「……いや、何でもない、少々驚いただけだ。今はだいぶ落ち着いた」
「いえ、あの、先ほどの質問は一体…………」
「なんでもない、なんでもないぞ、百目。あと、今の事は父上へ報告しないでもらえると助かる」
「ですがっ──」
「頼む、百目」
顔を前髪で隠しながら横目でお願いすると、百目が目を逸らしつつも小さく頷いてくれた。
ふぅ、まさかあそこまで言われるとはな。
周りの人を考えろ――か。
確かにそうかもしれぬな、不快な思いをさせてしまっている我が悪い。
もしかしたら、父上や母上、百目や女中達も同じことを思っていたのかもしれん。
気まずかったが、我が気づかんかったから普通に接してくれていたのだな。
そう考えると、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
前髪が無駄に長くて良かった。顔を少しでも隠せる。
だが、完全に隠せはせんか。
なにか、顔を隠せるもんを探さんとだな。
そんな事を考えていると、父上が空から降ってきた。
「ふぅ、終わった終った。まさか悪霊どもが人間を驚かせていただけだったとは。まったく、世話妬かせよって……ん? どうした?」
「い、いえ…………」
父上はいつもと変わらんな。そのおかげか、心が少し楽になった。
百目が何か言いたげに我を見て来るが、約束は約束だ、何も言うでないぞ。
「七氏? 何かあったか?」
「いえ、なにもありませんよ、父上。体調もだいぶ良くなりました、これならまだ遠くに行けそうです」
父上へ駆け寄りいつものように言うと、何故か眉間を寄せてしまった。な、なぜだ?
「父上? どうしましたか?」
父上に問いかけるが、何も答えてはくれない。
いつもならすぐ答えてくれると言うのに……。
「七氏よ」
「はい」
「ワシとの約束は、忘れたか?」
ん? 約束? それはもちろん覚えておるぞ。
「父上から離れない、気分が悪くなったらすぐに伝える。これは覚えておりますよ」
「そうだな。七氏、気分が悪いように見えるが、それは大丈夫になるのか?」
「? 吐き気などはだいぶ収まりました、目眩なども先ほどより治っております」
「…………はぁ、そうか」
っ、いきなり父上が我の顎に手を添え、顔を無理やりあげさせられてしまった。
父上の真紅の瞳と目が合う。
父上の瞳に、我の驚愕した顔が映る。
――――何も、口に出来ぬ。
「…………無自覚か」
一言零すと、父上が我から手を離し、腰に手を回し無理やりだき抱えられた。
「っ、父上?」
「百目、今日はここまでだ。色々振り回して悪いな、また後日、頼むぞ」
我の言葉を無視し百目に言うと、父上が上へと跳んだ。
刹那、たどり着いたのは現代に来ると、いつも通る神社。
またしても一瞬でここまで戻ってきたらしい。
「あの、父上? なにか、怒っておられませんか?」
「そうだな、怒っておる。ワシは、怒っておるぞ七氏よ」
「な、なぜですか? 我は何かやらかしてしまったのでしょうか」
ハラハラしながら聞いても、父上は答えてくれない。
我とも目を合わせてはくれない。
父上は、怒る時は相手を諭すように怒る方だ。
今のような怒り方は、今までしてこなかった。
これ以上質問するのは怖いから、何も言えぬ…………。
父上はそのまま森の中に入り、神木を通りいつもの世界に戻ってきた。
屋敷には母上が前回同様、布団などを準備し待機しておった。
我らを見た瞬間、母上は心配そうに駆け寄ってくる。
「七氏、どうしたの!? まさか、立てなくなるくらい気分が悪くなってしまったのかしら」
「いえ、なんでもありません。体調の方も問題ないのですが…………」
父上をちらっと見るが、我の視線など無視し、父上は部屋へと入り我を布団に乗せた。
あとは女中に任せ、母上と共に部屋を出て行ってしまわれた。
「…………我は、迷惑かけてばかりだな」
我は、父上のように偉大なあやかしになれるのだろうか。
いや、なれん。こんな弱い我では、他人を考えられん我では、父上のような偉大なあやかしになど、なれる訳がない。
目から何かが流れ落ちる。
すぐにそれを拭い、服のまま布団の中に入った。
隣から我を心配する声が聞こえるが、答える余裕がなく目を閉じ、無理やり夢の中に入る事にした。
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