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第69話・決勝戦開始

 情けない男三人にガチギレしていた一科の畑さんと、戦場でハルナさんを睨みつける浦部さんと幾野さん。


 傍から見れば美女四人に取り囲まれてハーレムだけど、ハーレムの王様は精神年齢多分十歳未満で止まってしまった死霊だから意味がない。そもそもオウル、自分を好きでモフってくれる人は大体好きだから。


「準備はいいですか」


 校長の声に、フライングしかけている二科女性二人は早く合図を出せと待っている。


「では、試合――」


 手が振り上げられ。


「開始!」


 バッと、振り下ろされた。


 

 案の定、女子二人は真っ先にハルナさんめがけて走ってきた。


「さあ優勝決定戦、女性二人は風岡選手目掛けて走っていく! やはりオウル君を愛でている風岡選手への嫉妬が強かったか!」


 ハルナさんは小声で呪文を唱えた。


足掴ホールド!」


 二人の足元が軽く揺れ、土が変化した手が二人の足首を掴んだ。苦手の土魔法でやっとできるようになった足掴ホールドが足を止める。


 固まった二人を見逃すハルナさんではない。大剣を持って走る。


「……っ、なんのぉ!」


 浦部さんが槍で大剣をいなし、攻撃に移る。なるほど、一科の男二人と比べても槍扱いも身のこなしも違う。女が勇者になれないと言っていた一科二人組が、この戦いを見て何と言っただろう。泣くかな。


 その隙を狙って幾野さんが接近戦に持ち込もうと走り……また、固まった。


 ハルナさんが腰に下げていたのは、ダガーではない。手斧ハンド・アクスだ。


 課外授業でオレが何となく持っていたが、ハルナさんは最初から腰に下げていた。野外活動で役に立つ、だけではなく、サブ武器として優秀なのだとハルナさんは教えてくれた。懐に潜り込まれた時、ダガーよりも打撃力が強く振り回しやすいとかで。


 幾野さんの槌矛メイスに対抗するには持って来いだと、ハルナさんはダガーの代わりにそれをサブ武器に選んでいた。


 接近戦になれば槌矛メイスと互角の打撃力と、狼の頭を叩き割れる威力を持つ。そんなものをハルナさんの馬鹿力で振り回されれば、さすがに対抗しようがない。


「風岡選手、サブ武器に手斧ハンド・アクスを選んでいたー! これは危険、歯のついた打撃武器と言ってもいい手斧ハンド・アクスは危険だぞ!」


「安藤!」


「怒られましたので私も戦闘に戻りたいと思います! では……!」


 やはり安藤くんは魔法を使おうとしている。多分、あれだ。


 なら。


 オレはおっさんと那由多くんを背に立ち、呪文を唱える。


静寂サイレンス!」


風壁ウィンド・ウォール!」


 ハルナさんの大剣の音、浦部さんの槍の音も消える。


 だけど。


(やっぱりか!)


 オレは自分ではなく、那由多くんとおっさんの周りに球状に風の壁を作った。


(やれ、那由多くん!)


 オレの声は声にならなかったが、視線で送った合図は通り、那由多くんは杖を構えて呪文を唱える。


 安藤くんが口をパクパクさせている。多分何か実況をしているんだろうが、無音空間にそれは聞こえない。


 だけど、案の定あの二人に静寂サイレンスはかかっていない。自分たちを巻き込むことないギリギリな距離を保ち、魔法を唱えに移動してくる無防備な所を狙おうとしたのだろう。


 だけど。



 魔法の自習中にハルナさんと那由多くんが話し合っていたのは、この呪文の対抗策だった。


(音って空気の振動だよな)


(常識じゃない?)


(じゃあ、静寂サイレンスは空気の動きを止めるのか?)


(ええ、多分)


(じゃあ、風の動きを止められなかったら、魔法は影響しないのか?)


 それでオレの風壁ウィンド・ウォールで那由多くんの静寂サイレンスの影響を断てるかと試してみたところ、風壁ウィンド・ウォールの中だけでは声が聞こえるのが分かった。つまり、空気の壁の中で空気が動く状態を保てれば魔法は使える。しかも、周囲の音を潰す静寂サイレンスが仇となって、どんな魔法を使おうとしているのかは分からないのだ。


 安藤くんは実況で風声ウィンド・ヴォイス幻聴ベントリロキズムを使っていた。風声ウィンド・ヴォイスを使っていたなら、同系魔法である静寂サイレンスを使える可能性もある。しかも後衛二人が魔法でオレもどんな魔法を使ってくるか分からなければ静寂サイレンスを使ってくる可能性が高い。


 魔法の使い方を分かっているもの勝ち。ハルナさんと那由多くんが思い付きで喋ってなかったら二人魔法を封じられて肉弾戦を挑まれていただろうけど、あのウォールの中なら魔法が使える!


 槍を構えて走るオレ。その足が速くなる。おっさんの敏捷強化ヘイストが効いたのだ。


 あの二人は風の壁の中から動けない。入り込まれればアウト。だから、オレは風壁ウィンド・ウォールの範囲から外し、肉弾戦を挑む。魔法の援護があれば二対一も何とかなる!


 安藤くんは必死に叫んでいるがやっぱり聞こえない。


(行くぜぇええ!)


 叫びは声にならない。


 だけど、その分足は速く、攻撃は鋭くなった。


 背後から、幾つもの黒い筋が飛んできた。


 那由多くんの新技の一つ、闇鞭ダーク・ウィップが、静寂空間を突き抜けて、オレの援護に放たれた。


 混乱して口をパクパクさせる安藤くんに、何か星名くんが怒鳴りつけて、投矢ダートを取り出そうとしたが、その瞬間に闇鞭が星名くんに届き、その手を弾き飛ばす。


 チラリと向こうに目をやれば、奮戦するハルナさん。


 安藤くんが何かを言っているが、空気の振動がない静寂サイレンス空間には届かない。多分、熱心に実況してるんだろうな。


 安藤くん、君はいいヤツだ。視野は広いし一歩下がった場所から物事を見て判断する能力がある。


 悪い。安藤くん。


 悪いけど、オウルを渡すわけにはいかないし、ハルナさんに一対二の戦いをさせてオレたちが負けるわけにもいかないし。


 だから、この戦いは勝たせてもらう!

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