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第6話・ちゅうにびょう が あらわれた!

「……私には彼が何を言ってるのかさっぱり分からないんだが……」


「仕方がない、現世に生きる者が僕を理解できるわけないのだから」


 ……黒歴史を見てるようだ。


 オレも中二病年代があった。文字通り中学校の時だ。油性マジックで目の辺りに縦一文字の線を描いて見たり、やたら小難しい漢字を使って手紙を書いたり。


 しかも同級生も真只中だったんで、それが恥ずかしいとも思わなかった。


 恥ずかしいと思ったのは、女子の冷静な目だった。


『何やってんの、バッカじゃない?』


 両手に包帯を巻いてきた時の女子の一言だ。


 その時は「女に何が分かる」と返したが、時間が経つにつれてその「バッカじゃない?」が心臓にキリキリと穴を空けて、「ああ、これは世間一般では通用しないんだ」と思って現実世界の中二病は終わりを告げた。


 ゲーム世界じゃ未だにキラキラネームで無双してるけど、ゲームはオレの趣味で、オレの楽しみ方なんだから文句は言わせん。


 しかし、現実に出会ってしまうと、自分の暗黒時代を思い出して逃げ出したくなる。


「……えーと、とりあえず、訓練校を受けに来たってことは間違いねーか?」


「間違いはない」


「んじゃあ、スマホは見たか?」


「通信精霊は入った」


 メールが精霊って……。


「四人集まって学校行かないと合格できないってのは知ってるよな?」


「確認済みだ」


「んじゃあ行くぞ」


「待て。武器もないのに行く気か?」


「んなもん探してたら時間過ぎるわ」


「武器もなく行くなど無謀。武器が召喚されるのを待つ」


 ここでオレ、ピーンと来た。来ちゃいました。


「武器が落ちてるわけないだろ」


 木の枝で、オレは那由多くんを指してやった。


「もしかして、あんたがここにいたのは、オレたちを待ってるだけじゃなく、何か不思議な力が降りてきて覚醒ーとかするのを待ってたんじゃねーの?」


「!」


 やっぱりか。


「生憎覚醒ーとかを待ってたらタイムアウト。オレや土田のおっさんがゴブリンや野犬に襲われた時も、力どころか武器一つ落ちてこなかった」


「暗黒世界の貴公子の危機には、必ず力が現れる! 現に、あの女は魔法一つで我らをこの迷いの森に転移させたではないか!」


 いや、そりゃあそうなんだけど、他人が不思議な力を使ったからって自分も使えるって保証はないだろうに。


 ……てことは。


「もしかして、自分からオレたちの方に来なかったってことは……怖くて動けなかったんじゃねーの?」


「!!」


 ……やっぱりか。


「き、恐怖など僕は感じぬ! 暗黒世界の貴公子におそれなどない! 力の覚醒を待たねば僕はこの世界で力をふるえぬだけなのだ!」


「んじゃしゃーない、おっさん行こうか」


「いいのかね? 四人揃わないと合格が……」


「そ、そうだ、選ばれし者が四人揃わぬと深淵の扉は開かぬと……」


「しゃーねーじゃん。ここで待ってても力なんてのは覚醒しねーし」


「する!」


「いつ頃?」


 ぐ、と那由多くんは息を飲んだ。


「あいにく妄想に付き合って貴重な時間を使うわけにはいかねーんだよ。こいつがここから動かないって言うなら、例え四人目が向こうから来たとしてもこいつは力とやらが出ない限り動かないって言うんだ、ほっといたって時間切れ。となると、オレたちにできるのは、安全地帯のはずの学校へ向かうことくらい」


「ぼ、僕を見捨てるのか?!」


「暗黒世界の貴公子様を助ける力があるんだろー? オレらいなくても困らねーじゃん」


 那由多くんは顔を赤くしたり青くしたりしながら悩み。


「……仕方ない」


 結論を出した。


「未だ力目覚めぬ身なれど、深淵の扉が閉ざされてしまえば終わりだ。やむを得まい」


 力ないけど時間切れは嫌だから一緒に行こうってことね。


「で、那由多くん、本名は?」


「流那由多」


「こっちの世界での、戸籍に乗ってる名前」


「そんなものはない」


「よーし置いてくか」


一馬かずま! 大沢おおさわ一馬かずま!」


「はい最初から名乗ってね。オレは神那岐雄斗でおっさんが土田長谷彦。さー行こうか」


「神那岐……もしや、同じ世界に属する者では……」


「これは戸籍に乗ってる本名でよくからかわれるし猛烈に書きにくいけど代々受け継いだ苗字だからね、同じ世界じゃないからね」


「……雄斗君、やはり私にはちっともわからないんだが」


 だろうなあ。


「大丈夫おっさん、必要な時はオレが通訳する」


「頼むよ。歳を取ると若い子の言葉にはついていけなくて」


 多分若くてもついて行けない人間が多いと思う。


「で、どの道を辿るね?」


「どの道もこの道も、もう一人と合流して校舎に行くっきゃないだろ」


「でも、この最後の一人……」


 土田のおっさんが不安そうに言った。


「どうも、私たちから離れて行ってるみたいなんだが」


 オレはスマホを確認した。


 合流した三つの光点。


 そして、残る光点が、動いている。


 俺たちの方には向かわずに、一直線に学校の方面へ。


「四人集まらないと落ちるって知らないのかな」


「いやそれはないだろう。学校に向かっているってことはスマホを見ているってことだ、メールも確認済みだろう。その上で学校に向かっている……?」


「フ……闇に導かれているのだろうな」


「なんで闇に導かれるんだい?」


「あーおっさん聞いちゃダメ多分こいつとまともに話はできないから」


「会話は可能だ。選ばれし四人が集結せねば、深淵へと続く扉は開かぬのだろう? それを知りながら扉へ向かうということは、闇に導かれて踊っているのだろう」


「闇に導かれて踊り……?」


「ダメだよ深く考えたら。とにかくこの人は学校へ向かってるんだから、オレたちも向かおう。途中で合流するか学校で会えるかすればよし、ってことで」


 ゲーオタと中二病とおっさん。一体どういうパーティーなんだ。


 残る一人は誰だったか。


 ふと思い出した。


 食堂で順番分けされた一番後ろにいたのは、女の人。


 スマホをいじっていた、あのいいなって思っていた真面目可愛い彼女だった。

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