第66話・強さ
「ハルナさん、援護は?」
「いらない」
ハルナさんは大剣をブン、と振った。
「強い人間に頼って強がる二人に、わたしが負けると思う?」
「思わない。じゃあ二科の二人は僕がやる」
「さあ、第三科の二人は一人ずつでそれぞれの科に対抗する模様ですが。これは無茶な作戦ではないのか?! 三科の神那岐選手、どう思いますか?!」
「う~ん、どうだろう」
オレは首を傾げた。
「二人とも正直、強い。さっきも言ったけどハルナさんは身体能力は半端がない。あの二人が相手でも平気だとは思うけど、那由多くんはちょっと厳しいかな……。魔法メインだから、壁がないとキツイかも」
「なるほど、援護のない風岡選手と壁のない流選手ですか。では、先手必勝、ということですかね?」
「だろうな」
瀬能と小黒もそう思ったんだろう、手に片手剣と盾を持って、一気にハルナさんとの距離を詰める。
だけど。
「あ~、ダメだこりゃ」
「ダメだこりゃ、とは?」
「ハルナさんを相手に真正面から攻撃なんて、倒してくれって言ってるのと同じことだぞ?」
「その通り」
ハルナさんが呟いて、大剣を一閃した。
「相手の動きも見極めずに突っ込んでくるなんて……」
「うおおおおおおおおお!」
「倒してくださいって言ってるのも、同じ、よ!」
ぶん!
ハルナさんの大剣は、横ではなく縦に。斬るのではなく剣の腹を二人に叩きつけた。
「げふっ」
「がっ」
ハルナさんの一撃で二人は一瞬で吹っ飛んだ。
「おおっとお~! 風岡選手、武永選手とは実力が違う! 一撃だ、真正面から攻撃してきた二人を一瞬で場外に吹っ飛ばしたーっ!」
「あ~、もう目に見えてた。ていうかオレたちにケンカ売ってきた時、あれだけ三科で一番強いのハルナさんだって言ってたのに、そんなの相手に真正面からフェイントも使わずに攻撃するなんて、特攻通り越して倒してくださいって言ってるもんだわ」
細身に見えるハルナさんだが、生まれた時から強靭な肉体をもち、勇者の父親にみっちり鍛えられ、入学後は筋力、瞬発力、体術を徹底的に伸ばした。魔法は残念ながら風系は暴走し大地系はまだ実用の段階まで至っていないけど、生まれながらに敵性魔法への対抗力を持っているとも言っていた。となると、あの二人が採れる戦法は奇襲するしかない。あるいはオレと同じように二人がかりの特攻か。そのどっちも考えないで真正面から行くなんて、無茶にもほどがあるわ。
「はい、これからは相手の実力を図るようにしなさい」
言うとハルナさんは場外の二人に背を向けた。
「第三科風岡選手、一撃! 一撃です! 大剣を叩きつけるだけで二人を吹っ飛ばした。女が勇者になれるかなんて言っておいて、その相手に一撃2キルなんてありえない、弱い、弱すぎるぞ第一科!」
「何やっているんだよ君たちは!」
ようやく全身の火傷を治してもらった武永が泣きながら叫ぶ。
「私がいないと何もできないのか!」
「そのお前が一撃でやられたからこうなったんだろうが! どうすんだよ、魔力のコア!」
「君たちだって二人揃って一撃じゃないか!」
「おおっと敗北した一科仲間割れ! 仲間割れを始めたぞ!」
「一科の仲間割れもいいけど戦場も面白いぞ」
一科のケンカの実況に入ろうとしていた安藤くんが、慌てて戦場を向く。
「三科、流選手! 黒い炎の壁で自分を守っている! これでは二科は近付けない!」
那由多くんには暗炎壁の爆散という隠し技があるけど、今それをやるとハルナさんも巻き込むから純粋に防御のためだろう。
槌矛を持った幾野さんが攻撃しようとしたけれど、これは闇の力のこもった炎、迂闊に触っては火傷では済まされない。
星名くんが呪文を唱える。
「光浄化!」
「ッチ」
黒い炎が消え、杖を構えた那由多くんの姿が現れた。
「風岡選手が来るまでの時間稼ぎの暗炎壁、星名選手の光浄化で消されました! これで二科有利と思ったら、風岡選手が二人を一掃して駆けつけてきました! これでこの対抗戦を目論んだ一科は敗北、二科と三科の一騎打ち! 二科の勝利か? 三科が優勝決定戦まで持っていくか?! これは先が見えなくなったぞ!」
「三科の手の内は明かしたんだから、そっちの手の内も明かせよ、二科のあの二人はどんな力を持ってんだ」
「これは失礼しました! 二科の星名選手は光系魔法を使い、武器の扱いにも長けていますが接近戦での短剣が一番得意、幾野選手は体術に優れ、小さい攻撃を重ねて最終的に累積ダメージを与える非常に嫌らしい戦法の使い手です!」
「安藤くん、後で覚えてなさい!」
「叱られてしまいました、しかし事実なのだから仕方がない!」
「いや、言い方があるだろ言い方が」
「私は正直者なので常に正しいことを喋っております!」
……おもしれーヤツ。
「いつもオウルくんをモフモフしてるそうじゃない……」
幾野さんは槌矛を構えてハルナさんの前に立った。
「それだけじゃないわ」
ハルナさんも微かに笑みを浮かべる。
「ナデナデも、スリスリも、いいこいいこもさせてくれるわ」
『いーなーっ!』
同時に三カ所で声が上がった。
戦場の幾野さんとその試合を見守っていた浦部さん、そして仲間割れをし出した男子三人を無視して戦場を見ていた一課の畑さん。
……いや、別の場所からも声が上がったようだけど、気のせいか? 学校関係者まで増えたら厄介だぞ。
「譲ってよー! 私もオウルくんが良かった、短剣なんて一人しか使えないしー!」
「あの、一応言っておくけど、契約主はオレなんだからねー?」
「神那岐選手が苦情を言うが、既にオウル君はアイドルと化している! 女性四人に耳を貸す余地はないでしょう!」
「じゃあ……あなたたちを倒して私がもらうっ!」
「幾野選手、一気に距離を縮めた! これは得意の槌矛連打あ!」
幾野さんは一科の瀬能や小黒と同じ轍は踏まなかった。どうしても動作が大きくなってしまう大剣の攻撃をステップでかわすと、槌矛で殴りに来る。
「槌矛はどんな頑丈な鎧を着ていてもその上からダメージを与えてくる! 一方風岡選手の大剣はやはり懐に潜り込まれると弱いか! 風岡選手非常にやりにくそう! 幾野選手にあそこまで深く潜り込まれては大剣の使いようがない!」
「ハルナさん!」
咄嗟に那由多くんが援護の呪文を唱えようとしたけど、そこに飛んでくる何か。那由多くんは咄嗟に杖でそれを受ける。
「援護しようとした流選手、投矢に阻まれた! お手軽なこの装備を使ってくるのは――」
「君の相手は僕だ!」
「出ました星名選手です! 闇魔法を得意とする流選手に対し、得意の光魔法で挑むのか?!」
那由多くんと星名くんは睨み合っていた。