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第60話・第一科の提案

 必死で必要魔法を覚えよう週間に、()()は来た。


「科対抗戦?」


 朝礼の時、先生は言った。


「はい。一種の模擬戦闘訓練ですね」


 オレとおっさんと那由多くんは思わず顔を見合わせた。


「それって、先生方が決めたんですか? それとも誰かの提案で?」


「第一科の生徒からの提案だそうです」


 第一科。


 この間揉めた瀬能と小黒の科だ。


「三科合同訓練ですか?」


「はい」


「二科は了承したんですか?」


「二科も今説明を受けているはずです」


 あ~……。


「具体的にはどのようなことをするのですか?」


 おっさんの言葉に、先生は先生の顔をして説明する。


「平等な条件で、戦闘訓練を行おうという話ですね」


「平等とは」


「装備品を同じランクにして、今持っている能力だけで勝ち負けを決める、ということですね」


「あ~」


 那由多くんも呟いた。


 多分、この間の浴室前の一件が原因だろう。おっさんに言い負かされたことを恨んでるな。


「で、参加するかどうかを決めたいのですが」


「参加する」


 那由多くんがぶすっとした顔で言った。


「同じく」


 オレも手を挙げた。


「どれだけ強くなったかは戦ってみないと分からないからね。参加はするけど」


 どういう意味? とハルナさんは視線で聞いてきた。後で教える、と返す。


「では、参加ということでいいでしょうか」


『はい』


「分かりました。では、いつも通り魔法の訓練を始めてください。対抗戦の日程や条件などは私たち教師が決めますので」


 先生は教室を出て行く。


「で、どういう意味?」


 ハルナさんは今度は言葉で聞いてきた。


 ので、一週間ほど前、課外活動が終わった日のことを話す。


「オウル君が欲しいって?」


「違う違う、何でオウルの話になるんだ」


「要するに、先に進んでる僕たちが卑怯みたいなことを言っているんだ」


 那由多くんはとことん呆れ果てた、という顔でまとめた。


「こっちは魔王を倒すのに必死だってのに……」


「申し訳ない、私の言い方がまずかったようだ」


「おっさんは悪くない」


「そうだよ、おじさんは正論を言っただけだ。あれは逆恨みと言うんだ。勇者にあるまじき精神構造だ」


「いや、逆恨みなら那由多くんも散々……」


「覚えてない」


「あ、そ」


「そんな下らない理由で勝負を挑んできたの?」


 ハルナさんの声も呆れてた。そりゃそうだ、こっちは保護者付きとは言え知らないで命賭けてたんだ、それを否定されたら怒るより先に呆れる。そこまでやったことがあんのかって話だ。


「だろうな。装備を同じってのは、こっちがミスリル装備で強いと思ってんだ」


 苦労して命まで狙われてゲットした装備だってのに。大体、この装備を作ってもらった時にしっかり言われてんだ、「装備に頼る時がおしまいだぞ」って。


「確かに、それは受けて立つしかないわね」


 ハルナさんもあっさりと返した。


「こっちがどれだけ自主訓練して、時間ギリギリまで頑張ってるのを知らない連中に、見せつけてやるべきよね。地力の差、ってやつを」


 ハルナさんは立ち上がって、「地の魔法総覧」を持った。


「もう少し魔法でも役に立ちたいから、地の魔法を進めるわ」


「オレはウォール系魔法に集中する」


「私は雷撃ライトニング・ボルト暴風ウィンド・ストームのどちらかを使えるようにする」


「応用の効きそうな闇魔法を極めてみる」


「ぼくは?」


「オウル君はいいのよ。オウル君は可愛くいてくれたらいい」


「そうそう、それに君を出したら卑怯だなんて言われかねないし」


「タイマン戦か集団戦か分からないけど、お前を出したら使い魔に頼るとか言われそうだしな」


「そっか」


 ちょっとしょんぼりしたオウルをオレは撫でまわした。


「お前はオレたちの応援しくれればいいの。お前は応援団長だ」


「おーえんだんちょー!」


 先に進む努力もせず勝手に進んでるお前らが悪いなんて言いがかりをつけてきた連中なんかに負けてたまるか。


 絶対、勝ってやる!



