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第71話・勝者を讃え

 パチパチ、と、拍手が送られる。


 パチパチパチパチ……パチパチパチ……。


 その拍手が予想外に大きかっただけでなく、口笛や歓声なども宿った大きな声に、オレは思わず戦場周辺を見てしまった。


 人数が……違う。


 試合開始前には閑散としていた戦場の周りを、今は大勢が取り囲んでいる。


 誰だ……彼らは。


 半端なく強そうなオーラ出してる人ばかりなんだけど。


「お父さん……?」


 小さな驚きの声にそちらを向くと、青あざだらけのハルナさんが口を押えていた。


 視線の先には、……細身ではあるがしっかり筋肉がついた、スーツ姿の男性がいる。


「お父さん!」


 ハルナさんは叫んで戦場を降りた。ハルナさんより頭一つ背の高い、左目から顔の左半分に一文字の傷を持つ、精悍な鷹をイメージさせるその人は、両手を広げてハルナさんを受け止めた。


「よくやった……よくやったぞ、ハルナ」


「お父さん、ということは、もしや風岡カケル氏か? 決勝戦が始まる直前辺りから観客が増えてきたように思われましたが校長、いったいこれは?」


「知らせたんですよ、卒業生に。今期の生徒が対抗戦を行うと」


 のんびりと勇者育成学校の校長とは思えない話し方で、校長は続ける。


「後輩の雄姿を一目見ようと、全国から関係者や保護者が転移魔法でやってきまして」


 卒業生。ということは。


 現役の勇者?!


 あ、いや、ハルナさんのお父さんは引退したんだっけか?


 それでも、周囲にいるのは、敵に回したら魔王よりも怖いであろう実力者揃いと言うのがオレにも分かった。……その実力者がスマホで撮ったりしているのだから現代日本って平和なんだよなと思う。


「実況! うまかったぞ!」


 大柄な勇者が戦場に上がっていって安藤くんの背中を叩く。


「いっでっ! あ、りがとうございますうが、神那岐選手とのほとんど鈍器のぶつけ合いで、全身痛いんです! ちょっと力を抑えてください!」


 だろうなあ。こっちは魔法を解くタイミングを見計らっていたからいいけど、倒しても炎壁ファイア・ウォールが解けるかと疑問だった安藤くんは必死だった。オレも安藤くんも青あざだらけ。


 ……まあ、一番青あざが多いのはハルナさんなんだが。


「風岡さんの御父上でいらっしゃいますか」


 髪の毛をくしゃくしゃにしたのを手で撫でつけながら、おっさんがハルナさんの所に行った。オレも那由多くんも慌てて駆け寄る。


「私、第三科の土田長谷彦と申します」


「流那由多です」


「神那岐雄斗です」


「お嬢さんには大変お世話になっております。しかし、お世話になるあまり、不利な対戦をさせてしまいました。お嬢さんに頼って、男三人が別行動など……」


「いや、おっさんが謝る必要ない。オレが作戦を立てたんだ。相手との相性が良くないのを知っていながら一対二にさせてしまった。ハルナさんをケガさせた原因はオレだ」


「あの判断は正しいよ」


 娘の頭をひとしきり撫でてから、カケル氏はにっこりと微笑んだ。


「技の割れている二人を相手、それでもハルナには十分に戦えるだけの実力はつけたつもりだ。確かに、無傷で倒す、というわけにはいかなかったろう。あの二人も強かった! しかし、君たちはハルナなら決して負けはしないと信じてくれたのだろう? ハルナも辛抱してくれた。きっと君たちが駆けつけてくれると信じていた。この我儘娘が仲間とあれだけ連携できるなんて思ってもいなかった! 一般入試を選んでよかった。君たちが娘を育ててくれたんだ。ありがとう」


 頭を下げるつもりが逆に頭を下げられてしまった。


「頭上げてください、オレは娘さんにケガさせて……」


「ケガは覚悟の上だ。そうだな、ハルナ?」


「ええ」


「娘が勇者を志した時から、その覚悟はできている。私が辿って来た道だからね」


 握ってきたカケル氏の手は大きくゴツゴツしていて、力強かった。その手でどれだけの人を救ってきたんだろう。そんなことを思わせる、力強い拳。


「いい戦いぶりだったよ」


「ありがとうございます!」


 本物の、勇者。


 博の……安久都先生の本気を見せたあの時も同じ。世界を救った男の強さ。


 そんなのを見ていると、不安になってくる。


 ……ニートゲーマーのオレになれるんだろうか?


 勇者になれるんだろうか。オレが。コレクションを捨てられるのが嫌で、一年で特別国家公務員になれるってだけでこの学校に入学したオレが。


 あんな人に。



「では、勝者に賭けの賞品を」


 校長が言ったので、オレたちはカケル氏に頭を下げてから戦場に戻った。


 そこではオウルと魔力コアと聖別短剣ホリィ・ダガーが待っている。


「やったねー! かったねー!」


 応援も控えて見ていたオウルは、羽根を広げて喜んだ。


「オウルくん~……」


「悔しい~!」


「では、まず、一科の賞品、魔力コアを」


 誰が受け取るかしばらく視線のかわし合いだったが、結局こういう時に弱いおっさんが受け取った。


「二科、聖別短剣ホリィ・ダガー


 しぶしぶ那由多くんが受け取った。


 そして、おっさんは魔力コアを、那由多くんは聖別短剣ホリィ・ダガーを片手に持ったまま両手を、ハルナさんが両手を伸ばす。


「三科の使い魔も、戻ってきましたね」


「すごいねー! ずっとみてたよー! みんなつよかったー!」


「ありがとうオウル君~」


 ハルナさんはオウルに頬ずりする。


 ブーイングが起きる。


「あの~、オレの使い魔だから返してくれない?」


「もうちょっと可愛がってから」


「視線が怖いから! すっごい怖いから!」


 ドッと笑い声が起こった。


 そして、ようやくオレの使い魔はオレの所に戻ってきた。


「ただいま、ますたー」


「はいおかえりオウル」


 オレはオウルを定位置、左肩に乗せてやった。


「やっぱりここがいちばんいい!」


 ……視線がオレに集まっているのは気のせいじゃない。


 ……思い出したけど、オレ、なんか命も狙われていたんだよな。


 それにプラスして学校女生徒の恨みを買ったって……。


 人生、積んでね?


 勇者になる前にぶっ倒されて病院行きとかなんね?


「三科はよく頑張りました。ただ無駄に動いていたのではないと証明できましたね。卒業を目指して頑張ってください」


 卒業。


 もう三ヶ月以上経ったけど、後九ヶ月で、オレは勇者になれるのか?


 誰かを救う、勇気ある者に。

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