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第70話・決着

「………ぉぉおおおお!」


 二人に向かって真っすぐ走ると、途中から耳に届かなかった自分の声が唐突に聞こえた。


「何と神那岐選手、静寂サイレンスの効果範囲を抜けてきた! 魔法を使わせないというこちらの作戦を呼んでいたのか、しかし魔法を使う二人を静寂サイレンス空間に残し、彼らの魔法が届くか届かないかの距離がある今、結果的には一対二! 私たちに一人で勝つつもりなのか?!」


 つもりだよ安藤くん。


 君のことは気に入ってるけど、勝敗は別のことだ!


「一対一なら何とかなるかと思ってね!」


「何ぃぃ?!」


「もう一度、炎壁ファイア・ウォール!」


 足元からオレたちを囲むように炎の壁が巻き起こり、天高く伸びあがった。


「よーしやろうじゃないか安藤くん!」


「そりゃあそうだけど一対二じゃ……ニじゃ?!」


 安藤くんの声がひっくり返った。


「何と私、神那岐選手と共に炎壁ファイア・ウォールに閉じ込められてしまったぞ! これは逃げられない、星名選手の光浄化ライト・クリアは闇魔法に対して有効、私は恐れながら風魔法が得意なのですが、ここで風を吹かせれば炎が巻き上がって大火傷必須! くうう、考える!」


「実況している場合か! くそっ」


 星名くんの声が唐突に消える。


 まあ、そう来るだろうな。


 オレと安藤くんが一対一になる。外部から手出しできない状態になれば、星名くんは突っ立って勝負がつくのを待つ人間じゃないだろう。接近戦が苦手な二人が残っていれば倒しに行くだろう。安藤くんの説明じゃ、武器扱いも上手く、接近戦も使えるということだから。


 とにかく、オレは目の前の安藤くんを倒す!


「炎の中で一対一! 熱い、とにかく熱い! こんな中で一対一?! やめて下さい熱すぎます!」


「やめらんないよ安藤くん、勝負しようぜ!」


 オレも槍を引っ込めると、ハルナさんに習った手斧ハンド・アクスを取り出した。


 槍を突き出せば火の中に槍先を突っ込むことになる。安藤くんがどんな技を使えるか分からないし、炎壁ファイア・ウォールは狭めることによって効果を強めた。安藤くんが反対魔法である水壁ウォーター・ウォールを使えれば別だけど、そうでなければこの狭いフィールドで戦うしかない。


「くぅぅっ、まずい、これはまずいぞ私ぃ! 実は私、接近戦が得意ではないのです! 風魔法を使えば一回戦の武永選手の二の舞に! それは嫌だ、どうする私、どうしよう私!」


 落ち着けオレ、油断するな。


 実況しか印象のない安藤くんだけど、戦場のど真ん中でも冷静に周囲の状況を把握しまとめ報告するその観察力は半端ないと思う。


 自分の実況もしてしまうため、つい弱点を言ってしまう。


 だけど、実はこれがフェイクだったら?


 安藤くんが実は何か隠し技を持っている可能性だって高いのだ。


 だから、短期決戦!


 オレは手斧ハンド・アクスを右手に握りしめ、逆手に持って、安藤くんの右手を狙った!


「おぉりゃああ!」


 やっぱりあったな、隠し技。


 一応ゲーム好きな一日本人であるため、人間に刃を向けるのは多少抵抗がある。だから、手斧ハンド・アクスの刃のない場所で殴りかかったが。


  ガン!


 音がして、手が痺れた。


 そうだよ、敵に懐に潜り込まれた時のために、隠し技を用意しておかなければならない。


 オレやハルナさんにダガーや手斧ハンド・アクスがあるように。


 安藤くんは両手で槌矛メイスを握りしめていた。


「幾野さんから教わった?」


「そのっ通り! 観察者の私が懐に潜り込まれた時のため、いつでも対抗できるようにと槌矛メイスを隠し持っておりました! しかし熱い! どちらかが熱中症になる前に早く決着をつけましょう!」


「望むところっ」


 手斧ハンド・アクス槌矛メイスが火花を散らす。


 お互い、そんなに腕力がないので、腕力重視のこの武器の威力を活かせないが、それでも相手に少しずつダメージは与えて行けるし、油断して当たればそこがずきずきする。


 だけど、そんな消耗戦を続けるつもりはない。


「おっと、神那岐選手、魔法を使うか? この状況で自分をまきこまずに使える魔法は限られてきますが、一体どんな奥の手が?!」


 悪いな、奥の手じゃなくて二番煎じだよ。


 片手用の手斧ハンド・アクスを両手で握り、呪文を完成させる。


炎壁ファイア・ウォール解除!」


「え? あ? 何?」


 突如火の壁が消え失せる。


 さすがの安藤くんも、この戦況の一転に固まった。


 もらった!


