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第95話・ふしおう の ひまつぶし

『これは見事』


 手が動くなら拍手をしていそうなアドニスの声に、オレは応えることができなかった。


 限界まで魔力を使ってライオンアリを具現化し、十体の隷死スレイブ・デッドの魂を黒水晶モリオンに宿したのに限界で、もうぐったり。


 ぐったりなのはオレだけではない。那由多くんも、ハルナさんも、おっさんも、ライオンアリの具現に足りない魔力を借りたんで、もう限界。


 オレは足から崩れ落ち、床に伏せる。


「ハルナ……さ、動け……」


「何……?」


「サック……の、中……ポーション……」


 やはり一番体力を残していたハルナさんが、疲労で重いだろう体を引きずって、うつぶせに倒れているオレの背に担がれているサックに手を突っ込んだ。


「一本、二本、三本、四本……」


 ぞろぞろ出てくる、水晶瓶に入れられた魔力ポーション。


「……ねえ」


「……はい?」


「幾つ……持ってきたの?」


「保存庫の中……空にした……」


「でしょうね……」


 林立する八十本の魔力ポーションの水晶瓶は圧巻だった。


「……やっぱり、荷物、あなたに任せて正解だったわ……」


 ハルナさんはとりあえず一本の栓を抜き、ポーションを一息に飲み干した。


 それから、もう生も根も尽き果てた三人の口元まで魔力ポーションを持ってきてくれた。


 何とか一本飲み干して、オレは上半身を起こす。


「ふぅ……助かった」


 もう一本に手を伸ばしながらオレは改めて元の世界で眠り続けるオウルを思う。


 オウルが簡単にやっていた、魂の解放と浄化が、オレにはこんなに難しい。


「改めて、オウルに感謝だな……」


 一番魔力を持ってかれてた那由多くんが器用に寝たままポーションを飲んでいる。


「そうだね……結局、ここでも、オウル君に、助けられた……」


 おっさんも壁に寄りかかってポーションを飲みながらしみじみと呟く。


「神那岐君がオウル君の力を使えなかったら、隷死スレイブ・デッドとまともに戦うことすら出来なかった……」


『見事じゃないか。ただの卵と思っていたが、死霊術ネクロマンシーを使って隷死スレイブ・デッドを解放するとは……』


「はいはい、暇つぶしになったかよ」


合成獣キメラの死霊を使い、肉体の封印を破って自分の支配下に置くとは……なかなか見られるものではない。死霊術師ネクロマンサーの神髄だ』


「はいはい、どーも……」


 魔力を回復しないとろくに考えることもできない。


『その技を使えればキールをも打ち倒すことができような』


「はいはいどー……も……?」


 魔力がある程度回復していたオレたちは、アドニスの漏らした言葉に一斉に振り向いた。


「キールを……倒す……?」


隷死スレイブ・デッドは元は何だった?』


不死王ノーライフキング


『如何にも。そして君たちが狙う魔王キールは何だったかな?』


「……不死王ノーライフキング……!」


『その通り。隷死スレイブ・デッドと魔王キールは同じ特性を持っている。しかも今の私のように封じられていれば……同じ戦法で倒せるだろう』


「……!!」


 全員、口を開いて絶句していた。


 いつの間にか、魔王の倒し方を、教えてもらってしまっていたのだ。


「……それをオレたちに教えて、どうしようってんだ?」


『どうもしない』


 アドニスは楽しげに笑う。


『君たちとキールとの対決、そしてその後の()()()との戦いがどうなるかを、特等席から見せてもらうだけだ』


 退屈なのでな、とアドニスは笑う。


「でも、あなたの封印を解くわけじゃないわよ? どうやって見物する気よ」


「こいつらか」


 オレは手首の輪を撫でた。


隷死スレイブ・デッドは吸われた魔力で不死王ノーライフキングと繋がっている。魂を浄化されても天に上がるまで繋がりは消えない。アドニスはこの場所でオレたちとキールや()()()との戦いを見られるってことだ」


『そう。そして、君の言う()()()は、その為に君の魂の片割れを襲ったのだ。彼がいるだけで、キールを高い確率で浄化させられるからな』


「!」


 それか。


 キールがアンデッドモンスターだと知っていれば、高レベルの死霊術師ネクロマンサーだったオウルを軸に作戦を練っていただろう。


 ()()()は恐らく、オレたちがキールを倒した瞬間に襲ってくるつもりなんだろう。その時、オレたちが消耗していなかったら戦闘しにくい。


 ずっと、()()()はすぐに自分に気付くオウルが邪魔だったと思っていたけど、それ以上に、死霊術師ネクロマンサーとしてのオウルを恐れていたのか。


 それで。


 それで、オウルを。


「……なんで、それが分かるんだ?」


『分かるともさ。君にまとわりつく怨念と言ってもいい感情。闇魔法を極めれば君にも分かる。使い魔が分からなかったのは死霊であっても魂が純粋だったからだ。怨念には敏感でも、それが誰のものかと考えることはなかったから』


 空になった水晶瓶を片付けて、オレたちはようやく立ち上がった。


『これ以上は言えない。ヤツは強い怨念でこの私の口をも封じているからな』


「マジでか」


『本当だとも。ヤツは君の魂に呪いを刻み込んで、危険を呼び寄せるようにしている。そんな呪いを受けながら君が未だに死なないのは、周りの人間には危害が行かないようにしているからさ。ヤツが周囲の人間も敵と判定すれば、世界中の全ての危険が君に向かって襲い掛かるだろう』


「……闇魔法にある」


 那由多くんは唾を飲み込んで呟いた。


「呪いの一種。周囲の危険を呼び寄せて、自分には疑いのかからないように相手を傷つける、或いは殺す……暗殺に持って来いの呪い、招危呪縛カース・デンジャー・コールだ」


「そんなものが……人間に使えるの?」


「闇魔法はほぼすべて人間が考え出したものだよ……。他の魔法にはお告げを受けたりして開発された魔法があるけど、闇魔法は人間、或いは元人間だったモンスターが編み出したものばかりだ……」


「解く方法は?」


「呪いをかけた相手に解かせる他は、強大な闇魔法、或いは対抗できるような光魔法でなければ……」


『せいぜい頑張って、その怨念を振り払うことだ。クク……楽しみだな』


 アドニスは楽しげに笑った。


「はいはい、感謝はするから大人しくここにいてくれ……」


 ようやっと回復した魔力で、オレたちは階段を昇り始めた。


 足がガクガクなのはどうもなりそうになかったが。

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