第53話・モンスターがいるけど普通に日本の森です
オレたちは、暗い森の中に入っていった。
案の定、出るわ出るわ。
コボルト、ゴブリン、オークと言った人型から、バネザルや齧りリス、巨大ネズミと言った獣型、巨大蜘蛛や巨大ムカデの昆虫系、はてはどでかい猛禽類まで、大歓迎してくれた。
おかげでこっちはてんてこ舞い。
オレとハルナさんで隊列の先頭と後方について、ザックザックとなぎ倒す。
ミスリル装備にかなうような攻撃力な防御力を持ったヤツはいないけど、その代わり数が多すぎて体力の削られること削られること。
真ん中で守られているおっさんは戦闘の邪魔にならないよう、しかししっかりとモンスターが出てきた方向などをメモっている。
もー後から後から後から後から!
「オウル!」
那由多くんが叫んだ。
「空から、この辺りのモンスターがどうなっているか見えるかい?! 鳥に気を付けて見てくれ!」
オウルはすかさず飛び上がる。
森の木々の隙間に身を治めて、ぐるっ、ぐるっと首を回し、そして戻ってきた。
「このあたりのこわいの、みんなここにいる。でも、もうこないみたい」
「全部集まった?」
「たぶん」
那由多くんは杖を掲げ、精神を集中する。
「僕の周りに固まって! オウル、君もだ! 今度は上空まで覆うから!」
オウルが慌てて戻ってきたところで、那由多くんの呪文は完成した。
「暗炎壁――」
包んだだけじゃモンスターは倒せねーぞと言おうとした、次の瞬間。
「爆散っ!」
ごう、と音を立てて、黒い炎の壁が爆発的に広がり、火花を弾けさせ、爆風を生み出して熱風を辺り全体に吹き散らした。
「ぎゃあっ!」
「ぎゅい、ぎゅいっ」
「クアッコクアッコ!」
爆散した暗炎に、オレたちを取り囲んでいたモンスターたちは相当な打撃を受けた。先頭にいたヤツはズタボロになって倒れ伏し、後ろにいた奴は熱風で少なからず火傷を負い、散り散りに逃げていく。
「すごい」
オウルが関わる時以外はクールなハルナさんが言った。
「すごい、すごい、すごい、すごい!」
「成功してよかった」
杖に縋りついて、那由多くんは息をついた。
「何やったんだ? 一体何をして……」
「暗炎壁の勢いを外に向けて爆発させるんだ」
ついでに座り込んで、那由多くんは説明を続けた。
「本来は拷問用の魔法なんだ、炎の勢いを内側に向けるって言う……でもそれを改良して、外側に勢いが向かうようにしたんだ。囲まれた時用に」
素人が改良したものだからかなり魔力を使ったけど、と言い訳のように呟いて、那由多くんは呼吸を整える。
「これで、かなりモンスターたちは引いたと思うけど……」
魔力がかなり減っているんだろう。肩で息をしている。体力は鍛えられても魔力の使用量や残量は分からないんだから無理もない。
「魔力回復して、それから魔力ポーションいる?」
「あるのかっ?! いるっ!! 両方っ!!」
「魔力ポーションまで持ってきてたの?」
「何があるから分からないから」
応えて、オレは那由多くんの肩に手を置いた。
「魔力回復」
紫色の光がオレの手から那由多くんの肩へと吸い込まれて行き、那由多くんの顔色も戻る。
オレは無限ポーチを探って、ガラスの小瓶を差し出した。
那由多くんは迷わず栓を抜いて飲み干す。
「っはー!」
大きく息をついた。
「回復した!」
「そりゃよかった。あんなモンスターがぽこぽこ出てくるのに那由多くんが使えなかったら大変だからな」
「やっぱり地図の役目は交代しておいてよかったよ」
おっさんはほっとしたように呟いた。
「ミスリル装備があっても対多数に強いってわけじゃないしねえ」
「今後の課題ね。四人対多数用の戦い方」
ハルナさんも呼吸を整えて呟いた。
「那由多君はもう大丈夫なの?」
「大丈夫。今の感じだったら、暗炎壁爆散を三回くらいはぶっ放せる」
「よかったよかった。魔力回復にも限度があるから、考えて使ってくれ」
爆散した後は、モンスターは不気味なほどに鳴りを潜めた。
あれだけの爆発とそれに伴う熱風は、モンスターたちに余程効果があったんっだろう。
「……っと、そうだ、ちょっと右にそれてもいいかい?」
「いいけど、どうしたのおっさん」
「ちょっとね、多分この先にあるだろうから」
おっさんの言う通り森の中を歩くと、明らかに何かが踏み固めてできた道のようなものがあった。
「?」
「私が図書室で見た学校の歴史なんだけどね」
「へえ。そんなのがあるんだ」
「多分、この先に、まだあるはずなんだ。一度ご挨拶しないと」
「挨拶?」
「もう見えるはずだよ」
不意に急勾配の坂と、明らかに人の手による石の階段があった。その前には石造りの鳥居。
「え?」
「ここは、昔から神の宿る地として修験者や忍者なんかが修行に入っていたというんだ」
「へえ?」
「異世界と繋がっていて、時々妖怪なんかが出る山だが、それでも退治する武士や修行僧、山伏、そんな人たちがこの山を秘密の聖地として崇めていたんだ。その名残がこのハザマ神社だ」
「へえー!」
見上げて、感心する。
「せっかくここまで来たんだから、一度お参りしていこうじゃないか」
「そだね」
オレたちは階段を登り始めた。
結構な階段だけど、体力に自信のついてきたオレたちはさして苦も無く進む。と言うか、ここまで登ってまだ足が重くなっていないのがびっくりだ。
そして登り切ると、石造りの狛犬が二頭、そしてその奥に小さなお社があった。
「ちゃんと整理されてるけど、誰が管理してるのかしら」
「獣牙先生だよ」
「マジ?」
「獣牙先生はこの山の管理が仕事。だからこの神社の管理も仕事なんだ」
「は~……」
この広い山を管理するだけじゃなく、神社が荒れないように管理して……。
あんな細い体でよくできるな。
雑草も生えていない石畳みの道を進み、お社の前まで来て、一応何かの時の為雄オレが無限ポーチに入れてたお財布(またハルナさんに呆れられたけど)から小銭を出して、さい銭箱に放り込むと、手を合わせた。
「どうするの?」
「二回頭を下げて、手を……はないな、羽根を打って、もう一回お辞儀するんだ」
オウルに参拝の方法を教え、全員それぞれ何かを願った。
オレ?
オレはとりあえず無事卒業できますようにだ。卒業して就職できなきゃオレの居場所マジでなくなるもん。
「お参りも済んだし、じゃあ、地図作り、再開しようか?」
おっさんが地図に神社のマークを書き込んで、聞いた。
「賛成ー!」