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第88話・復讐者を探せ

 その日の夕方。


 オレは久しぶりにかーちゃんに電話をかけた。


『なんだい? 学校をやめる羽目にでもなったかい? もう戻る場所はないよ?』


「相変わらずパンチキツイな。残念ながら無事在学中だよ。今回電話したのは、聞きたいことがあったから」


『家に帰してくれ、というならお断りだよ』


「だから違うって! ……かーちゃん、少なくとも二十五年オレの面倒見てるよな。オレのことは大体知ってるよな」


『あーそうさ、あんたは悪戯好きで勉強嫌いでゲームだけ好きで……』


「だから脱線すんな! 聞きたいことあるのはオレだから!』


 ふう、と一息ついて、聞いた。


「かーちゃんから見て、オレ、恨まれるような人間だった?」

 ()()()がオレを狙っている。つまり、それは、相手はオレに復讐をしたい……何らかのオレが原因の被害に遭っているってことだ。


 だから、オレの過去を知る数少ない人物……かーちゃんに聞くことにしたのだ。


『恨まれる?』


 かーちゃんはきょとん、を声にしたような声で繰り返した。


「ああ」


『わがままで迷惑は散々かけられたね』


「それはかーちゃんの感想……」


 と言いかけて、両親が()()()だったら、と思った。


 二十五年職に就く様子もない息子、保険金でもかけてたら事故に見せかけて……とも考えられる。


 だが、かーちゃんはそれを否定した。


『どんなぼんくら我儘迷惑息子でも、一応息子は息子さ。面倒見るのは親の義務だし、今あんたは学校に行って、職を探してるんだから、少なくとも前よりはマシな人間だろとあたしは思ってるよ』


 とりあえず両親が()()()でないことに息を吐き、次の疑問をぶつける。


「家族じゃなくて、学校とかで、オレ、恨まれるようなことしてた?」


『学校?』


 オレは塾などに行ってなかったから、心当たりは近所か学校しかない。


『う~ん』


 スマホの向こうで母親は唸り声を上げ、意味のある声が入って来たのは少し経ってからだった。


『多分、ないと思うけどねえ』


「マジか」


『学校でいじめがあったとか、そう言うのは聞かないし、あんたがそれに関わっていたとも聞いてないよ。教師が黙っていることにしていればわかんないけど』


 で、とかーちゃんは切り返してきた。


『恨まれてる心当たりでもあるのかい?』


「ないから聞いたんだ。少なくともオレに記憶はないし、でも事実誰かから恨まれてるんだから聞いたんだ」


『命でも狙われてるのかい? だったら警察に行きな』


 いや、そりゃ無理だな。


 相手は勇者並みのスペックを持っていると予測される。警察どころか、例えSP二桁に守られていたとしても、火球爆発ファイア・ボールを一発放り込まれたらおしまいだ。


「そこまでじゃないよ」


『たとえ裁判沙汰になってもこっちには金がないからね、援助はできないよ』


「これ以上とーちゃんかーちゃんに迷惑はかけらんねーよ」


『ほー。あんたからそんな殊勝な言葉が出るとは思わなかった。学校はまともなことを教えているんだね。じゃああたしからも少し教えておいてやる』


 何? とオレはスマホを耳に押し付けた。


『あんたが仮に恨まれているとして、恨んでる相手はあんたの謝罪が欲しいんじゃないのさ。自分が恨んでいることを思い知らせて、自分と同じ痛みを味わわせて、倒れてるあんたを見下ろして笑いたいってことだけさ。話し合いなんか聞かないよ。相手はあんたが泣いて救いを求めているのを蹴り飛ばすことを望んでるんだから』


「……不吉な助言ありがとう」


『恨まれているとしたら、せいぜい身の回りに気を付けるんだね」


 電話は切れた。


 スサナ先生より現実味のある不吉な予言をされてしまったが、とりあえず親に心当たりはなし。すると。


「……博かなあ」


 十歳の時に別れたけど、それまでは仲良しだった幼なじみ。いささか頭の固い所はあったけど、親友と呼べるのはあいつだけだった。


 …………。


 聞いて見るか。


 多分、それが一番手っ取り早い方法だから。


 オレは職員室に向かった。



 職員室の前で、ノックをして、「失礼します」と入室する。


 職員室は広い。


 たった十二人を教えるのに三十人近い教師がいる理由は、この先生たちが別にオレたちを教える為だけにいるわけじゃないから。


 卒業していった勇者が新しい魔法を覚えるためここにやってくることもあるし、勇者が異世界に派遣される入り口もここ。手に入れたアイテムを換金したり新しいアイテムに作り直す工房もここにしかない。結果、生徒以上にここを訪れる勇者が多く、それを捌くために教師が増えるというわけで。


