第77話・チートアイテムの作り方
「えっと、まずは」
一番体力の残っているハルナさんが魔法大全のマジックアイテムのページをめくる。
「魔力コアが一つ。これは大丈夫」
「無限胃袋……って何だこれ」
「とりあえずアイテムの内容は後に回そう。必要アイテム名を書き出すんだ」
「はいはい、無限胃袋……と」
「伸縮自在糸を十巻き」
「ヤサカイコ十匹」
書き出して行ったら結構アイテム量多い。
「やっぱり無理なんじゃ?」
「最初から無理って決めつけるのはよくないわ」
「いやー、でも……」
「ヤサカイコ、って、もしかして、私や那由多くんの衣服鎧に使われたヤサ絹のことじゃ?」
おっさんが気付いて、ペラペラとページをめくった。
「ほら、やっぱりだ。ヤサガの幼体で、ヤサ絹と呼ばれる魔力糸を吐いて繭を作る、と」
「ヤサ絹って結構オール工房で使われているアイテムだから、カイコを育ててるかも知れない」
「それはいいけどヤサガってなんだよ」
「蛾のモンスターよ。羽を広げればドワーフの身長くらいの幅はあるわ」
「気持ち悪い通り越すな。そんだけ大きいと」
「伸縮自在糸って?」
「サニカト世界のアウラネって種族が生み出す糸のこと、って書いてある。その糸は一センチあれば百キロまで伸ばせるって」
「それを十巻き?」
「拝み倒すしかないな」
「無限の胃袋は」
「あああった。トカス地方のライオンアリの胃袋」
「どんなモンスターなんだい?」
「アリの上半身とライオンの下半身を持ったキメラ系モンスター。大きさはライオンとほぼ同じ。アリの上半身に入る食量が、ライオンの下半身を保つにはあまりに少ないため、常に腹を空かせ、できるだけ消化しないように、獲物を襲う時以外は動かない……」
「聞いてると気の毒なモンスターだな」
「でも、だからこそ、無限に溜め込んで外に出さない胃袋ができたって言うわ」
「消化しないの?」
「食べたものをすぐに消化したら餓死する。だから、消化せず、獲物を確実に仕留められると確信した時、胃袋にある食事を消化してエネルギーに変えるって」
「無限胃袋じゃないな、そりゃ」
「ここを読んでみなさいよ。魔物学者がライオンアリの胃袋を取り出して、生肉などを入れてみたところ、文字通り無限に生肉が入ったという。そこから無限胃袋の名が付き、無限入れ物が開発されたって」
「死んでも食べ物を消化しないのか。……哀れだな」
「哀れだけど、それがないと無限入れ物は作れないわ。他のものは替えが効くけど、無限胃袋だけはライオンアリから取り出した胃袋を加工しないと作れないって書いてあるもの」
「強いのか?」
「獣と虫のキメラでライオン大の大きさならまあ魔狼よりちょっと上くらいかしら」
「ちょっと上ぇ?!」
オレと那由多くんの声がひっくり返った。
「あの魔狼も強かったのに、それより強いってなんだよ?!」
「大丈夫よ。魔狼よりは容易いわ。見つけるのは大変だろうけど」
「なんでそんなこと……!」
「言えるのかって? それは最後まで本を読んでいるから」
ちゃんと読みなさい、とハルナさんがモンスター大全を魔法大全の横にドン、と置いた。そのままライオンアリのページをめくる。
「ライオンアリ。危険度Bマイナス。恐らくは人工的に作られたモンスターだと思われるが創造者は不明。主に生肉などを食らうが雑食であることが確認されている。常に飢えている特性から、仲間内での食い合いを避けるため縄張りを持つが自分の身体の倍程度の広さの縄張りしか持たない。常に飢えていて余計なエネルギーを使わないため、縄張り内に踏み込んだ全ての生命を襲い、食らう。故にライオンアリの縄張りが多い場所は虫一匹いない荒野となることが多く、獣も人間も近付かないため結局餓死することが多い……」
「……なんつーか……哀れ通り越して悲しくなってきた」
腹ペコモンスター、って言えば可愛いけど、飢えているため自分の足の届く所までしか縄張りをもてないし、多分そこにある草や根も食べてしまうからライオンアリの棲み処は荒野になり、その為に死んでいく……。
「餓死したライオンアリの死体を見つけられれば胃袋は手に入るってことかい?」
「そう上手く行けばいいけど……ライオンアリの群生地には必ず見張りがいるの」
「アリが見張ってんのか?」
「見張っているのは人間よ」
「なんでまた」
「おじさんが言った通り。餓死したライオンアリから胃袋を取るのは簡単。しかもいいお金になるんだから、それを狙った胃袋狩りと呼ばれる連中なんかが定期的に様子を見に回ってるって言うわ」
ああ、人間とはなんと欲深い……。
と嘆きたくなったが、その哀れな胃袋で出来たマジックアイテムを欲しがっている自分を思い出してやめた。人のこと言えません。
「結構それで揉める人も多いんですって。胃袋狩りに交渉して高値を吊り上げられるから生きているライオンアリを倒す、そうしたら自分が狙ってた獲物をって押し寄せてくるみたいな」
「ん~……そうだろうな~……」
「つまりライオンアリそのものより人間が厄介って言うことなのか?」
那由多くんの言葉に、ハルナさんはん、と頷いた。
「しかもそういうヤツらに限って金に目がないから、わたしたちがミスリル装備していると金を持っているって思われて大金要求される可能性だってあるわ」
「うわ、こういう時にミスリル装備が厄介って思った」
「もちろんお断りしてライオンアリを狩るしかないけど、人間と戦うのはね……」
「邪魔するヤツは蹴散らせばいい」
「トカス地方って法が人間を支配しているような場所でね」
ハルナさんはちょっと眉をひそめた。
「どんな理由であっても、人間が人間を傷つければ、同じ傷をつけられるの。文字通り、目には目を、歯には歯をよ」
「やべー、それやべー」
「無限胃袋を他に手に入れる手段は?」
「あれば無限入れ物シリーズはもっと出回ってるわよ」
「それもそうかあ……」
「要するに、胃袋狩りが狙ってないライオンアリを狩ればいいんじゃないか?」
「それが難しいから悩んでるんじゃない」
ハルナさんは呆れ声。
「ライオンアリの棲み処は必ず荒野になる。獣も虫も避けるような荒野には必ず胃袋狩りがいる。どうやって見つける気?」
「聞ける人がいるじゃないか、ほら、魔法の塔にさ」
オレの言葉に、ハルナさんは目を丸くした。