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第98話・魔力を引き出す

 とりあえず風呂に入ってから、那由多くんとおっさんがオレの部屋に集まった。


「おっさん、心当たりがあるってのは本当か?」


「ああ」


 おっさんは深刻な顔で頷いた。


「だが、言えない」


「何で」


 那由多くんがすかさず切り返す。


「そいつを警戒すればいいんだろう?」


「今までの()()()の手口を見てきたろう?」


 おっさんは深刻な顔で言った。


「確かに嫌らしい攻撃ばかりしてきたな」


 那由多くんは腕を組んで空を見上げた。


「ミスリル集めの時も、課外授業の時も、モンスターの襲撃に合わせて攻撃を仕掛けてきた。ゴーレムを呼んだことも。全部オウルに見破られたけどな」


「そしてオウルが邪魔となったら誘き寄せて大怪我を負わせた……呪いに近い攻撃で」


「こっちから攻撃を仕掛けるべきだろう」


 那由多くんは真剣な顔で言った。


「おっさんが心当たりがあるって相手に、こっちから行くべきだ」


「勝てるならね」


 おっさんの声は深刻以上に深刻だった。


「キールを倒せるだけの力を持っていなければ、こっちから攻撃を仕掛けても逆襲されるだけ。アドニスも言っていただろう?」


「そうだけど……」


「だけど、相手はそんなに強いのか?」


「強いね」


 おっさんは即答した。


「今の私たちより、そして今の私たちが倒せないキールより」


 そしておっさんは沈んだ顔で言った。


「今は学校中を先生が警戒していている。だから、()()()は手を出せない。だが、それは逆に、()()()に手出しできないことも意味するんだ。君たちも、ある程度予測があるはずだ」


「予測って」


「少なくとも、この学校の関係者であることは間違いないだろう?」


「……そりゃあね」


「学校関係者なら、立場を守るためにも今は手を出さない。キールを倒せば姿を現すと言うのは、恐らくは()()()は、神那岐君は魔王との戦いに敗れて死んだとしたいんだ。そうすれば悪いのはキールと力量不足だった神那岐君のせい。普通の大学でも年に何人かは生徒が亡くなっている、ましてや勇者養成業だ、どうしようもない死亡というのはあり得る」


「……つまり、だ。()()()はどうしても、雄斗が負けて死んだことにしたい、と、こういうわけか?」


「恐らくは」


「じゃあ、キールを倒さなかったら逆に安全なんじゃ」


「逆だよ。私たちがキールを倒せないレベルのままでいたら、()()()が動かないから学校の警戒が解ける。そうすれば()()()は心置きなく神那岐君を殺せる、と言うわけだ」


「そうか……」


「じゃあ、僕たちにできることは何もないってことか?」


「実力でキールを倒せるようになるまでレベルを上げるしかない」


 おっさんの結論が出た。


「キールとの戦いで隙を見て襲撃しようとする()()()を返り討ちにする。それしかない」


「しかし、これ以上強くったって、身体を鍛えても……」


「そう、肉体的に強化しようとするのは魔法や薬品の力を借りるしかないレベルまで上がっていると思う。今の私たちに必要なのは、経験値と……魔力だ」


 そこでオレは思い出した。ラウントピアで那由多くんと交わした会話を。


「那由多くん、オレの魔力を高める訓練を……」


「オウルがいればよかったんだけどな」


 那由多くんは溜め息をつく。


「僕の魔力を引き出してくれたのはオウルだ。オウルが僕の魔力に干渉して、……なんて説明していいか分からないけど、そうだな……オウルの魔力で、僕の中の詰まったホースを通してくれた、みたいな?」


「何その家庭用洗剤みたいな」


「他に説明しようがないから仕方ないじゃないか。僕の中の魔力の流れを、オウルの魔力でより多い魔力が循環できるように強化して、心臓・脳・肺にある魔力臓器から一度に出せる魔力を引き上げたんだ。もちろん僕の魔力が元々高かったというのもあるけど」