 と、夜間訓練も全員が初めて時間ギリギリまで魔法や武器の扱いなどの自主訓練もしてるんだが。


 一科のヤツら、影も形も見せない。


 完璧巻き込まれた形の二科が時々訓練施設の使用でかち合って譲りあったりしてるけど、一科は授業以外に訓練している様子が見えない。


「どういうことだと思う?」


 聞いたオレに、ハルナさんはあっさりと返した。


「努力するのはカッコ悪いと思ってる連中は結構いるってことよ」


「カッコ悪い?」


「そう。時間を削って訓練しなくても自分たちは十分に強い、と思ってるとか? あるいは何か卑怯な手を考えているかもね。確実にわたしたちに勝てるような方法を」


「ふん。お前らじゃあるまいし、誰がそんな方法を」


 ぐるんと振り向き、そこに瀬能と小黒がいるのを確認した。


「じゃあどんな方法ならこっちに勝てるってんだ? 一科の皆さん方」


「女に頼り切ってるお前らには負けないって意味だよ」


「呆れた」


 心底見下げ果てた、とハルナさんは呟いた。


「わたしは頼られてなんかいないわよ。むしろわたしがみんなを頼りにしてる」


「嘘つけ。あれだけの大剣を振り回す主戦力を頼りにしないヤツがいるものか」


「じゃあわたしはあなたたちに頼られたくないわね」


 ハルナさんの声も、おっさんみたいにワントーン低くなった。


「後ろで守ってくれる人がいるから、安心して前線で戦える。その程度のこと覚えておきなさい、弱小兄弟」


「何だと!」


 瀬能と小黒がいきり立つのとほぼ同時に、背後から声がした。


「そろそろ時間切れだよ、寮に戻らないと……て」


 心持顔色の良くないおっさんが、瀬能と小栗を認めた。


「なんだ、努力もしない二人組か」


 一緒に来た那由多くんも呟き、言葉を続ける。


「今度はどんな難癖をつけに来たんだ? 夜遅くまで努力しないと勝てないと思ってるんだるとかいちゃもん付けに来たのか?」


 二人が黙り込む。那由多くん、ビンゴ。


「あいにく獅子はウサギを倒すにも全力を尽くすわよ。こっちにミスリル装備がないからって舐めてもらっちゃ困るわね」


「ふん! 卑怯な手段で手に入れた装備に頼れない戦闘で勝てるお前らかよ!」


「勝つわよ」


 ハルナさんは更にトーンを落とした。


「勝てる、じゃない。勝つわよ」


「な……なら!」


 小栗が裏返った声で叫んだ。


「そのフクロウを賭けられるな?」


 オウル。


 オレ以外三人の視線が殺意すら帯びて一斉に小黒に向いた。


「勝つんだろう、フクロウ賭けても大丈夫なくらい自信があるんだろうが!」


「オウル君手に入れてどうする気?」


「お、お前らが強いのは死霊の死霊使役者ネクロマンサーの魂を宿したその使い魔のおかげだ、そ

いつがいなくなれば、お前らなんて雑魚だ雑魚!」


 一瞬、辺りに冷たい風が吹いた気がした。


 感じたことがある。


 死霊の感覚。


「ざんねんだね」


 オウルは、場違いなほど陽気な声で言った。


「ますたーたちがかつもん。ぼく、わかるから。ますたーたちがどれだけがんばってるか、ぼく、しってるから」


「なら、賭けの材料になっても構わないってことだな!」


「お前らは何を賭けるんだ」


 オレの声も低くなった気がする。


「こっちにオウル賭けさせておいて、自分たちは何も賭けない、なーんて、平等な勝負じゃないよな。オウルに匹敵する賭け物があるのか?」


「……じゃあ、これを賭ける」


 瀬能が取り出したのは、透明な紅色の、拳大の石だった。


「抜き打ちテストで手に入れた、魔力のコアだ。これを自分の肉体に組み込めば、魔法の威力がアップする」


 オレはぷふっと噴き出した。


「何が悪い!」


「いや、それを賭けに出すって、『今のオレたちじゃ使えないから賭けに出せる』って言ってるよーなもん。つまり石に見合う実力がないってことだな」


「ふ、ふん、同じ抜き打ちテストで手に入れたモノだ、平等だろうが」


「オウルをモノ扱いするのはムカつくけど」


 オレは目を細めて相手を見る。


「いいだろ、受けたよその勝負」

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