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第64話・孤軍奮闘

 オレが武永をあおっていると、ぶおおっと風の渦巻く音と、悲鳴と、安藤くんの声が聞こえた。


「こ、これは土田選手! なんてことだ!」


 おっさん?!


「今だ炎を帯びたままの暴風ウィンド・ストームを操って、こちらに向けた! ちょっ、危ねっ!」


 安藤くんの焦った声に、オレは戦場を見る。


 オレの火壁ファイア・ウォールの効果が切れていないから炎を宿したままの暴風ウィンド・ストームを、未だ制御下においていた。炎風を《ファイア・ストーム》を残る三人のほうに向けた!


 攻撃魔法は大体撃った一瞬で効果切れ。継続する魔法もあるっちゃあるが、制御にはかなりの魔力と集中力を必要とする。


 それを、一発型の暴風ウィンド・ストームを、継続して、別に相手に向けるなんざ!


 どこが雑魚だよ、いつの間にそんな技を身につけたんだ、すげえぞおっさん!


「あち、あちちち、すごい! これはすごい! 最弱とも思われていた土田選手、凄まじいまでの集中力で魔法を制御だ! 私も火傷しそうです!」


 安藤くん意外と余裕だな。てか、実況するのに風声ウィンド・ヴォイス幻聴ベントリロキズム使ってんな。実況根性すげえな。


「あ、土壁アース・ウォール!」


 残された一科の畑さんが大地に手を当てる。戦場の土が盛り上がって風を遮る。


「第一科畑選手、土壁アース・ウォールで身を護る! こっちも護らないと危ないぞどうしよう!」


「どうしようじゃないでしょこっちもガードしなきゃ火傷じゃ済まないわよ!」


 ……あ、安藤くん、防御系魔法の人なのね。


「仕方ない行きます! 目には目を、歯には歯を、風には風を! 守護風ウィンド・ガード!」


 だいぶ制御力を失っていた暴風ウィンド・ストームは、土壁アース・ウォールを破れず、風の守りに阻まれて、ついに炎が消えた。


「危なかった! 合体魔法の威力は半端なかった! 武永選手を一蹴しただけのことはある! 巻き込まれたら火傷は必至でした!」


 おっさんががくんと膝をつく。


「しかし土田選手も精神力を使い果たした模様! 息が荒い! これ以上攻撃は不可能でしょう! となると!」


「実況してないで先に一科潰すわよ!」


「と、言うことになります申し訳ありません畑選手、一対二ですが最初に戦線離脱した武永選手を恨んでください!」


 安藤くんも武永が気にくわなかったんだな。実況しながら煽る煽る。


 だんっと拳を叩きつける音にそっちを見ると、武永が治癒魔法を受けながら何度も地面を叩いている。


「私は……私は勇者のっ……!」


 ケッケッケ。泣きっ面してら。お荷物がいても自分なら勝てると甘く見て、挙句自爆戦法にあっさり負けたら悔しいよなあ。


 っと、目的達成した残骸はどうでもいい。おっさんは……。


 おっさんの目の前で、二科の二人が一科の畑さんの攻略に回る。精神力スカスカのおっさん相手より、無傷の畑さんを狙うのは当然の選択。


 おっさんは誰も自分を見なくなったのを確認して、深呼吸を始めた。


 ……おっさん、本気だ。


 魔法は魔力と集中力と精神力が必要だ。そして魔法の使い過ぎで戦闘中に魔法が使えなくなったら、どうするか。


 魔力回復マジック・ヒールか魔力ポーションがあれば即それを使用。なかったら仲間に任せて、仲間がいない場合は、とりあえず敵の目から逃れ、深呼吸をして落ち着き、集中力だけでも取り戻せと、精神力は集中力が戻ればある程度は戻ってくるからと、魔法座学でしつこく教わった。


 それを実行しているってことは、おっさん、まだ勝ちを諦めてない。


「しかぁし! まだ土壁アース・ウォールは継続中! 土壁アース・ウォールの中の畑選手に攻撃は……!」


大地分解アース・ディスインテグレイトッ!」


 何っ?!


「出ましたーっ、浦部選手の奥の手、大地分解アース・ディスインテグレイト! 全分解オール・ディスインテグレイトには敵わないが大地を粉々にする魔法! 大地系魔法の対抗策としては極端に過ぎるがこれしかないから仕方ない!」


「一言多い!」


 浦部さんが安藤くんをはたいている間に、浦部さんが触れた土壁アース・ウォールは粉々に分解した。


 目標を粉々にしてしまう分解ディスインテグレイト系魔法はかなり上級だ。多分、キャパがいっぱいになっちゃって、それ以外は魔法使いづらい系だろうけど……。


「さあこれで逃げ場はない! 畑選手も風前の灯火だ、どうするどうする!?」


「負けないわよ……私だって訓練しているんだから」


 畑さんが杖を構えた。


「オウル君は私がもらうの!」


「第二科の!」


「第一科女私一人しかいないんだから癒しをちょうだいよっ!」


「あたしだってオウル君欲しいんだからっ!」


「何よっ」


「何ですって」


「おおッとこれは大変だ!」


 安藤くんの実況が入る。


「景品オウル君を巡る女子どうしの争い! キャット・ファイトが始まった! いけない、女同士のケンカに手出しをすると男が痛い目見るぞ!」


 確かに。ていうかオウルはオレのだってのに。


 女子二人ぎゃあぎゃあ言いながら掴み合いのひっかき合い。


「さあどうしましょう、私はどうしたらいいのでしょうか! このケンカを止めるべきか、それとも力を合わせて畑選手を倒すべきか! どうしましょう、誰か教えてください!」


 安藤くんの実況は女子二人の戦闘じゃなくケンカを見ていたから、誰もそれに気付かなかった。


 オレだけが気付いてた。


 おっさんが、膝立ちのまま、ゆっくりと動いていたのを。


「馬鹿! 止めろ安藤!」


「おおッと場外から星名選手の声が!」


「おおッとじゃないよ! お前は実況者じゃなくて選手! 勝つことを先に考えろ!」


「仕方ない、攻撃に移りましょ……!」


「……電撃ライトニング・ボルト……」


 バリッ!


「きゃあっ」


「いやあ!」


 光が一閃し、女子二人がビキっと固まって、そのまま倒れた。


「な、んとぉっ!」


 安藤くんの声がひっくり返る。そしてそっちを見る。


 座ったまま魔法を使ったおっさんの方を。


「土田選手、健在だった! 電撃ライトニング・ボルトで組み合っていた畑選手と浦部選手を一掃! しかぁし!」


 安藤くんはシミターを構える。


「残念ながら、私を巻き込むことができなかった!」


 おっさんもそれが誤算だったろう。上手く行けば三人まとめて倒せるだけの威力を持った魔法だったから。


 少し残念そうな顔をして、おっさんはその場に倒れ込んだ。


 魔力も精神力も集中力も、最後の一滴まで使い果たしたんだ、仕方ない。


「土田選手、気絶! これは……私の生き残り、即ち第二科の勝ちということでよろしいのでしょうかっ?!」


 主審の校長が頷く。


「と、言うことで! 実況しながらではありますが、私こと安藤が生き残り、第二科が勝利いたしました! それにしても、敗北したとはいえ第三科の活躍はすごかった! 優勝候補の一角である武永選手を神那岐選手の特攻で潰し、残った土田選手が尽きかけた魔力で2キルだ! 第三科が三人も倒した! 第二科の私が勝ち残ったのは運としか言いようがありません! 見事な戦いでした!」


 拍手が、主に気絶したおっさんに送られた。

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