第76話・狙うは最強チートアイテム
無限入れ物シリーズ。
入校時に学校から支給される無限ポーチを始めとするこのアイテムは、閉じられた空間を魔力で広げ、大量の……無限と言ってもいいアイテムを入れて、重さを感じずに持ち歩ける、学校支給品の中でも最高級にチートなアイテムだ。
だって、中では時間が止まっているから物だって腐らない。ということは新鮮な肉、野菜、果物、魚を大量に持ち運び、半年くらいは新鮮な食事に困らないという便利さ。
中は無限だから割れやすいポーション瓶なども簡単に持ち運べる。
ドラゴンの溜め込んだお宝だって、銅貨一枚残さず持ち帰れる。
しかも、重さを全然感じないから大量の荷物にへばってしまうこともない、ありがたいありがたいアイテムなのである。
難点は、入り口にある。
入り口を通る大きさのアイテムしか入れられないのだ。
オレたちが今持っているポーチは、ウェストポーチくらいの大きさしかないから、短剣や食料は入れられるけど、武器は通らない。防具なんて論外だ。
だから、バックパックくらいの大きさの無限バッグがあれば、オレが持ち歩きたいと思う品物をまとめて放り込める。ポーチに入らなくて重くて泣く泣く諦めるお宝を持ち帰れる。
荷物が減らせないマキシマリスト、つまりオレにとっては最高のお宝であり、いつかはオレだけの無限入れ物が欲しいと心底願っていたものだ。
だけど。
「……魔力コアを使うアイテムって、いっぱいあるじゃないか」
一科が使い切れないからと賭けに出してきた魔力コアは、魔力を秘めた、というアイテムのほとんどに使われている。
何で一科が賭けに出してきたのか分からない程、重要なアイテムだ。それとも装備には興味がなかったんだろうか。あれだけオレたちのミスリル装備をねたんでたくせに。
「この炎の剣にも、魔力のマントにも、あれもこれも使われてる。即戦力になるアイテムなのに……」
「勘違いしてないか、雄斗」
青白い顔を更に疲労で青白くした那由多くんが言った。
「へ?」
「あなたのアイテム捨てられない癖が、何度わたしたちを救ってきたか分かってないの?」
「君が何となく捨てられなくてポーチにいれたもので、我々が助かったのは何度となくあるじゃないか」
……あったっけ?
「あ、忘れてる」
「いやいや、忘れてるとかじゃなくて……そんな、オレ一人儲けるようなマネしちゃダメでしょ、戦力をいくらでもアップさせられるんだから」
「突然の抜き打ちテストで亡霊退治に行かされた時、聖水を山ほど用意してたのは誰だよ」
そう言えば十本ほど入れてたな。何となく持ってると安心かなーとか思って。
「体力や魔力回復のポーションを大量に持ち込んで、自己回復力切れにならずに済んだのは君のおかげだ」
それはオレの魔法がまだまだだから。
そもそもオレのマキシマリスト癖は、コレクター精神から発生していると思われる。収集系ゲームではアイテムも何もかも全部集めなければ気が済まないし、気に入りのコミックは読む用、布教用、保管用、予備と四冊買わなけば買った気がしない。母ちゃんに同じ本を何冊も買うなとどれだけ叱られたか……。
「まだ分かってないの?」
ハルナさんがずい、と詰め寄った。
「あなたが何となくで持ってきた手斧。あれがわたしのと二振りあったから、課外授業がかなり有利に進んだ」
「それで、何が?」
「あなたが「何となく」で持っていく物が増えれば増えるほど、わたしたちの冒険は楽になるのよ」
…………。
…………はい?
「わたしは荷物を小さくまとめるように育てられたから、あなたが毎回大量の荷物を一生懸命ポーチに突っ込んでいるのを見て呆れてたけど、実際それが役に立ってるのよ。あなたが「何となく」「持ってた方がいいかなーと思って」ポーチにいれたものが役立ってるの。結果としてわたしたちの役に立ってるの。冒険を有利に運んでるの」
「でも、役に立たないものも色々入れてるぞ?」
「その色々が役に立ってるって言ったじゃない」
ずずいとハルナさんに詰め寄られてしまった。
「これからの冒険には、あなたが好きなだけ物を入れられる無限入れ物。それが必要なのよ。戦力になるの。分かった?」
「……は……はあ……」
カケル氏、あなたの娘さんは少々強引です。
「でも、なんか話してるとオレアイテム独り占めみたいな話になるじゃないか」
「オウルくんはあなたのよね」
「そうだけど」
「でもみんなの可愛いオウルくんよね」
「そうだけど」
「なら貴方の無限入れ物はみんなの無限入れ物だわ」
オレのものはみんなのもの。
何だか某音痴なガキ大将の理屈が混ざってきた。
「役に立たないものがどれだけ入っていても限界はないんだから、作っておいて損はないわ。第一あなたのおかげで優勝できたようなものだし」
うん、うん、とおっさんと那由多くんまで頷いた。
「オレのって……オレは自爆戦法のみだ。一回戦はおっさんの方が」
「君が武永くんを倒してくれなかったら勝ち目はなかったよ」
「いくら弱くても、小さい頃から戦闘を教え込まれた人間に正面から戦って勝つのは難しい。あなたはそう判断して、油断と隙を突いた。そうでなければ一科が勝ち残っていたかもしれない。それにね」
ハルナさんはピッとオレを指さした。
「あの勇者の息子なことを鼻にかけて実は弱い武永くんを一番最初に倒してくれたことに、わたし、感謝してるんだから」
「なんでまた」
「わたしが気に入らなかったから。何か問題でも?」
おお、ハルナさんが正面切って気にくわないって言った。余程オレのいない所で勇者の息子であることを宣伝しまくってたんだなあ一科。
それで決勝戦まで残れなかったどころか一回戦でも二回戦でも序盤で負けてんだから、情けないよなあ。
おまけにこんなお宝まで失くして……。
「じゃあ、神那岐くんの無限入れ物を作るのを次の目的ってことで、いい?」
『賛成』
ありがたいけど、そんなチートなものをオレ一人のものにしていいんだろうか。
……。
オレのものはみんなのもの、だったか。
「じゃあとりあえず、必要なアイテムを調べましょ」
ハルナさんは重い「魔法大全」をめくりだした。