 オレは両手で、手斧ハンド・アクスを握り――。


 場外ホームラン。一応教わっていたんだろうけど扱い慣れていない槌矛メイスで反応できず、安藤くんは吹っ飛んだ。


「なんとーっ! 神那岐選手、突然の環境変化に戸惑った私を見逃しませんでした! 逆転のサヨナラ! 場外近くで戦っていたのも戦略か? 気が付いたら場外です! どうやら攻撃魔法を持ち合わせてはいないようですが、防御魔法と直接戦闘で私は倒されましたーっ!」


 悔しいとか無念とかじゃなくて実況に徹するその姿勢は見習いたい。


 あっちではハルナさんが一対二の戦いを続けている。助っ人に入るか? いやしかし、直接攻撃不得手の二人を放っておくわけにも……。


治癒キュア・ウーンズ!」


 オレは魔法を放った。今は触れていなくても、ある程度の距離までなら癒しができるようになっていた。それをハルナさんに飛ばす。


 少し押されかけていたハルナさんが、チラッとこっちを見て、そして目だけで感謝を伝え、また二人に戻った。


「あっ、ずるい、治癒キュア・ウーンズ使うなんて!」


「あなたたちも、使ってもらえば、いいでしょっ」


「私らの回復役はあっち行ってるー!」


 あっちと言うことは……那由多くんとおっさんに向かった星名くんだ。


 オレは落とした槍を拾い、そちらへ向かって駆け出す。


 オレが駆けつけてきた時には、二人は大ピンチとなっていた。


 風の威力で相手を弾き飛ばす風壁ウィンド・ウォール。その効果が弱まって、それでもまだ投矢ダートは通じないと小剣を持ってウォール突破を図ろうとしていたのだ。


土壁アース・ウォール!」


 オレの魔法がギリギリで間に合い、土の壁が二人と星名くんを隔てた。


「くっ、安藤を倒したのか」


「倒させてもらったよ、悪いけど」


 オレは肩で息をしながら答える。


「オウルはオレの使い魔だから、オレが手放すわけにいかないだろ」


 槍を持って構える。


「雄斗君! そこにいるね! いるね!」


 おっさんの声に、オレは大声で返事した。


「ああ、ここにいる!」


土壁アース・ウォールで仲間を守っても、仲間からの援護は期待できない……神那岐君、僕が勝たせてもらう」


「オレが負けるって、誰が言った?」


 そしてオレは大きく後ろに飛んだ。


 同時に。


石礫スモール・ロック!」


 土壁アース・ウォールから盛り上がってきた幾つもの小石が、ばらばらと激しい音を立てて星名くんにぶつかる。


 土壁アース・ウォールで守ったら、声の方向に石礫スモール・ロック


 石礫スモール・ロックはぶっぱ系の魔法で、相手が見えてなくてもひたすらその方向に小石を飛ばす!


「うあっ」


 即座にオレは駆け戻り、槍の尻で全力で星名くんを突いた。


 治癒キュア・ウーンズを使われる前に場外だ!


「星名選手、場外! またも神那岐選手! 見事2キルを決めました!」


 オレは土壁を消して、即座にハルナさんに向かって駆け出す。


 本当ならハルナさんを切って女性陣二人が疲れ果てたところで攻撃を仕掛けるのがセオリーだけど、ハルナさんは言ってた。


 ハルナさんではない。四人での第三科だって。


 なら、1キルも出さずに完勝! これっきゃない!


「僕も役立つ所を見せる! 影分身シャドウ・ミラー!」


 走る那由多くんの足元から再び影が起き上がる。それが三体。


 分身ミラー・イメージとは違う。影召使シャドウ・サーヴァントとも違う。この影は実体を持っている。攻撃ができるのだ。


 影はもろく、弱いが、幾野さんの、浦部さんの得物を叩き落した。


「これで……おしまいっ!」


 青あざだらけのハルナさんが、手斧ハンド・アクスを投げつけて避けた幾野さんをおっさんが体当たり。


 最後の浦部さんをオレと那由多くんでこれまた体当たりで場外。


「なんと……何と言うことだ! 一科、土つかず! 決勝戦で、誰一人倒されることなく完勝しました! 素晴らしい! 先走った行動は点数欲しさの早合点ではなかった! それを思い知らされました! 皆さん、第三科に盛大な拍手を!」

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