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第83話・きたへ きたへ

 毎日の繰り返しのマラソンのおかげで馬鹿みたいに体力のついたオレたちは、暑さ寒さに耐えてひたすら北に突き進んだ。


 オウルの後を追って黒い塊がついてくることが増えた。


 知性を持ってしまったがために苦しんで成仏できないライオンアリたちが、オウルに一縷の望みを託してやってくるのである。


 進めば進むほど、四方八方から黒い塊がやってきて、白い光となって空に昇っていく。


 夜明けに進むオレたちの上空で、光が弧を描いて消えていく。


「オウル、大丈夫なのか?」


 オウルの肉体に負荷はかかっていないものの、死霊にも精神力に限界がある。限界を超えて精神力を使ってしまえば、消え去ってしまう可能性もあると、闇魔法の先生が言っていた。


「無理はすんなよ、絶対」


「うん」


 オウルが空を見上げる。


 魂たちが空に昇っていく。と言うか、こんなにたくさんライオンアリがいたのか?


「ちがうよ。ずっとずっとむかしからここからでられなかったんだって。ここにはたくさんの、きめら? がいたんだって。みんなくるしくてつらくてかなしくて、でもどうやっておそらへいけばいいかわからなかったんだって。だから」


「キメラ……」


 おっさんが少し唸った。


「もしかしたら、北の果てにいるのはライオンアリじゃないかもしれないぞ」


「おっさん?」


「ライオンアリの創造者は不明、だったよね、風岡君」


 ハルナさんが頷いたのに、おっさんが頷き返す。


「その創造者が北の果てにいたのかもしれない」


 きょとん、とハルナさんと那由多くんがおっさんを見る。多分オレも同じ顔をしているだろう。


「キメラがたくさん、そう言ったね?」


「うん。いろんなどうぶつをくみあわせたのが、きめら、でしょ? みんな、いろんなすがたして、そしてくるしくてしかたないんだって。いきてるときも、しんだあとも」


「つまり、あれか」


 オレは眉間にしわが寄るのを止められなかった。


「キメラを作るだけじゃなく、その結果とかを確認するために知性を与えて、無駄だと思ったらほったらかしたヤツが、北にいるってことか」


 ムカッとする心を抑え、オレは思わず口に出す。

()()()()かは分からないけど」


「ちょっと待って」


 オレは無限ポーチに手を突っ込んで、ライオンアリ関係の場所を書き写したメモ帳を取り出した。


「ライオンアリが発見されたのが、この世界で約七十年前……日本人でギリギリ生きているかどうか、だな」


「おかしいと思ってたんだ」


 那由多くんがぼそりと呟いた。


「トカスに着いた時、確かに荒野だったけど、南の方には遠くに森らしいものも見えた。ライオンアリが食糧を求めて移動したとしたら、南も荒地になっていないとおかしいはずなんだ。ということは、僕らが想像してたのと逆なんだ。北から、食べ物を求めて移動してきて、途中で息絶えて行ったんだ。辿り着いた先でも食い荒らして、そこで人間に見つかったとしたら……」


「……そうか」


「人間の業だよ」


 おっさんは空を仰いだ。


「キメラを放ったのも、胃袋を狩るのも。自分の得になることをしたいと言う人間の業だよ」


「自分勝手な理由で命を作ってほったらかすのかよ」


「私も自分勝手な理由で会社から金を横領したからね」


 おっさんの平坦な声に、オレたちは気付いた。


 オレたちもまた、人間なのだと。


 オレだって、無限入れ物を欲しくて胃袋を手に入れようとやってきたのだ。人のことは言えない。


 なら、どうすればいいのか。


 先生は言っていた。


 勇者という職は、どういう道を選んでも何かの命を奪ってしまう。魔物だって闇とは言え命を持っているのだ。


 償う方法はたった一つ、その命を奪った以上に命を助けなければならない。


 魔王を倒すにしろ、悪王を成敗するにしろ、命を奪ってしまうのだから、よりたくさんの命を救う道を探し、助けなければならない。


 無限胃袋があれば便利なアイテムを作れると思ってきたけれど、そこには幾つもの命、幾つもの想いが積み重なっていることを思い知らされた。


「あれ?」


 オウルが頭の上で変な声を上げた。


「どうした」


「あそこ……いっぱいおともだちがいる。それと……あおい」


「青い?」


「うん、あおい。ずっとずっととおくだけど」


「もしかして、海か?」


「うみ?」


「ああオウルは知らないか。水がたくさんある場所だけど飲んじゃいけない水だ」


「のんじゃいけないの?」


「うん、喉が渇く水だからね」


「そうなんだ」


「喉渇いたか?」


「うん」


 オレはペットボトルからカップに水を入れてオウルのくちばしに当てた。オウルはこくりこくりと水を飲む。


「おいしい」


「そうか。じゃあ、明るくなるまでに、ここから北……遠くに見える何かがあるか?」


「ちょっと見てくるね」


 オウルは羽ばたいて遠くを見て、戻ってくる。


「何か小さいのが見える。あおいのをうしろにして」


「建物か?」


「よくわかんないけど、そうかも」


「北の果ての、果ての果て」


「悲しい獅子がいるかも知れない」


 そう言って辺りを見回す。


「どうしたの?」


「いや、誰かに見られたような気が……」


「オウル君?」


 ハルナさんに言われて、オウルはあちこちを見回したけど何もなかった。


「いやなけはいもしないよ」


「気のせいか……」


「行きましょう。オウル君、あっちね?」


「うん」


「まだ涼しい内に距離を稼ぎたい」


 オレは歩き出す。


 三人が後に続く。



 太陽が最南を指す前に、崖と、先端にあるボロボロの屋敷。


 ハルナさんが大剣を構える前で、オレはいつでも横っ飛びに飛べるように準備して、ボロボロのドアノブを引く。


 バッと飛んだけど、何も出てこなかった。


 ……我ながらオーバーアクションだったのでちょっと恥ずかしい。


「わたしが先頭を歩くわ」


「頼む。オレは一番後ろを見る」


 四人で、朽ち果てた屋敷の中を歩く。


 いくつかのドアを開けたところで。


「……!」


『来てくれたか、ノーマルたち』


 言葉は声ではなく脳に響いた。


『待っていた……』


 前半分が巨大なアリ、下半身が猫系の大型獣をしたキメラが、そこにいた。

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