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第68話・初歩的な魔法ほど

「こっちを巻き込めば風岡さんも巻き添えだ……」


「そんな真似はしなくてもいい」


 那由多くんが両手を突き出した。


蜘蛛糸ウェブ


 那由多くんの両掌から、白い蜘蛛の糸が放たれ、星名くんたちに覆いかぶさる。課外授業の時に使ったあの魔法だ。


 幻影は蜘蛛の糸にかかった瞬間に消える。


 近距離にいたハルナさんも巻き込まれたが、平然としている。


 そして、糸の中に残ったのはハルナさんと星名くん。


 ハルナさんは軽くダガーを動かして糸を切って逃れたが、星名くんは動けない。分身ミラー・イメージはそれほど魔力を使う魔法ではないが、それでも光魔法にこだわり過ぎたせいで那由多くんに有効な戦い方ができなかった。


 星名くんは肩を落とした。


「降参」


 糸の中で、星野くんは座り込んで両手を挙げた。


「これは勝ち目ない。降参だよ」


「星名選手、降参です! 自ら敗北を認めた!」


「ここで粘る意味がないからな。二科は一回戦で勝っている。魔力を取り戻して決勝で勝つ、と考える方が安全だろ。ていうか蜘蛛糸ウェブから逃れることができないなんて相当消耗している証拠だし」


「なるほど、分身をまとめて消すには広範囲の攻撃魔法がなくとも、超初歩の蜘蛛糸ウェブ一発あればいい! 何かに触れれば幻影は消える、糸でも同じだ! そして体力のあり余っている風岡選手は引っかかっても脱出できる! これぞ魔法の醍醐味、那由多選手、初歩魔法で勝負を決めたー!!」


 ハルナさんは大剣を拾い、那由多くんは無傷で少し得意げな顔で戻ってくる。


「お疲れー」


 オレが軽く手を挙げると、来た那由多くんとハルナさんが、手をパン、パンと当ててきた。


「さあ二回戦の治癒と体力回復が済めば、いよいよ決勝、第二科対第三科です! この私も解説の神那岐選手も試合に戻ります! もちろん実況はやめません! 戦場で最前線実況をさせていただきます!」


 ……趣味を通り越してるな。プロ根性。



「いたた……」


 オレたちの所に戻って来るなり、ハルナさんはちょっと顔をしかめた。


「大丈夫……あの槌矛メイス?」


「ええ。幾野さんだったかしら、なかなか有効な攻撃をするわ」


 ハルナさんが服の袖を引き上げると、そこには見事な青あざがあった。


「懐に潜り込んで槌矛メイスの連打。打撃だから、例えプレート・メイルを装備していてもその上からダメージを与えられる。一科の馬鹿二人と比較したら彼女に失礼かもしれないけど、強かったわ」


 油断したわね、とハルナさんは小さく呟く。回復役の先生が治癒キュア・ウーンズをかけてくれたので、青あざは消えた。


「多分さー」


 オレは切り出した。


「あっちは女子二人が斬り込んでくると思う」


「女子二人が前衛?」


「決まってるわけじゃないけど、多分やる気なのはあの二人だから」


「どうしてそう思ったんだい」


「ハルナさん、煽ったじゃん。オウルがモフモフどころかナデナデもスリスリもいいこいいこもさせてくれるって」


「ああ、嘘はついてないわよ?」


「本当だから質が悪い」


 第三科のオレといつも一緒にいるオウルに、他の人たちは触りたくても触れない。食事の時間くらいしか一緒にいない上に、喋ったことない人間にいきなり「そのフクロウモフモフさせてナデナデさせてスリスリさせていいこいいこさせてください」って言えるわきゃない。第三科では毎日のようにオウルを愛でているけど、一科の畑さんと二科の浦部さんと幾野さんには死ぬほど羨ましいことで、そう言うことをしていると堂々と言ったハルナさんは「機会があれば泣かす」対象だろう。


「いいなーってあの声、羨ましいどころの声じゃなかったよ」


「ふふ、優越感」


「だけど、女子二人がハルナさんに来たとして、あの二人でハルナさんがどうにかなるのか?」


 那由多くんの当然の疑問。


「実際、幾野さんはダメージを与えた。さっきハルナさんが治癒キュア・ウーンズを受けてるのを見られてもいる。ハルナさんにダメージを与えたのは幾野さん以外にいない」


「あっちもこっちを観察してるわよねえ」


「浦部さんの武器はオレと同じ槍で、大剣よりリーチがある。そして潜り込みの幾野さんだ、多分あの二人、ハルナさんを狙う。槌矛メイス攻撃が効くって分かってんなら、ハルナさんを倒せば強敵はいないって」


「二対一で風岡さんを倒す。と、残りの二人が我々三人に襲ってくると」


「僕の闇魔法はネタが割れたからな。おじさんの攻撃魔法も読まれてる。となると、一回戦でいきなり特攻に打って出てほとんど実力を見せずに戦線離脱した雄斗が鍵になる」


「オレかあ……」


 思わず腕を組んで見上げてしまった。


 元々回復系で覚えて、課外授業の後からはウォールシールド耐性レジスト系を強化してきた。攻撃系の魔法は皆無。だからこそ、おっさんの暴風ウィンド・ストーム炎壁ファイア・ウォールを組み合わせての奇襲を考えたんだが。


 二科がオレをどう見ているかは分からないけど、ハルナさんの他に狙ってくるのは、やっぱり手の内の分かっていないオレだろうなあ。


 さーて、どうするべきか。


 ……でも、なあ。


「相手はオレより先に後衛を狙ってくるだろうな」


 オレが空を仰ぐと、青い空が目に入った。


「どうして?」


「おっさんの魔法の強力さをあっちは分かってる。那由多くんの闇魔法の強力さも。だからこそ、最初に潰そうとするだろう。潰せるものは潰したい。魔法を使うとしたら、後衛の魔法を使えないようにするだろう……ん?」


 魔法を潰す、という言葉が引っかかった。


「……彼なら、できるな」


「ん?」


 彼なら。


 そうすれば、あとは肉弾戦の勝負になる。


 ハルナさんを二対一で潰せば、後はハルナさんより肉弾戦的に不利なオレたち三人。うち二人は魔法を主として使う。残る一人が分からないなら、魔法を潰しに来るだろう。


 とすれば。


「ハルナさん、女子二人、一人で相手できる?」


「一科に比べればはるかに手ごわいけど、何とかするわ」


「残りの二人がオレたち三人を狙ってくる。多分魔法を潰しに来るだろう。となると」



 第二回戦から一時間経って。


「それでは、優勝決定戦を行いたいと思います。第二科、第三科、前に!」


 校長の声に、オレたちは必勝の覚悟を決めて立ち上がった。


「ますたーもみんなもがんばれー」


 オウルの応援にハルナさんはにっこりとオウルに笑いかけ、それを羨ましい通り越して憎たらしいという顔で見る浦部さんと幾野さん。


「いよいよ優勝決定戦! オウル君を取り合って、すでに女子三人には火花がバチバチ散っています!」


 安藤くんの実況が聞こえてくる。


「勝つのは我々第二科か! それとも魔法の流選手、土田選手、そして肉弾戦の得意な風岡選手、未だ謎の多い神那岐選手を絶妙に組み合わせた第三科か! 面白くなってきたあ!」


「おし、じゃあ、作戦通り」


「任せて」


「引き受けた」


「OK」


 オレたちは戦場に上がった。

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