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第57話・最終日

 結局、夜四交代で夜番しても、襲ってくる獣も出てこなかった。バネザルが間違ってすっ飛んできてオレたちの顔見てびよーんと慌てて逃げて行ったことくらいか。


 そして、朝を迎え。


「あとはここから学校までの道のりだけだね」


 おっさんが地図を見て頷いた。


「良かったわ」


 ハルナさんは呟いた。


「神那岐君を狙うヤツが出てこなくて」


 そう、オウルも警戒していた襲撃者は、それ以来誰も来なかったから。


「やっぱり神社のおかげかなあ」


「獣牙先生のおかげかもね」


 ハルナさんがより現実的な答えを出した。


「先生に連絡してから、襲撃者だけでなく魔狼デモンズ・ウルフも来なかったし」


「そうだな、二日目の襲撃は数を頼りにした低レベルモンスターの群れで、那由多くんの魔法一発で散ってったからなあ」


「僕の魔法は役に立ったか」


「おう、あれがなきゃ体力削られてジリ貧だった」


「私は戻ったら、広範囲影響の攻撃魔法を覚えるよ」


 地図を描きながらおっさんはしみじみと呟いた。


「例えば、火球爆発ファイア・ボールとか?」


 ハルナさんに言われて、おっさんはう~むと考える。


「お勧めする理由は?」


「分かりやすい攻撃魔法で覚えやすいし、それを持ってるってだけでも強いと思われる。いっぱしの冒険者となるのは火球爆発ファイア・ボールを使えることって思われてる節もあるから」


