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第44話・装備完成

 それから、一週間。何もなかった。


 一生懸命体力と筋力を鍛え、魔法を使えるように訓練し、得物の使い方を覚え、様々な歴史を学ぶ。


 だけど、四人とも浮足立っているのは間違いなくて。


 注文した装備がいつ出来上がるかって、足音がすればドアを見る。人の気配がすればそっちを見る。その度にオウルに「ちがうよ?」と言われ、先生に「注意力散漫」と怒られる。


 そして一週間後。


 本日最後の授業


 魔法座学の授業中に、教室備え付けの電話が鳴った。


 先生が授業を中断して、電話を取りに行く。


「はい、第三科、安久都です」


 先生は無表情で電話を取って、しばらく、はい、はいと言った後、電話を切って、教卓に戻って授業を続けた。


 おかしいな。


 違和感を感じたのは、それ。


 あの電話は主に職員室からかかるもので、何か教職員に緊急の連絡がある時に使われる、はずなんだけど。


 先生は何事もなかったかのように授業を続ける。


 思い返してみれば、安久都先生……いや博は、重要な事でも後回しにできることは全て後回しにするタイプだった。


 となると、これも後回しにしていい話だったのかな?


 疑問に思いながら、授業を続けてチャイムが鳴った後、先生は言った。


「はい、今日の授業は終わりです。それと、オール工房より注文の品が完成したので取りに来てほしいとのことですので」


 みんな一斉に立ち上がった。


「さっきの電話って、もしかして!」


「はい、その連絡です」


「何で言ってくれなかったんですか!」


「授業中でしたから」


「楽しみにしてるのは知ってただろう!」


「だからです」


 先生はすまし顔で答えた。


「あの時言ってしまえば、そのまま教室を飛び出すか、待ったとしても授業に身が入らなかったっでしょう。これまでのように」


 う……。


 確かに一週間、オレたちはそわそわしっぱなしだった。


 これまで、学校の借り物だった装備が、オレたち専用に作られたものになるなんて、想像しただけでもワクワクするよな。土田のおっさんも那由多くんもハルナさんも、何か作ってもらえるってことでそわそわしてた。


 確かに、授業に身が入ってなかったけど……。


「授業が終わりましたので、あとは皆さんのお好きなように」


 オレたちは立ち上がると、一斉に走り出した。




「……ほら、こうなるじゃないか」




 一番体力のないおっさんすらオール工房までノンストップで走っていた。


「こ、んにちは!」


 ドアを開けるとマテムラさんがこっちを見た。


「ああ、お待ちしていましたよ」


「装備は! 装備!」


「はい落ち着いてください。ちゃんと準備できてますから」


 マテムラさんは椅子から飛び降りて、奥の部屋へのドアを開けた。


「待ってたぞ」


 ドワーフのテ・スコー親方、エルフのオドル―研究員、ノームの二―ルドさん、ノーマルのムラモト爺さんの四人がそこにいた。


「遅かったじゃねぇか、ぁあ?」


「先生が授業が終わるまで出してくれなかったんだ」


「まあいい、注文の品は揃った」


「見せて見せて早く見せて」


「ぼくのあるの? ぼくの?」


「おう、順番に出すから待ってろ」


 それぞれ個室に入れられて、後からテ・スコー親方が入ってきた。


「じゃあ、まず鎖帷子チェイン・メイルからだ」


 親方が取り出したのは、シャランと音を立てた、精細な白金色の鎖で編み込まれた鎧だった。肌を傷つけないように内側には革鎧レザー・アーマーが張られている。


 頭からかぶってみたら、しゃらしゃらと音を立ててミスリルのチェーンが鳴り、オレの身体にぴったりフィットした。


「腕を上げ下げしてみな」


 ちょうど肩当付きの半袖ベストのような鎖帷子チェイン・メイルは、オレの腕の邪魔にならなかった。


 親方はオレの腕を掴んで動かしたりして、邪魔にならないか調べた。


「これからのお前さんの体格の変わり方もある程度計算に入れてあるが、窮屈になったら言って来い。直してやるから」


 そして、台に上って白金色のヘルメットを乗せてずれないか確認し、腕に手甲ゴーントレットを、足に脚甲グリーブを装備させ、ぐるっとオレを一回転させた。


「よし、これでどうだ?」


 立てかけてある鏡を、オレの方に向けた。


「うわあ……すげー……」


 勇者っぽい。勇者っぽく見える。


 馬子にも衣装というけれど、これなら一旅人から戦士にレベルアップした感じがする。


「で、これ、だ」


 親方が差し出したのは、白金色の槍だった。


「これが……」


 持ってみる。


 オレの手にしっくり馴染んだ。


 軽く振ってみる。


「すげえ……」


 簡単に振り回せる。ひゅんひゅんと風を薙ぐ。


「槍を選んだのはなんでだ?」


「武器の先生に色々聞いたけど、やっぱり完璧素人のオレには敵とある程度距離を取って戦えるし扱いやすい槍が一番使い勝手がいいって言われて」


「なるほどな」


 カッカッカと親方は笑った。


「まるで知らない素人勇者だと、やっぱり剣を持ちたがるんだよ。だけどな、あれは剣術を覚えないと、まるで意味がない。槍は敵を近付けさせないし飛び道具にもなる、狩りにも使える。色々便利だ」


「なるほどー。それで先生がオススメしてくれたんだー」


「そう。素直に従うのもいい生徒だ」


 オレの背を叩いて、親方は笑った。


「色の希望がなかったから、俗にミスリル色と言われるこの色にしたが」


「いやー、いいわこれー。オレも一人前に見えるー」


「装備に着られてるようじゃダメだぞ、きっちり見合う勇者になれ」


「はい!」


「それと、お前さんには、これだ」


 それまで大人しく鏡の上にとまっていたオウルが興奮して羽根をバサバサさせる。


「どんなの? どんなの?」


「ちょっと下りてこい」


 左腕にオウルを止まらせると、白金色の真ん中に真っ黒い石がついた輪を、オウルの首に回し、パチン、と音を立てて止めた。


「魔除けの黒水晶モリオンだ。闇に取り込まれねえための強力な守り石だ」


 喉に銀の輪を、正面に黒い石がくるようにつけたオウルは更に興奮して小部屋の中を上がったり下がったりしていてた。


「すごいよ! いやなきんぞくだったのに、いいきんぞくになったよ!」


「あたりめえだ! ムラモトに頼んでお前さんの波長と合わせたんだ、その黒は破魔の色、お前さんの振るう力は闇であっても闇でない、勇者の力に等しい!」


「わーい!」


 小部屋中を駆け巡って喜ぶオウルを落ち着かせるのが大変だった。


「とりあえず出るぞ? みんな待ってるからな」


「はーい!」


 オウルはようやく落ち着いて、左肩にとまった。


 オレも出る。


 そこには全員が新装備をまとって待っていた。

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