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第45話・装備が揃ったら

 ハルナさんは、オレとほぼ同じ色の鎖帷子チェイン・メイルだったけど、ヘルメット手甲ゴーントレット脚甲グリーブに繊細な飾り彫りが施されている。


「おねえちゃん、きれい! きれい!」


 オウルが羽根をばたつかせる。……だから痛いって。


「いやあ、こんな感じに仕上がるとは思わなかったねえ……ちょっと照れ臭いが」


 おっさんは琥珀色の服を着ていた。肩当ショルダーと、やはり琥珀に近い色をした手甲ゴーントレット。琥珀色だけどつやが消されていて、おっさんに似合う色になっている。腰には新品のクロス・ボウが下げられて、ついでに副武器のダガーまで吊るされている。


 一方那由多くんは、黒鉄のマントに黒鉄のローブ、それまでの学校支給の召喚杖とは違う、先端にオウルについてるのと同じような黒い石を埋め込んだ、黒鉄色した那由多くんの身長の三分の二くらいの長さのある杖を手にしていた。


「ふっ、この色こそ魔勇者に相応しい」


 バサッとマントを裁くと、時折きらりと輝く繊維が見えた。それは過剰装飾のないおっさんの琥珀色の服も同じだった。


「これが、ミスリル衣服鎧クロース・アーマー?」


 エルフのオドル―研究員が頷いた。


「ああ。ミスリルを見つけたけど全身鎧に向いていない技能の持ち主が、宝の持ち腐れなんて呟くのを聞いて、誰でも装備できるものをと考えた。ミスリルを可能な限り繊維化して、ヤサノガって魔法生物の生み出すヤサシルクって丈夫な絹と一緒に編み込む。試作品だが、自信はある。後は実地テストだけという時に依頼が来たんだ。ヤサシルクは丈夫なだけでなく敵意を持ってかけられた呪文を弱化する効果もあるから、魔法攻撃を食らいやすい後衛には持って来いだ」


「へー……」


「じゃあ、武器の試作品のテストをするから、外に出てくれ」


 外に出ると、また工房からの凄まじい轟音が耳を打つ。


 マテムラさんたちは気にした様子もなく、すたすたと歩いて行った。



 別の建物に入ると、轟音は消えた。ここにも防音魔法がかかっているんだろう。


「まずは、槍だ」


 え? オレ、そんな特殊能力つけてくれって言ったっけ?


 と、マテムラさんが独特のにやり笑いで付け加えしてくれた。


「オール後工房の職人は、伝統を守るとかじゃなく、伝統の上に工夫をプラスするんです。きっちり「余計な工夫はいらない」と言わないと、色々勝手に付け加えられます」


「いやなにそれ聞いてないんですけど」


「気に入らなかったら作り直してもらうだけです」


 マテムラさん……確信犯だ……。


 一体どんな、と思っていると、親方が一旦オレの手甲ゴーントレットを外して、手首に小さな銀の輪を巻いた。そして付け直す。


「向こうの的に向かって投げてみろ」


「はあ」


 4m先にある的に向かって、槍を投げる。


 槍は空気を裂いて、大して狙ったわけでない的に当たった。


「よし、右手を引いてみろ」


「こう、ですか?」


 グイッと右手を引くと、まるで繋がっているかのように槍が逆向きに飛んできて、オレの右手に戻った。


「どうだ! 投槍ジャベリンとしても使えて、的は決して外さない。しかも戦闘中に落としても投げても、必ず手元に戻ってくる! その上柔に見えてもミスリル製だから、敵の攻撃を盾のように受け止める事だって可能だ!」


「は~……すげえな」


「気に入らんか?」


「いや、何て言うか、武器が強すぎて、オレがかすむって言うか……」


「だから言ったろう? 武器に負けない勇者になれ、だ。それにこいつは試作品だからな、いつどんなことが起きるか分からねえ。こいつに頼りっきりになっていると、そのうち足をすくわれる」


「なるほどね、一〇〇%安全ってわけじゃないか」


「そうだ。こいつに頼り切りになった時が、お前さんが命を落とす時だ」


 オレは手にしっくり馴染む槍をじっくり見て、親方を見た。


「あんがとな。忠告、受け取った」


「おうさ!」


 ついでに、と、親方はこっちはミスリルじゃないダガーも手渡してくれた。


「補助武器は必ず持っておけ。槍は狭い所では扱えないってどうしようもねえ弱点があるからな」


 そんなオレの横では、ハルナさんが、ノームの二―ルドさんから、新しい長剣の使い方を教わっていた。


「つまり、だ。これには貴女たちの着ている運動着と同じ魔法がかけられていて、貴女の筋力に見合った重さになる。剣は刀と違って叩き壊す重さが必要だから、頑丈なだけでは武器にはならない」


「常にこの重さ?」


「ああ。貴女の筋力に合わせた重さとなる。鍛えれば鍛えるほど、ミスリルの堅固さと重さの組み合わさった武器になる」


「なるほどね。この剣が強いか弱いかはわたし次第ってわけ」


「その通り」


 おっさんは、的に向かってクロスボウを撃っていた。ただし、飛ぶのは矢じゃない。


「矢をつけてももちろん飛ぶが、それだと矢をかなり持ち歩かなきゃいけない。このクロス・ボウは、魔法の矢を撃つことができる」


「つまり矢を持ち歩かなくてもいいと?」


「だが、なんせ試作品なんでな、魔法の矢は連打できない」


「なるほど、いざという時の一撃必殺というわけですか」


「そうだ、せいぜい10分に一発が限度だから、それを覚悟してくれ」


「分かりました」


 那由多くんはムラモト爺さんと杖について話し合っている。


「この杖は僕の魔力に合わせて調整されている?」


「そうじゃ。計測の時に髪の毛を数本もらったろ? あれで魔力を読み取り、この石に魔力の波動を刻んである。精神を集中させる効果を持っている。その魔力を編み込んであるのでな、魔法をかける手助けになるじゃろう」


「なんか僕のだけ他の人に比べて地味な効果じゃない?」


「何を言うか! 魔法の召喚杖は魔法の手助けをするもの、効果を狙うものじゃないわい! その魔法を使うお前さんが武器に特殊な効果は必要ないじゃろう!」


「……はい、ごめんなさい」


 また叱られてら。


「あら、オウルも作ってもらったの?」


 小さい胸を張って、わざわざ銀に黒い石がついた輪を見せびらかしそうなオウルに気付いたハルナさんが聞いてくれた。


「うん! これで、ぼく、ただのしりょうじゃないんだって! やみであってやみでないんだって!」


「よかったわね」


「うん!」


「じゃあ、全員、これでいいか?」


 はーいという返事が返ってきた。


「言っておくが、こいつらは試作品だからな。いざって時に何かあっても責任は取れねえ。命かかってる時に思ったような効果が出ないって怒るようじゃ、勇者失格だぞ!」


 確かにな。


 強力な武器は一癖持ってるってのが常識だ。それに頼りきりじゃ勇者とは言えない。


「じゃあ、引き渡し書にサインをお願いしますね」


 マテムラさんの指示でサインを書いて、オレたちの新たな装備が揃った。


「新しい装備が揃ったら、何する?」


「そりゃあ……冒険でしょ」


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