8ー7
「準備は出来たか、七氏よ」
「はい、準備は完了しております」
部屋まで迎えに来た父上は前回と同じ、黒い絝に白い襟の付いた袖の短い服だった。
我も同じく、穴の開いた絝に白い薄い服、黒い上着を着て準備は完了。
鞄を手に持ち、廊下を歩き出した父上の後ろを付いて行く。
それから馬車に乗り、神木へ。
父上が神木に触れると、またしても強い光が放たれ、思わず目を閉じる。
次に目を開けると、何も変わらない神木。
父上が我の手を掴み、中へと入った。
「よっと」
神木を通り、雑草が生い茂る地面に足を付け周りを確認すると、薄暗く、どんよりとした空気が広がっている。
この感覚だけで、現代に着たのだとすぐにわかるな。
我に続き、父上が地面に足を付け、辺りを見渡し始めた。
「無事に到着したな。体調は大丈夫か?」
「今のところは問題ありません。体が少々重たい気がしますが、これにも慣れていかなければ父上の手伝いが出来ませんし、頑張ります」
「そこまで慌てんでも良いぞ。時間はたっぷりあるのだから、ゆっくり成長していければそれでよい」
カサカサと草木を鳴らしながら、父上が森の中を歩き出す。我もおいて行かれないように後ろを付いていく。
鳥がはばたく音、木が揺れる音。
自然の音は、あやかしの世界と変わらんはずなのに、なぜか別次元のように感じるのは、この重たい空気が原因だろうか。
空を見上げてみても、木々で遮られており、見えん。
一応、曇りなのかどうかだけはわかるがな。太陽の日差しが注がれておらんし、肌寒い。
っ、空に気を取られていると、父上がどんどん森の中を進んでいた。
見失わないように追いつき歩くと、無事に森を出た。
「…………雨の匂いがする」
「そうだな。今日は天候が怪しい。また、前回とは違う意味で急がなければならんな」
「そうみたいですね」
改めて空を見ると、暗雲が立ちこめている。
肌寒いのも、天候が原因か。太陽の光は、少しでも覗いていれば温かい。
まったく陽光が注がれておらんかったから、こんなにも気温が低いのだな。
「…………」
そういえば、今日は本殿から現れぬのだろうか。ここに住んでいる子供。
痩せているように見えていたから、少々心配してしまう。
父上に置いて行かれないようにしつつ、後ろに建てられている本殿を見ていると、大きな扉が音を立て開かれた。
「っ、出てきた」
扉の奥には、先日見た巫女の姿をしている子供が箒を持って現れた。
やはり、痩せている。
力もないのか、扉を体を使って開けていた。
食事すらまともに摂れない環境なのだろうか。
むー、声をかけたいが、父上に迷惑はかけられん。
それに、声をかけるにしても、我のようなよくわからん人物と話をしてくれるかもわからぬ。
怪しまれてしまっては、本末転倒。
準備も何も出来ていない状態で声をかけるのは、辞めておこう。
前を向き直すと、百目が父上と話していた。
そんな二人の後ろには、たくしーが止まっている。
「では、今回もこれに乗って移動してみるぞ。今回はもっと遠くに行けると良いな」
「ど、りょくはします。ですが、期待はしないでください…………」
「わかっておる。さぁ、乗るんだ」
「はい…………」
百目が扉を開け、我と父上が乗り込んだのを確認すると運転席に座り、また音を立てゆっくりと動かした。
※
「おえぇぇぇぇぇぇぇえええ」
「今回は前回より少し距離を伸ばしたな。百目、水は持っておるか?」
「はい」
またしても、我は気持ち悪さに体が耐えられず吐いてしまった。
たくしーを脇に寄せ、今は外で休憩中。
橋の上に道路が作られており、下から水の音が聞こえる。
周りは緑に囲まれ、木々が風によって揺れ自然の音を奏でる。
我が住む世界のように空気が澄んでいれば心地の良い場所かとは思うが、さすがに現代の空気では気持ちも上がらん、沈むばかりだ。
「────むっ」
「? いかがいたしましたか、九尾様」
ん? 父上が急に立ち上がり、空を見上げた。
どうしたのだ?
