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第55話・秘密のお話です

 引いたくじは、那由多くんとおっさんが一番目・三番目で、オレとハルナさんが二番目と四番目だった。


「バランスわるくない?」


 と疑問を呈したのが那由多くんだった。確かに前線アタッカーのオレたち二人と後衛側のおっさんと那由多くんとじゃ厳しいんじゃ、と思ったけど。


「くじに賛成して引いたのは誰?」


 というハルナさんのお言葉で黙るしかなくなった。


 で、眠くはないけど頭から毛布をかぶって横になってしばし。


 揺さぶられた。


「何、敵襲?」


「寝ぼけるなよ、雄斗の番だ」


「え? オレ、寝てた?」


「結構爆睡してたよ」


 寝てたつもりはなかったんだけどなー。ちょっと横になっただけのつもりなんだけど。身体が疲れてたのか? そういや魔力回復マジック・ヒール使ったっけか。


 で、起きたら、毛玉が目の前にいた。


「うわ」


「おはよーますたー」


「お前ら……」


 オレはドスを効かせておっさんと那由多くんを見た。


「オレの寝てる間にオウルをモフったな?」


「しまった、気付かれた」


「こんなもしゃもしゃ毛玉になってたら誰だって気付くわ! 今更だからモフるなとは言わないけど、せめてまともな格好に戻しとけ! アニメ映画で見たわこれの小型版! あれは黒かったけどな!」


「はは、ごめんごめん。それじゃお休み」


「寝るから叫ぶな」


 蹴っ飛ばしてやろうかとも思ったけど、それよりまずオウルの羽毛を整えなきゃ。もしゃくしゃにされてる。


 手櫛で撫でつけるようにケバケバオウルの羽毛を戻し続けていると、視線を感じた。


 ハルナさん。


「何、ハルナさんもオウルをもしゃくしゃにしたいの」


「したくない、とは言えないわね。可愛いもんオウル君」


「ぼく、かわいい?」


「かわいいから左の羽根伸ばせ」


「はーい」


 絡んでいる部分も丁寧にほどいてやる。


「いいなあ」


 ハルナさんが呟いたので、オレは手は止めず視線だけをハルナさんに送った。


 体育座りの膝で肘を立ててこっちを見ているハルナさん。


「オウルを持ってるオレが羨ましいってか?」


「ううん違う。いえ、違うって言うのはオウル君を持ってるあなたが羨ましくないはずがないのであって」


 難しい言葉回しを使うなあ。


「こんな風に、パーティーを組めるなんて、思ってなかったから」


「?」


 そういや、入試の時は、ハルナさんは単独行動だったっけ。オレたち三人を見切ってさっさと学校へと向かって行った。父親が勇者で受験内容を知っていたから、ダガーや傷薬を持ってきて、一人で何体ものモンスターを仕留めていた。


「無受験入学した人って、大抵単独行動?」


「そうね。基礎知識があるから、他の人たちと組んでもそっぽ向かれるか任されっきりになるかのどちらかよ。それなら最初から一人で訓練を受けるか、同じ無受験入学の人と組むか」


「てか、ハルナさんなら十分それでやってけたんじゃないか? なのにどうしてわざわざ受験を」


「悔しかったからよ」


「悔しい?」


「親が勇者ってだけで特別扱いされるのを望むような奴と、一緒にしないで、て感じかしら」


「あーそれはハルナさん嫌いそうだ」


 やっと羽毛半分が落ち着いたオウルの、今度は念入りにモシャられている背中を整えてやる。今度からブラシも持ってきたほうがいいなあ。だけどさすがにいらん荷物が多いと博にツッコまれそうだ。


「わたしが風の魔法制御不能なのも原因かしらね。学校なら父と違う教え方をしてくれると思ったから」


「そうだ、制御はうまくいってんの?」


「土の魔法なら、威力は弱くて実用的ではないけど、結構使えるようになってきた。あなたが視野を変えてくれたおかげ。ありがとう」


「いや、思いついただけだから何の必要もないよ」


 オウルの風切り羽の付け根辺りのもしゃくしゃを何とか整えて、ようやっとふっくらオウルに仕上がった。


 オウルは跳ねてオレの胡坐をかいた足の間に落ち着く。


 ふくふくと幸せそうに落ち着くオウルを見て。


「いいなあ」


「それはどっちのいいなあ?」


「オウル君が傍にいてくれて、いいなあって」


「今度はそっちかい」


 オウルはオレの傍にいることがほとんどなので、確かに他の三人にモフれる時間は少ない、が……。


「だから使い魔で好きなモフを呼び出せって。そしたら二十四時間年中無休で好きな時に好きなだけモフれる」


「オウル君がいい」


 あ~あとハルナさんは溜め息をついた。


「あの時、使い魔の巻物を持ってきてればなあ、そうすればオウル君、わたしの使い魔かもだったのに」


「ハルナさんはそんな緊急性のない魔法の巻物なんて持ち歩かないでしょ」


「その通りよ」


 そこでハルナさんは言葉を切って、溜め息一つ。


「私、兄弟いないから。まるで弟みたいで、いいなあって」


「オレも兄弟いないぞ?」


「だったら分かるでしょ、小さい頃兄弟欲しくなかった?」


「まあ、ガキの頃は」


「特にわたし、もう妹も弟も生まれないの分かってたから」


「……御両親が病気かなんか?」


「いいえ。言ってしまうとね。……わたし、生殖能力がないのよ」


「は?」


 少し考えて、オレは答えを導き出した。


「子供は作れないってこと?」


「そう」


 ハルナさんは髪をかき上げた。


 今まで淡い茶色の髪で隠されていた耳は。


 微かに先端が尖って見えた。


「もしかして」


 オレは一つの単語に思い至った。


「ハーフエルフとか、そう言う人?」


「そう」


 ハルナさんは溜め息をついた。


「父が日本の勇者。母がレシティって世界のエルフ」


「お父さんが勇者じゃなかったら、生まれてなかったね」


「違う世界の人間の間に生まれる子供は、ワールドハーフと呼ばれる。まず滅多にいない。同じ人間だと言っても、種としては限りなく近いけど同一とは違うから」


 ましてやエルフと人間なんて。天文学的な数値の奇跡が起きなければ生まれなかったのだと、ハルナさんは言った。


「で、本来生まれるはずのない子供だから、生殖能力はない」


「…………」


 何と言っていいのか分からない。


 弟妹が絶対生まれない、自分も子供を残せない。


「何て言うか、わたしが後世に残せるものはないって思った」


「だから、勇者に?」


「ええ、こんなわたしが後世に残せるのは、伝説と結果だって思ったから」


「伝説と結果?」


「勇者が世界を救ったという伝説と、滅びなかった世界という結果」


「……ああ」


「ワールドハーフ……異次元間の子供は大体一代限りの分、非常に強い能力を持っている。わたしの魔法で風が暴走したのを見たわよね。肉体的にも強いから、勇者になるしかないのよ。大体親のどちらかは勇者だから、親が力を伸ばすことができる」

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