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第46話・知らない土地を歩いてみたい

 一旦装備した一式をきっちり箱の中に収めて、オレたちは寮へ戻ることにした。


「で、冒険がしたいって言ってたけど」


 ハルナさんが、これだけは箱に収めなかった剣を背中から吊るしている。ミスリルなのに重いという剣は、持っている間はその魔力が効くって言うから、多分ハルナさんは日常でも持ち歩くつもりだ。


「どんな冒険がしたいの?」


「そりゃあ……ゲームみたいな」


「そんなあやふやな考えで冒険に行くの? 勇者のやることじゃないでしょ」


「オレたち、まだ勇者じゃない」


「魔勇者だ」


「勇者じゃなければなんだっての」


「……無視するな」


「敢えて言うなら、冒険者、だな」


「……まあ、ね」


「勇者と冒険者はどう違うんだい?」


「やってることは近い」


 おっさんの質問に、オレは考え考え答えた。


「お宝やアイテムのあるダンジョンに潜ったり、人の相談に乗って事件を解決したり。知力と体力と時の運を武器に、色々な厄介ごとを引き受ける」


「勇者との違いは?」


「勇者は人助けのため。冒険者は自分の稼ぎのため」


「なるほど……つまり万厄介ごとを引き受けて、それを金銭にしているのが冒険者だ、と」


「そゆこと」


「魔勇者には相応しくない」


「今のオレたちはアイテムを揃えなきゃいけないし、冒険の実践も必要だと思うんだ。野営とかも練習しとかなきゃいざって時に困るだろうし」


「……お願いです無視しないでください」


「なら魔勇者にこだわるなよ。オレたち勇者としては卵状態なんだから、その上に魔をつけるなんて図々しいこと言える状態じゃないんだ」


「…………」


「確かに野外活動も、実践が必要ね。キャンプしかしたことのない人たちばかりでいつ襲ってくるか分からないモンスターを警戒しながら休むなんて慣れておかないと、次の日寝不足でろくに行動できなくなるわよ」


「野営……」


「確かにな、ゲームみたいにテント張って一晩明けたらヒットポイント回復とかにはならないだろうな」


「そうよ。一人は必ず起きてなきゃだし、起こされてもすぐ覚醒せず寝ぼけてたらそこでモンスターに一撃を食らうわ」


「ベッドでぐっすり、ってわけにはいかないか」


「言っておくけど、町の宿屋でも近いからね」


「え?」


 きょとん、と那由多くんがハルナさんを見る。


「宿屋が真っ当じゃない場合だってあるんだから。下手をすれば暗殺者に狙われて、その宿屋は……ってこともあるのよ?」


 那由多くんの顔が真っ青になった。


「それに、本人すっかり忘れてるかもだけど、神那岐くん、以前あなたは現実に狙われてるから。相手の正体がわからないうちは動かない方がいいわ」


「こっちが動けば相手も動いてくれるかもしれない」


 ハルナさんが目をむいた。


「いや、分かってるしありがたいとは思ってるんだよ? オレの心配してくれてることは。だけど、こっちが引きこもって隠れてても、相手は学校の中にいる可能性だってあるんだ、さっきハルナさんが言ってたけど、寮の部屋で襲われる可能性だってある。……それなら、異世界で四人一緒に行動すれば逆に安全なんじゃないかなーって」


「……あら、意外と考えてたのね」


「確かに、寮だと君とオウル君の二人だけになってしまうからね……」


「だけどそれって、僕たちも狙われることになるんじゃ?!」


「あー、それはないだろ」


 オレは首を竦めた。


「あの鉱山の戦いのとき、乱戦だったから、誰でも狙えた。なのに相手はオレ一人を狙ってきた。オレだけを」


「うん、あのとき、すごいおにいちゃんへのうらみをかんじた。うらみをもってるひとにおおぜいあってきたけど、あそこまでうらんでるのははじめてだった」


「とオウルが言うくらいだから、よっぽど露骨にオレを守ろうとしない限り大丈夫なんじゃない? 第一、あの時一番確実にオレを殺す方法は、たった一発、火球爆発ファイア・ボールでも投げ込めば確実にオレは死んでた。お前ら含めてもな」


「巻き添えをできるだけ減らしたいのかもね」


 ハルナさんが少し考えて言う。


「となると、あなたが個人的にものすごく恨まれてるのよ? 覚えはないの?」


「七年引きこもりニートを誰が恨むんだよ」


「……あ~……」


「とにかく、先生に相談しよう。本当なら野外訓練はもう少し先にあるだろうけど、こちらはある程度装備も揃ってるし、ちょっと早くしてもらってもいいかもしれない」


 さすがはおっさん、まとめ上手。


「本当に僕は狙われないんだろうな、本当に!」


 那由多くんの気持ちはよーくわかるが、狙われてる方としても、結構しんどいんだよ? おちゃらけてはいるけれど、そうやらないとこっちもプレッシャーとストレスに押しつぶされそうなんだわ。第一こんな話できるのこの三人くらいだし。博は安久都先生であって、個人的な相談はしにくいし。いやそういうことこそ先生に相談しろと言われても先生を個人的に知っている場合に言うのは難しい。何て言うか、恥? を見せたくないって言うか。


「とにかく、野外訓練を受けられるかどうか聞いて見ようか」


 おっさんの言葉に、皆が頷いた。



「野外訓練ですか」


 先生は難しい顔で言った。


「確かに装備は揃った。抜き打ちテストでも好成績を収めた。そろそろ実践に……と言いたいところですが、何分まだ入学して半年経っていない卵には野外訓練は難しいと思います」


 そんなぁ。


「しかし、一度野営をしておくべきだという風岡さんの意見は正しい。と、言うことで」


 先生はニッと笑った。マテムラさんによく似た笑い方。


「手近な場所で、野外訓練を行うことにしましょう」

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