「…………少々、気になる空気が流れてきておるのぉ」
鼻を引く付かせ、周りを見る。
百目は、父上の言葉に警戒を高め、白い手袋を脱ごうとした。だが、それより先に父上が百目を見る。
「百目よ、七氏を頼めるか?」
「大丈夫ですが、何を感じたのですか?」
「悪いモノが動いておるだけだ。安心せい、ワシ一人で片が付く」
言いながら父上が姿を消してしまった。
もう気配すら感じん、どこに行ったのだ?
「七氏様、体の方は大丈夫でしょうか?」
「あぁ、前回でだいぶ体が馴染んだのか。今はだいぶ楽になった」
「それなら良かったです」
我の体は回復したが、それより気になることがあるのだ。
「百目、父上は一体どこに行ったのだ?」
「おそらくですが、現代で暴れている悪妖怪を見つけたのだと思います。そのようなモノ達に制裁をするのも、あやかしの頂点である九尾様の仕事。安心してください、すぐに戻ってこられるでしょう」
「はぁ…………」
では、ここで待っているしかないのか。
仕方がない、父上が戻ってこんと我もここから動くのは少々怖い。
百目がいるからまだ安心だが、体調が優れない今、あまり離れてほしくはないものだ。
――――本人には絶対に言わんがな!
「ふぅ…………」
地面に座り、橋の手すりに背中を預け、空を眺めて父上の帰りを待つ。
百目はタクシーに背中を付け、現代での連絡手段によく使われておるらしい”すまほ”と呼ばれる物を操作していた。
「…………む?」
我らが来た方向から、人の笑い声が聞こえ始めた。
おっ、人間二人がこちらに向かって歩いて来ておる。
そういえば、道の端は歩道と呼ばれ、人が歩く部分だと父上が言っていたな。
笑い声をあげながらこちらに歩いて来ていた人は、どうやら女性らしい。
髪を一つに結び、動きやすい服を着用している。あれもお洋服と呼ばれる物なのだろうか。
頭には、鍔の付いている帽子をかぶっていた。
キャッキャッと、楽し気に笑いながら我の前を通りぬける。その際、突風が吹き荒れ、女性がかぶっていた帽子が我の方に飛ばされてきた。
「あっ…………」
女性が振り向き、帽子を探しておる。
大事なものなのだろう、届けないといかんな。
重い体を立ち上がらせ、帽子を片手に女性へと近づき声をかけた。
「あの、これをお探しか?」
「あ、ありがとっ――……」
…………ん? 我の顔を見た瞬間、女性は言葉を詰まらせた。
何故か驚いたように目を開き、我の顔を見てくる。
「えっと、なんだろうか?」
「あ、いえ。なんでもありません。ありがとうございます」
「あ、あぁ」
我から帽子を奪い取ると、慌てて歩き去る女性二人。
何か、悪い事をしてしまったのか?
人間はよくわからん。
また先ほどまで座っていた所に戻ろうとした時、後ろから先ほどの二人の会話が聞こえて来た。
「さっきの人の顔、見た?」
「見た見た。かっこよかったけど、あの目元の火傷? あれはちょっとないよね。気持悪い……」
「だよね……、しかも、平然としているのがさぁ。なんか、気まずさとか恥ずかしいとかないのかな」
「ないんでしょう? なんか、嫌だよね。周りの人の事も考えてほしい。何て言えばいいのかわからない」
「そうだよね…………」
…………目元の、火傷。
これは、我が小さい頃にお湯がかかってしまった時の傷。
今までそのような事を言われたことはなかったが、これは、気持ち悪いのか。
周りの人は、これを見ると気分を害するのか。
「…………」
我は、気持ち悪いのか…………。
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