 しっかり自分は褒めるんだな。


「オウルは魔力の流れを操るのは一流で、だから僕は学校でも有数の魔力の持ち主と認められるようになった。でも、僕が雄斗の魔力をそこまで引き出せるかは分からない」


「とりあえずやってみよう」


 オレは息を吐いた。


「オレが一人でライオンアリを召喚できるようにならなきゃ、キールを倒した瞬間にでも襲ってきそうな()()()を返り討ちに出来ないってことなんだから」


「じゃあ、とりあえずベッドに腰かけてくれ」


 那由多くんはオレを腰かけさせると、ベッドの上に立って、頭に手を置いた。


「目を閉じて。呼吸を整えて、脳、心臓、肺から魔力が流れているのを感じる」


「いや、オレ魔力の流れなんて感じたことない」


「イメージでいいイメージで。まず大きく魔力を吸う。息を吸うんじゃない、魔力を吸う。魔力が肺に至って、赤血球を伝って心臓に至る」


 『魔力を吸う』のと『赤血球を伝う』がさっぱり意味が分からないけど、とりあえず呼吸を整える。


「次に、脳から首を通って、心臓に至るイメージ」


 頭から心臓までの辺りに意識を向ける。


「そのまま、心臓から血液が全身に巡る。大動脈から全身の毛細血管にまで届き、静脈に戻り、心臓に戻る」


 言われているままに意識を向けているけど、特に何も起こらない。


「口から吸った魔力が肺から心臓に至り、全身を巡り、脳を満たし、古くなった魔力を静脈から肺に至らせて口から吐き出す。そのイメージを続けて」


 言われたまま息を吸ったり吐いたりしていると、全身が何だか暖かくなってきた。


「じゃあ、実際に魔力を流す。少しずつ流すから、びっくりするなよ」


 頭に置かれた掌の感覚が、急に熱くなった。


「?!」


 ドクン。


 心臓が高鳴る。


 吸い込む息がマグマのような灼熱に感じる。


 灰が焼けそうになって息を吐きだそうとするけど、熱は肺から心臓へ至り、全身に流れる。一気に全身の汗腺と言う汗腺から汗が噴き出る。


「ぎ、ギブギブ!」


 オレは悲鳴を上げた。


「わ、悪い。ちょっと魔力を流し過ぎた」


 飲み物を探してわたわたするオレに、おっさんがペットボトルを渡してくれたので、大急ぎでミネラルウォーターを飲み干す。


 肩で息をするオレを見て、おっさんが那由多くんに聞いた。


「どうしたんだい?」


「魔力を流し過ぎたんだ。細いホースで水族館の水を出そうとしたようなもの。細いホースに負担がかかった」


「やべ……死ぬかと思った……」


 まだ身体がカッカカッカしてる。


「そんなにヤバいのかい?」


「本来なら、少しずつ魔力を流してホースを太く長く丈夫にしていって、水槽を大きくするものなんだけど……僕は魔力を解放するのは得意でも手加減するのは苦手だから……」


「なるほど……」


 もう一本のミネラルウォーターを飲んで、オレはやっと体の熱が引くのを感じる。


「だけど、一呼吸はできた? 僕が魔力を流してから、吸って、吐いて」


「二回目に吸おうとして喉が限界超えた」


「なら、魔力の流れは分かったはずだよ」


 さっきの感覚を思い出して、体内に意識を向ける。


 じわじわと全身を熱が流れているのが分かる。


「なんか……うん、詰まった細いホースってのは分かった」


「一度は魔力の流れを感じたんだから、意識すればある程度呼吸で魔力を吸って肺から心臓、脳に通る感覚ができるはずだよ」


 無意識にしていた呼吸に意識を戻して、恐る恐る息を吸う。


 呼吸の中に熱があり、器官から肺に至り、心臓に。脳を含めた全身に熱が流れ、また外に出て行く。


「オウルは魔力の流れを調整して少しずつやってくれたけど、僕のはショック療法みたいなもんなんだ。電流流して心臓動かしたみたいな」


「なるほど」


「ただ、一回流れた魔力は、そのまま意識し続ければ感じられる。それを常時感じて、ホースを太く丈夫にしていくイメージを持ち続ければ」


「でも、ショック療法もいいかもな」


 オレは三本目のペットボトルに手を伸ばしながら言った。


「一日一回、ショック療法で魔力を流せば」


「結構体に負担かかるだろ。それに、オウルの痛みも背負ってるんだろ?」


「オウルの感じてる痛みは、今のオレが感じているのよりもっと大変なんだ。オレが限界まで行かないと勝てないって言うなら、限界になってやるまでだ」

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