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第62話・対抗戦の始まり

 一週間後。


 全三科対抗対抗戦が始まることになった。


 一科は余裕満々。


「ふん、どいつもこいつも雑魚ばかりか」


 ……言わないけどさ、それ、勇者のセリフじゃないから。


 武永にツッコみたかったけど、いきなりケンカはあれなんでガマンして飲み込んだ。


 ……ていうかなー。武永がえらそーな顔してるけど、なんか武永、思ったより強くなさそーな気が……。気のせいか?


 多分、強すぎるハルナさんを見慣れたせいもあるだろう。ハルナさんは異世界と日本との異種族間ハイブリッド、ワールドハーフで、めっちゃ強い。もちろん那由多くんとケンカした後や野営の時の会話を、おっさんや那由多くんの耳に入れたことはない。当然だろ、話すことでもないし話す必要もないし。


 だけど、勇者なら、ハルナさんの強さを感じられる気がするんだが。


 全くの素人のオレでさえ、初めて出会ったハルナさんに鬼気迫る迫力を感じた。今はハルナさんが気配を隠しているかもしれないけど……。


 てか、一科に負ける気がしない。


 余裕余裕の綽々態度が過ぎて、逆に弱く見えてるのか?


 二科の方が余程気合入ってる。


 対抗戦が決まってオウルが賭けに出ると知った途端、女性二人……確か幾野いくのさやかさんと、浦部うらべ優華ゆうかさんの気合スイッチ入ったらしくて、しょっちゅう時間外訓練の場所が重なって、紳士協定でかち合った時は交代で場所のやり取りしてた。オウルがこっそり様子を見に行って、「すっごくがんばってたよ!」と興奮して報告してくれた。


 となると、警戒するは二科か?


 一科はどうしても雑魚臭さが拭えない。


 オレが考えている間に、おっさんよりも若い校長が出てきた。入学式以外見なかったな、そういや。


「長い狭間訓練校の歴史の中で、科の対抗戦が行われるのは初めてです」


 うん、一科が変な対抗心燃やさなきゃ何にもなかったはずだからな。


「今の自分たちの実力が如何なるものか。他の科の生徒がどのような実力か。それを知るいい機会だと思います。自分の実力を十二分に発揮して、優勝を目指してください」


 一科が胸を張る。


「ルールはノックダウンするか場外、或いはギブアップで敗北、二人とも敗北すればその科は敗北、とします」


 校長は運動場の真ん中に結界の張られた戦場を示した。


「では、今回は、科ごとに優勝賞品を出す、ということでしたが」


 校長が自分の横にある机を指した。


「第一科の魔力のコア、第二科の聖別短剣ホリィ・ダガー、第三科の使い魔、優勝したチームがこれらを総取り、ということでいいですか?」


「がんばれー、ますたー。みんなもがんばれー」


 紅い石と短剣の間で、オウルが羽根を広げて応援した。


 途端に上がる黄色い声。


「オウル君かわいーっ!」


「うちの子になるのよねー!」


「がんばるからねーっ!」


 女性陣がアイドルを前にした時のように黄色い悲鳴を上げながら手を振る。……だからオレの使い魔だってのに。


「よし、オウル君を他の科に渡さないためにも頑張るぞ」


 おっさんの言葉に、那由多くんとハルナさんが「おうっ!」とこぶしを突き上げる。


 だからー……オレの使い魔だってのにー……。


 いや賭けに出したのはオレだけどさー……何て言うか弾みでひょいっと言っちゃったっつーか……。


 でもまあ、ハルナさんに闇魔法を強化し続けている那由多くんがいれば、組合せによっては決勝戦なしでも行けるかも知れない。


 早速、くじ引きが始まった。



「あちゃー……」


 思わず頭を抱えたくなった。


 オレは第一戦に出ることとなった。


 コンビはおっさんだ。


 戦力にならねーなあ……。


 でもまあ、那由多くんとハルナさんがコンビを組んだら、勝てる相手はいないだろ。二回戦は確実。


「わり、一回戦負けたら許して」


「う~ん、くじ運がなかったねえ」


 おっさんも苦笑する。


「何だ、雑魚二人か」


 にやーっと笑っているのは武永。


「私一人で勝ちはもらったぞ」


 ムカッとカチーンが同時に来た。


 そうかよ。そうなのか。ケンカ売ったな。買うぞ。オレは売られたケンカは買うんだ。


「おっさん、作戦変更」


 オレはぼそりと呟いた。


「何だい?」


「あいつ泣かそう」


「負かそうじゃなくて?」


「泣かせる。もう勇者なんて名乗れませんってくらい大泣きさせる」


「しかしどうやって」


「だからー……」


 ひそひそぼそぼそ。


「……確かに、可能だろうけど。でも、その後どうにもならないよ。確実に負ける」


「二科に負けるならまだ納得する。でも決めた。あいつだけは泣かす」


「分かった。私も多少思うところはあるからね。後は引き受けた。善戦と言えるくらいには頑張る」


「ふん! くだらん策略を」


 武永がこっちを見てエラそうに胸を張るが、もうこっちは勝敗どうでもいいお前だけは何が何でも泣かすモードに入った。覚悟しとけよ勇者の息子。



 一回戦は、一科から武永とはた穂波ほなみさんが、二科から安藤あんどう智志ともしくんと浦部さん、三科からオレとおっさんが。


「さーあ始まります科別対抗戦!」


 いきなり安藤くんが声を張り上げたので正直驚いた。


「第一回戦は本命武永栄泉と畑穂波、三科から神那岐雄斗と土田長谷彦、二科は私こと安藤と浦部優華が出場します! 実況は戦いながらですが対抗戦を盛り上げさせていただきます! さあ、優勝して、商品……主に三科の出した商品、オウル君を手に擦るのは誰か!」


 戦いながら実況かい。余裕……って言うより趣味だなこりゃ。でもやっぱ実況があった方が分かりやすいな。


 しかし、あの紹介。


 やっぱり無受験入学の武永が優勝候補に入ってるか。


 だけど、……だけど。


 勇者の息子ってだけでエラそうぶって、人を勝手に雑魚扱いして、そう言うヤツが一番腹立つんだ。課金続けて強力ガチャ引いて強いのばっか持ってるってタイプ、オレは一番嫌い。


「おっさん、言った通りにしてくれな」


「分かった」


 オレたちがこっそり話をしている横で、主審を引き受けた校長が腕を振り上げた。


「試合――」


 その手が振り下ろされる。


「開始!」

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