 獣牙先生や篠原先生のように自分の担当場所にいて職員室に滅多に戻ってこないというパターンもあるので、教師は現実には五十人近くいるんじゃなかろうか。


 さすがは国立。


 と感心している場合じゃなかった。


 机の列を前に何やらパソコンをいじっている博を見つけて、近寄る。


「先生」


「神那岐君。どうしましたか?」


 オレは博の耳に口を近付けた。


「個人的に聞きたいことがある。時間もらえないか?」


 博はしばらく目をぱちくりさせていたが、頷いて立ち上がった。


「ついてきてください」


 職員室を一度出て、生徒指導室に入る。


 オレを先に入れて、博が魔法で鍵をかけると、座るように、と椅子を示した。


 大人しく座ると、博もすぐに前に座った。


「個人的に聞きたいことって?」


 その口ぶりが先生モードではなく幼なじみモードだったので、オレはちょっと安心して、そんな場合かと気を引き締めて、博の目を見た。


「オレ、ガキの頃、誰かに恨まれるようなことをしたことがあるか?」


 博もかーちゃんと同じ、きょとんとした目でオレを見た。


 けど、立ち直りはかーちゃんより早かった。さすが勇者。


「オウルの一件か?」


「ああ」


 オレは唸る。


「それ以前からオレは命を狙われていたのは知ってるよな」


「風岡さんからも聞いたし篠原先生から報告も受けている。二回、命を狙われてたな」


「今回の騒動で三回だ」


「そうだな……オウル君がいなければ、お前、死んでたかもな」


 博もオウルが気に入っていたようで、深いため息をついた。


「スサナ先生の予言があったんだ」


「予言? あの人の予言は基本的に異世界に旅立つ人間に送られるものだぞ?」


「だけど、オウルを連れて行った時、スサナ先生は確かに予言をした」


「それは初耳だな。どんなだ」


「オウルを取り戻すには、勇者の証を……つまり魔王キールを倒すことでしかありえないと。でも、そうなったら()()()と戦うことになる。()()()は、オレを憎み、恨んでる、と」


「お前を憎み、恨んでる、ね」


 博は腕を組んでそっくり返った。


「……同級生の親には結構睨まれてたな、お前」


「え。なんで」


「崖を滑り降りるとか、イケダヤノカイダンオチ~とか言いながら神社の石段転がり落ちたりとか」


「……あったな」


 当時はイケダヤノカイダンオチの意味を知らず、ただ階段をゴロゴロ転げ落ちていた覚えがある。


「お前、そう言うヤバい遊び好きで、友達も連れて行ってたから、お前の母親、しょっちゅう謝りに回ってたぞ」


「マジですか」


「マジです」


 ヤバい、記憶にねえ。


「……でもそんな遊びの時、お前、参加してなかったな」


「見るからにヤバい遊びをするほど俺は無茶じゃなかったの」


 博は呆れ声。


「返す言葉もございません……」


「成長してからもそれは変わってなかったみたいだけど」


 う……担任に無断でトカスに行った時のことを言われてる……。


「乱暴な遊びが好きではあったが、普通に子供だったよ、お前」


「普通に子供だった時代に恨まれたんじゃなかったら、中学、高校……いやニート中も入るか……?」


「恨みなんてのは、気付かないうちに持たれるものだからな」


 博は深刻な顔をした。


「しかも命まで狙われるなんて尋常じゃない。……キールを倒せるようになれ」


 博は一瞬教師の顔を取り戻した。


「オウルを助けるにはキールを倒し、()()()を倒すしかないってことだろう? なら、キールを倒せるようになれ。時間はないぞ。学校的には半年以上あるけれど、ケガをしたオウルの容体はいつ悪化するか分からないんだから」


「それが一番、か」


「あとな、多分思い出そうとしても無駄だと思うぞ、恨んでる相手って」


「無駄?」


「恨まれるのを覚悟で行動に出る時よりも、無意識でやった時の方が、根に持たれる可能性は大きいんだ。無意識だから記憶に残らない。ただ相手の記憶に残るだけだ」

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