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第89話・急げ!

 オウルを取り戻すには、魔王キールを倒し、()()()を倒さなければならない。


 それを知ったオレたち三科は、授業に一層熱が入った。


 一分一秒でも早く、オウルを取り戻したくて。


 あの陽気な声で、話しかけて欲しくて。


 オレは毎日寝て起きて、オウルの止まり木のある場所を見て、いないのを確認して、落ち込み、そして腕輪を使って、オレとオウルの繋がりを作る。


 全身に走る痛みは、今オウルが感じているものだ。


 オレを守るために、オウルが負った痛みだ。


 オウルに意識がなくても、それは分かる。


 だから。


 魔王キールを倒し、()()()を倒す。


 その為に、オレたちは必死に頑張っていた。



「魔王キールを倒せるだけの強さ」


 博の説明に、全員ノートを取っていた。


「最初に神那岐君が言ったように、ゲームのようなステータスがあれば分かりやすいのですが、残念ながらこの世界にステータスを表す数値はありません」


 それがあればなあ。キールを倒すタイミングが分かりやすいんだが。


「さて、魔王キールは私が倒して封印した魔王、というわけで、私はキールの特徴や弱点を知っています。もちろん卒業試験なので、インチキは出来ません。ですが、助言は出来ます。現在、皆さんの行ける世界の中で、魔王キールに近い能力を持つのは、「ラウントピア」にいる不死王ノーライフキングです」


 不死王ノーライフキング


 その言葉を聞くなり、那由多くんの態度が劇的に変わった。


 うん、那由多くんはそれでいいよ、うん。


「で、不死王ノーライフキングの説明ができる人」


 すかさず那由多くんが手を上げる。


「大沢君」


不死王ノーライフキングは、全ての不死者アンデッドの王と呼ばれる存在です。……死霊術師ネクロマンサー……と呼ばれる研究者が不死を求め、研究の結果生きながら不死者アンデッドになった存在です」


「はい、その通り」


 死霊術師ネクロマンサーと言った時に声が少し落ち込んだのは気のせいじゃないだろう。那由多くんもオウルが好きだから。最初こそ死霊だ亡霊だと騒いではいたものの、闇魔法の勉強を一緒にして、オウルに導かれて魔法の才能を花開かせたのだから。


「逆を言えば、不死王ノーライフキングを倒せれば魔王キールを倒せる、ということになりますが、だからと言って今の皆さんが戦いに行くことは、私はお勧めしません。不死王はモンスターの中でもトップクラスに強い。今の皆さんで不死王ノーライフキングを倒すのは限りなく不可能に近い」


「倒すには何が必須ですか」


 ハルナさんの問いに、博はホワイトボードに書き込んでいく。


「最低でもミスリル装備は必要です」


「なら持ってる」


 那由多くんの言葉に、博は溜め息をついた。


「そういうと思っていました」


「持っているだろう」


「まだ皆さんは、装備に着られている状態です」


 要するに、ゲームでレベル低い時にカジノで大当たりして、パーティー全員最強装備を揃えたってところだな。


「今の自分が装備に相応しい人間か、と問われて、あなたは即座に頷けますか?」


 ミスリル装備は、どの世界の冒険者も憧れるもの。そして、勇者と名乗るのであれば揃えていなければならないもの。逆を言えば、ミスリルを持っていれば勇者と名乗っても疑われないものだ。あの忌々しい胃袋狩りがオレたちの装備を見て掌を返したのはそう言う理由があった。


 そして、そんな物凄い装備にオレたちが見合っているかと言えば。


 まあ、ダメだよな。トカス半島に行くことすら命懸けだったんだし、あそこではほとんどオウルにおんぶ抱っこだったから。


 あ。ヤベ。オウルのこと思い出すと涙出そう。


「皆さん、分かっているようですね。そう、装備に着られている状態では、真の敵は倒せません。本当ならば残り半年以上をかけて成長していくものですが、皆さんが成長を望む理由を知っている今、皆さんが一分一秒でも早く魔王キールを倒せるよう、後押しをするのが、教師の役目だと思っています」


 先生は言った。


「トカス半島から帰ってすぐで申し訳ありませんが、明日十時三〇分から、皆さんに、勇者実習へ行ってもらいたいと思います」


 全員の目の色が変わった。


 勇者実習。それはオレたちであればもっと経験を積まないと行けない、勇者派遣の依頼を受けて異世界へ派遣される実習のこと。


 確かにミスリル装備を手に入れれば勇者実習は出来ると聞いたことはあるが……マジか?


「派遣先は『ラウントピア』」


 聞いたことがあるような……。


 あ! 聞いたことあるなんてもんじゃない、ついさっき聞いたじゃないか!


 魔王キールに近い力を持つ不死王ノーライフキングがいるっていう異世界だ!


「要請者はラウントピアのフアニン国王レーデル。国内にあるかつて勇者が不死王ノーライフキングを封じた封印の状態を確認してほしいとのことです」


「封じた? つまり、不死王ノーライフキングは」


「眠っています。当然でしょう。起きて動いている不死王ノーライフキングを倒す仕事を、まだ半年未満のヒヨコにもなっていない人間に回すほど日本は愚かではありません」


 それもそうだ。


 あれだけ博が「今は敵わない」と言っていた相手に直接ぶつけるわけないもんな。


「先生、つまり、わたしたちを派遣するのは、不死王ノーライフキングの強さを悟れ、ということですね」


「その通りです、風岡さん」


 博は頷いた。


「以前魔王キールと出会った時の皆さんでは、魔王に圧倒され、その実力を図れなかったと思います。ですが、あれから成長したのであれば、封印された不死王ノーライフキングの魔力などを図れるものと考えています。不死王ノーライフキングとの戦いは、半年後に必ず来るキールとの前哨戦と思ってください。その為に、不死王ノーライフキングを知り、戦略を、戦術を練って、その上で実力をつけ、自分たちの手に入れたミスリル装備に輝かせてもらうのではなく、ミスリルをも圧倒する光を持つ者として、魔王キールと対峙してください」


 ぱん、と博は本を閉じた。


「本日これ以降の時間は自習とします。不死王ノーライフキングについて調べるもよし、持って行くアイテムを整えるもよし。九時半にに転移門前に集合、ミーティングの後、転移となっています。遅刻厳禁です。では、解散」


 言って博は出て行った。


 博がドアを閉めるのと同時に、三人がオレの机の周りに集まった。

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