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第91話・らうんとぴあ

「これ、これ、これ……」


 アイテム倉庫でオレは生徒持ち出し可の品物から使えそうなのを片っ端から無限ナップサックに放り込む。


 ちょっとわかったことがあって、サックだと大口で大きなものを入れられるけど、ポーチはポーチで戦闘中に物が取り出せるというありがたさが分かった。


 もちろんもう一個手に入れたいとは思わないけど。


 死んで後、オウルの危機にオレを叩き起こしてくれた最初で最後のライオンアリには恩義を感じているんだ。その血縁をもう一匹倒して……なんてのは考えられない。


 はっと気づくと、倉庫の中のほとんどの物を入れていたことに気付く。


 いや……ハルナさんが要ると思ったものを持って行けって言って……オレは思ったものを入れただけなんだけど……やっぱりオレ、マキシマリストだなあ……。別名、片付けられない症候群。


 それだけのものを入れても少しも膨らんでいないサックを担いで、オレは寮に戻る。


「やあ、神那岐君」


 二科の星名くんと安藤くんの二人組に出っくわした。


「聞きましたよ、勇者実習に行くとは本当ですか?」


「……どっから聞いたの」


「先生から」


 二科の担任は誰だっけ……先生がやたら多いから、科の担任でも名前を知らない先生がいる……。


「オウル君を救うには勇者になる必要があるんだって?」


「勇者になって出てくる敵を倒さなきゃいけないって言うけどね」


 星名くんがちょっと声のトーンを落とした。


「うちの二人もオウル君がいなくて元気ないんだ。出来れば卒業までにオウル君が元気になればいいと思う」


「うん」


 スサナ先生の塔で、眠り続けるオウル。スサナ先生は何かの呪いも関係していると言っていた。闇魔法の呪縛ではなく、オウルやオレに対する怨念だとも。


 過去を探ってもどうしてもオレが誰かに恨まれる理由が分からなかったが、相手はこっちを殺す気でいるのは間違いない。


 オウルはスサナ先生に任せておけば大丈夫だろうけど、オレがラウントピア転移した先に()()()が待っている可能性もある。……いや、でも、スサナ先生の予言では相手はこちらが勇者の証を手に入れるまでは来ない、というはずだ……いやでも、スサナ先生が言ってたじゃないか。予言は変わるって。しかもこうすれば免れるって助言すらなかった予言は、不吉な方に成就する可能性が高いとも言っていた。


 でも。


 絶対に倒されてなるものか。


 オウルも、オレも、絶対に生き延びる。



 翌朝。


 時間通りに全員が転移門に集まった。


 物足りない、と感じて、それがオウルの存在だと思って、辛い。


 誰より早く来ていたのは、博……先生だった。


「全員集まりましたね」


 篠原先生も立っている。


「では、ミーティングを行いますので、こちらの部屋へ入ってください」


 転移門の入り口にある小さな小屋で、オレたちは初のミーティングを受ける。


 そういやミーティングって初めてだ。最初が抜き打ちテスト、次がアイテム探しで先生同伴じゃなかったし、三回目のトカスは先生に秘密で行ったから、事前説明なんて何もなかったし。


「ラウントピアは、死霊界とも呼ばれた、アンデッドモンスターがたむろする世界です。もちろん皆さん事前に調査をしているから御存知でしょうが、上級アンデッドと言われる部類のモンスターの生まれ故郷と言ってもいいでしょう。もちろん、そんな世界に派遣するのは、皆さんがミスリル装備を持っているからということもありますが、魔王キールの劣化版である不死王ノーライフキングの封印を調べることにより、魔王キールの実力を感じ取ってほしいと思うのです。キールも封印によって力が落ちています。しかし」


 そこで先生は言葉を切った。


「まだ、君たちは不死王ノーライフキングと戦えるまでには至りません。間違っても、封印を解いて戦おうなどとしないように。それだけは念を押して言っておきます」


 ……トカスに勝手に行っていたのを言葉裏で責めてんな……。


「つまり、不死王ノーライフキングが中ボスで、魔王キールがラスボスってんだろ?」


「その通りです。そして君たちのレベルはストーリー中盤までは行っていません。中ボスにも敵わないと思ってください」


 そしてラスボスを倒したら()()()っていう隠しボスがいるんだな。


「では、レーデル王に失礼のないように。それは土田さんに任せておけば大丈夫だとは思いますが、大沢君は口を開かない方がいいでしょう」


 うん、那由多くんが口を開くとケンカになるからな……。


「では、篠原先生の指示に従って行ってきてください。気を付けて」



 転移した場所は、城の中だった。


「勇者様!」


 警備兵らしい男が、オレたちが転移したのを確認して、敬礼してから慌てて部屋を出て行く。


 数分後には、オレたちは赤絨毯の上で、数段高い所から玉座に座ったレーデル王の前に立っていた。


「よく来てくれた、勇者殿」


「我々は……」


「いや、分かってる、君たちが、まだ勇者とは呼ばれないということは」


 年老いた王は軽く手を振った。


「だが、この世界は君たちの世界からやって来てくれた勇者によって救われた。そして君たちも、私の要請を受けて来てくれた。それだけでも、この世界の民は感謝するのだ」


 おっさんは深々と頭を下げたので、オレたちも続いて頭を下げた。


不死王ノーライフキングの封印を確認するなど、我々だけでやってくれと言いたいかと思う。だが、この世界は死霊界とまで呼ばれた、アンデッドに溢れた世界。この世界に命ある者と明るい太陽が戻るにはまだ時間がかかるのだ」


「ご期待に沿えるよう、努力いたします」


 おっさんがもう一度頭を下げる。


「では、行かせていただきます」


「……頼むぞ、勇者の卵よ」


 そうやって城の外に出ると、死霊界ラウントピアと言われる世界があった。


 昼なのに、太陽に光は弱い。寒くはないけど熱気もない。大地も痩せている。


 吸った空気が、抜き打ちテストで訪れた村を思い出させる。


 転移したのは昼であって、さすがに昼間っからうろついているアンデッドはいないだろうけど、警戒しているのか、街道沿いや村などのあちこちで火が焚かれていた。多分二十四時間燃やされ続けているんだろうな。


 兵士が封印されている祠へ案内してくれると言うので、オレたちは馬に乗って祠に向かった。


 ちなみに馬の練習は異世界転移した場合移動手段になる場合が多いので、練習時間はありました。だからオレたちも乗れます。当然。


「空気が澱んでるわね」


「死霊界と呼ばれる程ですからね」


 先頭を行く兵士が首を竦める。


「勇者が大勢やってきて不死王ノーライフキングやその他のアンデッドを封じて下さったおかげで、上級アンデッドがいなくなりましたが、死霊は結構いますからね、民にも銀のナイフが配給されているほどです」


「襲われたら厄介だな」


「死霊は銀には弱いですからね、ましてや皆さんは勇者、ミスリル装備は死霊には強いですから」


 しばらく行って、兵士が馬を止めた。


「ここです」


 灰色の石で作られた祠が、そこに建っていた。

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