「う~む、でも、周りに与える影響が大きいから。巻き込むとか引火するとかあるからねえ。炎じゃない方がいいかなとも思っている」


「そうね……とすると、雷撃ライトニング・ボルトはどうかしら」


雷撃ライトニング・ボルト?」


「ええ。広範囲ではないけれど、一直線に放たれて敵を貫通する。魔力次第だけど、乱戦で直線上から味方を外せばその一直線を散らせるわ」


「あれは鏡があると跳ね返せる」


 那由多くんの言葉に、ハルナさんは首を竦めた。


「鏡で雷を跳ね返せる?」


「え? でもよく漫画とかで出てるじゃないか」


「電気を鏡で跳ね返せる?」


「……無理なのか?」


「無理」


 那由多くんはしゅーんと首を垂れた。


「あ~、オレも鏡で跳ね返せるとか思ってたけど、よく考えたら電気は鏡じゃ跳ね返せないなあ」


「でも大地に触れているとアースされるんじゃ?」


「そういうところが魔法の都合のいい所だけど」


 ハルナさんはもう一度首を竦める。


雷撃ライトニング・ボルトは、一点に集中した雷を絞って一直線に放つから、地面に向かって撃たない限り、魔法の限界まで雷が届くの」


「なんか都合がいいな、魔法って」


「都合のよくないものは魔法とは言わないでしょ」


「ごもっとも」


 おっさんも笑った。


「なるほどね、それにもしかしたら、流君のように威力や性質を変えられるかも知れないしね。候補に入れておこう」


 地図を描きながら、だべりながら、丘を登り。


「ついたー!」


 三日目の昼過ぎに、学校の校門前まで戻って来れた。


「三日ジャストでクリアできたな!」


「ああ、大怪我をする人もいなかったね」


「僕の魔法がようやく目覚めた!」


「命は狙われたけど、全員無事だった、ということかしら」


「はい、お帰りなさい」


 恐らくはオレたちの持っているスマホの位置情報で帰って来たのを知ったんだろう、博……安久都先生が出迎えてくれた。


「どうでしたか? 学校敷地内の冒険は。退屈でしたか?」


 それで、オレたちが出発前「学校の敷地内?」とブーイングしたのを思い出した。


「いや、なかなかに刺激的でした」


「雄斗の命狙ってくるヤツもいたしな」


「数を頼りに押されるとあまりにも弱い」


「あと、もっとアウトドアの知識もつけた方がいいわね」


「反省点が見つかったようですね。ますますよろしい。では、地図を渡してもらいます」


 おっさんが描き上げた地図を手渡した。


「ふむふむ……なるほど、ハザマ神社にもお参りになりましたか。そして気づきはしなかったと」


「気付きって……お参りもしてきたんだぞ?」


「そうではありません。保護者がいることに気付かなかったと」


「保護者?」


「そうです、後ろを見てください」


振り向いて、硬直した。


 たくさんの、たくさんの魔狼デモンズ・ウルフ


 到底今のオレたちじゃ追い払えない程の。


 そして、その先頭に立っているのは、革の鎧をまとった、二足歩行の狼だった。


「気付きませんでしたか?」


「……全然」


 ハルナさんも含め、オレたち全員が青ざめていた。


 二足歩行の狼は、魔狼デモンズ・ウルフたちを振り返り、ひと声吠えた。


 途端、魔狼デモンズ・ウルフたちは森の中に消えていきって、狼は大きく伸びあがった。


 そのまま、毛が引っ込み、風船のようにしぼんでいく。


 少しして、そこに立っていたのは、だるんだるんの革鎧を着た獣牙先生だった。


「人狼《ルー・ガル―》……」


「はいその通りです。風岡さんはきちんと正式名称を知っていますね。獣牙先生は人狼《ルー・ガル―》、俗にいう狼男です」


 あのたくましい狼姿はどこへやら。いつものように細い獣牙先生に戻って、頭を下げた。


「人狼《ルー・ガル―》は狼を操れる……じゃあ一日目のあの襲撃は!」


「はい、獣牙先生の仕込んだ襲撃です」


『えええええ?!』


「さすがにミスリル装備を揃えたあなたたちの相手にゴブリンやコボルトが敵うわけがなかったので、先生が森に潜む魔狼デモンズ・ウルフに命じて襲わせました。もちろん隙あらば食い殺せ、とね」


「待て待てちょっと待て先生はオレたちを本気で食い殺させようとしてたのか」


魔狼デモンズ・ウルフに手加減をするという知性はありません」


 安久都先生はあっさり言い切った。


「敵わないようであれば別の場所に餌を用意して、そちらへ連れて行くつもりでした。それも流君の暗炎壁ダーク・ファイア・ウォールに打ち砕かれましたが」


 那由多くんは、ほんのちょっぴりだけ、得意げに、笑った。


「しかし、オウル君が襲撃者を見つけた。そう言っていましたね?」


「うん。おんなじきらきらみすりるのひとだった。くろす・ぼうみたいなのでますたーのあたまをねらってた」


「ですから、翌日からは襲撃者の警戒に当たってもらったのです。あなたたちが下級モンスターと戦っている間、獣牙先生は魔狼デモンズ・ウルフを使って森中で襲撃者の気配を探したが見つからなかった。今日まで探してもらったのですがついに見つからず、あなたたちは無事学校に辿り着いたのです」


「悔しいな」


 オレの呟きに、博は何が? と目線で問いかけてきた。


「オレたちの冒険が、全部、先生の手の内だってのが悔しいって。これじゃあ、『はじめてのおつかい』じゃないか」


「一回目はね」


 先生は小さく笑った。


「二回目からは、手出ししません。一回目で問題点が浮かび上がったならば、二回目はもっとうまくやれるでしょう。そうなれば我々の出番はありません。そこで学ばなかったとしたら、それは勇者に向いていない、そう言うことなのです」


「一回は教えてやる、二回目からは自分でやれ、か」


「そういうことです神那岐君。どうです、貴方は何か分かりましたか?」


「広範囲攻撃とか、一対多の勝負のコツとか、色々分かったことがあったけど、それ以上に何より重要なことが一つ」


「何でしょう」


「オウル用のブラシを持っていくこと」


 しばらく、沈黙が続いた。


「……はい?」


「オレたちには重要だ」


「あー。流君と土田さんがもしゃもしゃにしたオウルの羽毛、元通りにするの大変そうだったわね」


「オウルはオレたちの癒しだ。癒しには手をかけてやらないと、困ったことになる。あるいはパーティー解散の危機に陥るかもしれない。だから、オレの不在中にオウルを預けた場合、モフりすぎてぼさぼさにしたらちゃんと戻してもらわないと」


「……本気ですか?」


「……本気中の本気」


「……いいでしょう、パーティー内の良好な人間関係を築くのに必要、ということでしょうから」


 先生は苦笑して地図を巻いた。


「今日は疲れたでしょうから、これ以上授業はなしで構いません。寮に戻って夕飯まで寝るなり、風呂に入るなり、好きにしてください」


「ますたー。ぼく、おやかたにあいさつにいきたい」


 オウルが言うので、いいよと放してやると真っ直ぐに工房に向かって飛んで行った。


「とりあえず、部屋戻って、少し寝るか」


「浴室が開いた時間に風呂に行くってことで」


 男三人組は休憩の許しを幸いに休もうとしたが。


「先生、わたし、魔法の練習がしたいんですけど」


 ハルナさんは、相変わらずのハルナさんだった。

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