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第65話・本当の勇者の子

「う……」


 小さなうめき声が聞こえて、オレたちは安心してその顔を覗き込んだ。


「おっさん、目ぇ覚めた?」


「すごかったわよ、あの魔法制御。羨ましい」


「僕も認めよう。あれは今の僕にはできない」


 口々に言われ、おっさんは照れたように笑う。


「神那岐君が本気で武永君を潰しに行くなら、私は一人でも頑張らないと、と思ったんだが……やはりそううまくはいかないね」


「何言ってんの」


 ハルナさんがおっさんの目の前に顔を突き出した。


「炎を帯びた暴風ウィンド・ストームを、持続させたまま別の目標に移して、魔力も精神力も集中力も尽きたと見せかけてまとめて二人、倒したのよ。そううまくいかない? 土田さん、あなた、本当の勇者でも困難な、とんでもないことをやってのけたのよ」


 オレは魔力ポーションの蓋を抜いておっさんに渡した。


「一人でも善戦して見せるって、あの状態から2キルだぜ? 運が良ければ3キル勝利。それの何処がうまくいかないんだ。オレの武永倒したわーいがしょぼいことに見えるほどの大金星だ」


 おっさんは魔力ポーションを一気に飲み干して、息をつく。


「う~ん、でも、もっとうまいやり方があったように思えるんだよ。確実に勝つ手が……もしあそこで私の魔法が電撃ライトニング・ボルトでなく火球爆発ファイア・ボールだったら、あの状態なら三人巻き込めたはずなんだ……」


「おじさんは仲間を巻き込むような魔法は嫌なんだろう」


 那由多くんが口を挟んだ。


「しかし、今思い返せば……」


「そう言う魔法は僕が覚える。範囲広くて確実に敵をぶっ倒せるようなのを。おじさんはどんな事態にでも備えられる魔法と、後ろから援護してくれるクロス・ボウに長けてくれればいい」


「武永栄泉におんぶ抱っこの第一科じゃないのよ。わたしたちは四人揃って第三科。後ろからあなたや那由多君が援護してくれるから、わたしや神那岐君は敵に突っ込めるの」


 ハルナさんは言った。


「次の試合、必ず取るから。二人は優勝決定戦でやることになる第二科の戦法を見て、打つ手を考えて」


 細い腕には似合わぬ大剣を抜いて、ハルナさんは戦場を振り向く。


「この試合、必ず勝つから。一科に泣きべそかかせて」


「一瞬で終わらせんなよ。ハルナさんはそれやりそうで怖いわ」


 ハルナさんは口の端を微かに持ち上げて、第二回戦の行われるステージに立った。



「さあってさて、こちらは一回戦勝ち抜きが決まった安藤です! 今回は実況に集中させていただきま

すのでよろしくお願いします! 第二回戦、第一科は瀬能俊之、小黒久隆。第二科は幾野さやかと星野秀彦。第三科は風岡ハルナと大沢一馬……」


「流! 那由多! だ!」


「失礼しました、自称、流那由多選手です! 以降流選手と呼ばせていただきますがよろしいでしょうか!」


「なら許す」


「ありがとうございます!見所は、やはり風岡選手でしょうか! あの細腕で大剣を楽々使いこなし、入試の時もナンバーワンだった風岡選手、しかも後衛に闇魔法を使いこなすおお……失礼流選手が控えている! 第三科有利か! ああ、解説がいないのが切ないです!」


 安藤くんは言いながら歩いてきた。


「神那岐選手、解説お願いできませんか!」


「オレぇ?!」



「本命風岡選手と親しいあなたならば適切な解説をしてくれることと思います!」


「おっさん、変わっ……」


 無理無理と身振りで示される。確かに魔力も精神力も集中力もカッスカスのおっさんじゃ解説は無理だろう。と言っても武永がやれるとは思えないし……。


「しゃーないなあ……」


 武永を散々煽ってくれたことだし。


「大したことは言えないぞ?」


「結構です、相槌を打ってくだされば!」


 それは既に解説じゃないんじゃ……。


「では解説付きで、第二回戦を実況いたします!」


 と言っても聞いてるヤツ、オレと安藤くん除いた生徒十人と学校関係者だけなのに。安藤くんが趣味でやってるんだから構わないんだろうけど。


「早速ですが、第三科の実力は如何ですか?」


「ハルナさんの運動能力は図抜けてる。那由多くんは魔力は半端ない。しかもここしばらく寝る間も惜しんで励んでた。簡単に負けることはないだろ」


「はいありがとうございます! 第二科もリーダー格の星名選手と幾野選手の奇襲攻撃が光ります! ところで第一科の情報がありませんが何かありませんか!」


「こいつらが今回の原因ー」


 オレは棒読みしてやった。


「課外授業から帰ってきたオレたちに勇者の息子の威光借りてケンカ売って来ておっさんに言い負かされて物理的にケンカ売ってきたバカ二人ー」


「それはバカだ、いや失礼、失礼だけどバカだ! 自分の実力じゃなくて身内の力借りてケンカを売るとはみっともない! しかもその身内は一回戦であっさり負けている! 自分たちが勝たないと決勝進出できない! さあ、他人の褌で相撲を取ろうとする第一科に勝ち目はあるのか!?」


 うーわ、瀬能と小黒、めっちゃ睨んでる睨んでる。武永はもう目ぇ真っ赤でガタガタ震えてる。


「安藤くん武永嫌い?」


「うっふ、どう思います?」


「大嫌いだな?」


「ふっふ、決まってるでしょう! 実力のほどは一回戦で見てしまいましたし!」


「おし仲良くなろう」


「仲良しですね! さあ、いよいよ試合が始まります! 第一科は挑んでおいて一回戦で敗北となるか、それとも第二科と戦えるのか! 試合が始まります!」


 校長が手を振り上げた。


「試合、開始!」



 じっとハルナさんは第一科を見ていた。


「な、んだよ」


「勇者の息子を頼りにできないなんて、あなたたちに勝ち目はあるのかしら?」


「なっ」


 小黒が真っ赤になった。


「女が偉そうに語るんじゃない!」


「女は勇者になれないのかしら?」


「なれるわけないだろ!」


「そう」


 ブン、とハルナさんは大剣を振り上げた。


「なら、その身で味わってもらおうかしら。本当の勇者の子と言うのを」


 あ。


 ハルナさん、偉そうに言っておいてあっさり負けた勇者の息子にひっそりキレてた。


「勇者の子? これはどういう意味だ!」


 言っちゃっていいのかい、ハルナさん?


 オレの考えを理解したのか、ハルナさんはオレをチラリと見て、薄く笑った。


「あ~、ハルナさん、勇者の子供なんだ。父親の名前は知らんけど、風魔法の第一人者って言ってたっけ」


「風魔法第一人者? それはまさか、一人で獣世界を救ったという勇者、風岡かぜおかカケル氏のことかあ?!」


「いや知らんけど」


 風岡カケル。誰それ。


「風岡選手の父がカケル氏であれば、武永選手が名乗っていた父末永氏なぞ屁でもない! レベルが違う、違い過ぎる!」


「おまけに父親にちっちゃい頃から鍛え抜かれた上に、勇者の娘ってだけで入学するのは嫌だって一般入試受けた強者だ、油断すれば一人で全キルもあるぞ」


「これは面白い! 大会の原因になった勇者の息子頼りだった二人が勇者の娘にどう対抗するか、こりゃあ楽しみだ!」


「う……おおおおお!」


 瀬能と小黒が剣を構えてハルナさんに突っ込んで行った。

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